安倍首相は2018年4月以降も黒田総裁に続投させるのだろうか(撮影:尾形文繁)

台風21号が日本列島に接近した22日投開票の衆議院選挙は、事前予想どおり自公で3分の2(310議席)を超える圧勝となった。野党分裂の追い風があり、希望の党の小池代表の「排除」発言が「ユリコノミクス」ではなく、「ユリコのミス」だった。安倍首相が政権与党を奪還した2012年、2014年と今回で衆院選は3連勝。歴代の自民党総裁では最多回数で、来年2018年9月の自民党総裁選での3選もほぼ確実(2021年までの長期政権化)とみられる。この結果はアベノミクスが信任を受けた形となり、当面は日銀による大規模な金融緩和が維持されよう。

日経平均株価は23日に15日続伸で最長記録となった。解散風が吹いた9月19日に2万円台を回復、10月以降は海外勢主導の本格的な買い(アンダーウェートからの転換)で上昇に弾みがついた。ただし15日間の上昇幅は1340円(上昇率は6.6%)程度にとどまる。日本の景気拡大局面も今年9月で戦後2番目の長さとなったが、実感なき景気回復といわれる。今後のアベノミクスは、地道な成長戦略への取り組みを続け、将来の不安を和らげ、実感ある景気回復を目指すことが求められよう。

海外勢は日経平均2万3000円を視野に

一方の米国も市場の関心がハリケーンの被害から復興期待に変わり、税制改革期待も連なってNYダウが2万3000ドル台と最高値更新の快進撃を続けている。日米の共通点は、良好な経済環境のもとで、企業の業績期待を伴っていることだ。今後は国内企業の業績見通し発表を受け、米欧に比べた割安感が再び意識され、先高期待が盛り上がればPER16倍まで買われてもおかしくはない。


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海外勢は日経平均2万3000円(バブル崩壊後の戻り高値、1996年6月の2万2666円)を視野に入れつつある。短期的な過熱感(移動平均からの乖離、騰落レシオの過熱感)に上値を抑えられても、すぐに急激な下落や調整局面に転じる可能性は極めて低いとみる。足元では北朝鮮リスクが和らいでおり、不測の事態とならなければ、株高持続の機運が高まりそうだ。

安倍政権の長期安定化に伴い、市場では黒田総裁の続投説が高まろう。通常であれば、日銀正副総裁人事は年末年始の頃に佳境を迎える。そして国会同意人事として提出されるのは、2月下旬頃となる。今回、早くから続投説が流れるのは異例であり、アベノミクス3本の矢の1つである異次元緩和を、安倍政権が高く評価しているにほかならない。

次期総裁で焦点となる出口戦略

次期日銀総裁には、出口戦略について早急に議論を進めてもらいたい。現在の金融緩和の枠組みのままでは、いずれテクニカルな国債買い入れの限界、市場機能の低下、金融機関の収益減少などいろいろな壁にぶち当たっていく。黒田総裁には、2016年9月に導入した長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)について来春までの任期中に総括検証をして欲しいが、本石町(日銀本店)では焦ってやる雰囲気が感じられない。検証しないのであれば、次期総裁が最初の仕事として取り組むべきだ。

マイナス金利の副作用は、時間が延びるほど大きくなる。2018年度まで現状維持なら、保有債券のデュレーションが短い金融機関では赤字決算に追い込まれる可能性がある。マイナス金利の撤廃が無理ならば、せめてイールドを立たせることで、長短スプレッドを拡大させることが望ましい。異次元緩和は胆力のある黒田総裁だから成し遂げられた大転換だ。それを閉じる方向に持っていく、出口戦略を軌道に乗せるためにも、やはりかなりの胆力が必要であろう。

また、日銀総裁は金融政策決定会合での議長として、議論をとりまとめる重要な役割がある。黒田総裁になってから、議事要旨では賛成派と反対派(7月に退任した佐藤健裕委員、木内登英委員)が意見を交わして、議論が白熱する様子は感じられなかった。次期総裁には、議長としてもっと議論がかみ合う雰囲気づくりをして欲しい。9月に反対票を投じた片岡剛士委員は、10月会合で具体的な緩和強化策を提案する可能性がある。執行部の意向とは異なるため、黒田総裁は現在の緩和政策を粘り強く続けることを強調するだろう。

次期総裁に求める資質としては、金融・経済に関する知見は当然ながら、それ以外に豊富な国際的人脈、英語のディベート力、日銀という組織への理解という3点を挙げたい。

米国、欧州が出口戦略を進める中で日本だけが緩和状態をそのまま維持すると、2018年は金融政策のベクトルの違いで為替が動く可能性が高まる。円安地合いが継続しやすく、海外から注文や不満が寄せられる可能性がある。これに対応するには、国際会議で渡り合えるだけの人脈と英語のディベート力が求められる。財務官出身の黒田総裁は、この資質を備えている。

一方で日銀という組織を知っているほうが、出口戦略を早く進められるのではないか。副総裁経験者であれば決定会合での議論の流れや、事務局とのやりとりを熟知している。以上より、筆者は財務官経験者、副総裁経験者が望ましい人物像と考えている。

中曽副総裁の講演には白川前総裁の香り

次期総裁に望ましい人物として、市場での人気No.1は中曽副総裁だ。最近の中曽副総裁の講演は、白川前総裁を彷彿させる政策を振り返るものが続いている。5日のロンドン講演で、「今度こそ、真の夜明けが近い」と強気な発言をした。任期も残り半年を切り、環境は整ったと異次元緩和の成果をアピールしているかのようだ。強気の論拠は、労働市場の改革を進めることで、労働生産性が高まっていくというもの。白川前総裁こそ生産性の向上が重要だと力説していたことが懐かしい。

18日のニューヨーク講演の題目は、「進化する金融政策:日本銀行の経験」。ゼロ金利制約を乗り越えるための4つの進化を挙げている。(1)金融政策の操作目標を、より長めの金利にシフトすること(長期国債買入れ、フォワードガイダンス)、(2)リスク資産の買い入れなどを通じて、リスク・プレミアムに働きかけること、(3)短期の名目金利にマイナス金利を適用すること、(4)人々のインフレ期待に働きかけることを通じて、実質金利を引き下げる。これらのアプローチは、いずれも日銀が辿ってきた道だ。

(1)と(2)は白川時代から取り組んでいたが、黒田日銀で買入れ規模が大きくなった。(4)は、2013年3月の白川総裁退任会見で、期待に働きかけることの危うさを語っていたことを思い出す。なお中曽副総裁は、現在のYCCについて、「副作用をできるだけ小さくしながら、最適な金利水準を実現していく必要」「必要であればイールドカーブの形状についても調整を行っていく方針」と語り、柔軟姿勢だ。

日銀は2013年1月発表の政府との共同声明で謳われた、2%の「物価安定目標」をできるだけ早期に達成するという文言の制約を受ける。とはいえ、2019年度頃の2%達成は絵に描いた餅だ。より実現的な政策議論を進めていくためには、2つの方法が考えられる。

1つは、政府がデフレ脱却宣言をし、2%は中期的な目標との位置付けに変えることだ。もう1つは、日銀が金融政策運営において、2%目標の自らの解釈を柔軟化させること(オーバーシュート型コミットメントの修正、新たなフォワードガイダンスの構築)だろう。新体制ではYCCの総括検証に加え、物価目標の解釈の柔軟化にもすぐに取り組んで欲しい。