「Thinkstock」より

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 今、国を挙げて教育改革が進められようとしていることをご存知でしょうか。第2次安倍政権が発足と同時に、経済再生と並ぶ国の最重要課題と位置づけられた教育再生。政府直属の教育再生実行会議が立ち上げられ、2013年2月からこれまでに10回にわたってさまざまな提言がなされてきました。その提言を受けて、文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)や文科省内で具体的に施策化され、一部が実施され始めています。

 しかし、なぜ今教育改革が進められようとしているのかを理解している人は少ないかもしれません。そこで、なかでも教育界全体にインパクトを与えるといわれている、大学入試制度の改革について、その内容と狙い、背景について解説をしていきます。

●20年度から「センター試験」に代わる「大学入試共通テスト」実施が決定

 15年10月に出された教育再生実行会議の第四次提言「高等学校教育と大学教育の接続・大学入学者選抜の在り方について」で、実質「センター試験の廃止」が盛り込まれたことは、当時大きな話題になったので、ご存知の方も多いかもしれません。その後検討が進み、大学入試センター試験が、20年1月(19年度)の実施を最後に廃止され、21年1月(20年度)から新しい共通テスト「大学入学共通テスト」に移行することが決まっています。つまり、今の中学3年生(17年4月時点)から、この「共通テスト」を受検することになります。

●マークシート方式に加えて、記述式問題が課される

 では、どのように変わるのでしょうか。まず、20年度からは現状と同じマークシート式(選択式)に加えて、当面は国語と数学を対象に記述式の試験が導入され、24年度以降からは地理歴史・公民や理科分野に広げることが検討されています。

 具体的には、現時点では国語はマークシート式とは別の大問を設け、80〜120字程度で答える問題が3問程度(古文・漢文を除く範囲から)出題され、試験時間は20分程度延長されます。

 数学は、「数学1」「数学1・数学A」【編注:1の正式表記はローマ数字、以下同】受検者を対象に、「数学1」の範囲から3問程度出題され、試験時間は現行より10分程度延長されます。これらの内容は、文部科学省が公表した「高大接続改革の実施方針等の策定について」(平成29年7月13日)の内容によります。

 英語の4技能(読む・聞く・話す・書く)を評価するために、TOICEや実用英語検定など民間の検定試験を活用して、高3の4〜12月の間に受けた2回の成績を大学に提出。ただし、移行期間として、23年度までは、従来のマークシート方式のテストを併存させることが決まりました。

 2年前に教育再生実行会議がこの提言をした際には、従来の大学入試が1回の試験の結果だけ、しかも1点刻みで合否が決まる現状を憂い、複数回受験の機会を設けることも提言されました。また、記述式問題は採点に時間がかかるため、1月に実施するマークシート式の試験と試験日を分けて、数カ月早めることも検討されました。しかし、高校側から入試の前倒しに反対する声が強く、試験日は現行と同じく、1月中旬2日間にわたって実施となりました。さらに、記述式問題が、50万人以上が志願する共通テストで公平に採点できるのか不安視する声が大学・高校の双方にあるのも事実です。

●世の中の変化に伴い、求められる能力も変化

 しかし、国は「先行きが予想しづらいこれからの社会では、知識の量だけでなく、自ら問題を発見し、答えや新しい価値を生み出す力が重要になる」という考えから、こうした時代に役立つ力の育成を教育改革の柱としていて、受験生の「学力の3要素」について、多面的・総合的に評価する新テストを導入するということに関しての揺らぎはありません。

「学力の3要素」とは、(1) 知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力、(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度の3つ。特に、「知識・技能」だけでなく、大学入学段階で求められる「思考力・判断力・表現力」を中心に評価するという考え方が今回の大学入試改革のベースにあります。

 これまで、一部の大学の入試が重箱の角をつつくような細かな知識が必要な問題が出題されたり、解答パターンを覚えれば解ける問題だったりして、受験生が暗記中心の勉強に時間を割かざるを得ない状況をつくっていると批判されてきました。つまり、大学入試ががんとなって、日本の教育が知識偏重に偏っているというわけです。

 そこで、文部科学省は各大学の個別選抜についても、思考力・判断力・表現力をより必要とする長文の記述式や小論文、面接や討論など、試験の方法を多様化することや、教科学習の成績に限らず、高校時代の経験を評価する選抜を増やすように働きかけていて、その先駆けとして、平成28年度から東大が推薦入試を、京都大学が特色入試を始めています。

 今回の大学入試制度の見直しは、センター入試の廃止で終わるわけではありません。変化が加速する時代に対応する能力を育成するために、日本の教育全体を変えていかなくてはいけないという危機感が文科省にもあるからです。教育改革の目玉として、大学入試制度にメスが入れられたことは、大きな意味があります。それは、川上の大学入試が変われば必然的に、川下の高校・中学そして小学校の教育も変わるからです。

 次回以降は、今回の教育改革の狙いについて掘り下げていきます。
(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト)