次世代タクシー「JPN TAXI」が”出発”。豊田章男トヨタ自動車社長(右から2番目)を始め、石井啓一国土交通相(同3番目)、川鍋一朗全国ハイヤー・タクシー連合会会長(同4番目)など業界関係者が一同に集まった(撮影:大澤 誠)

「タクシーで東京の景色を一変させる」。日本のタクシーが2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて大きく変わりそうだ。

10月23日、トヨタ自動車の豊田章男社長、全国ハイヤー・タクシー連合会の川鍋一朗会長(日本交通会長)、石井啓一国土交通相などが一同に集まり、“次世代タクシー”の出発式を実施。関係者はこぞって決意を述べた。

次世代タクシーは、古典的な「クラウンセダン」や「クラウン・コンフォート」のセダン型から、スライドドアのあるミニバン風にスタイルを一新。世界的に有名な米ニューヨークの「イエローキャブ」、英ロンドンの「ブラックキャブ」に並んで、TOKYOの顔にしたい考えだ。

豊田社長は「3年後のオリンピックで来日したお客さんに対して、日本のタクシーってすごいなと思ってもらいたい」と話し、川鍋会長も「世界最高の乗務員が乗る世界最先端の最高のタクシー専用車両ができた。日本のタクシーはやっぱり世界一だと思ってもらいたい」と意気込む。

燃費性能は倍近くに向上

トヨタは国内のタクシー車両で約8割のシェアを握る。この日全国のトヨタ店とトヨペット店で発売開始した次世代タクシー「JPN TAXI」(ジャパンタクシー)は、トヨタとして実に22年ぶりとなる刷新だ。

価格は327万円から。現行車両より100万円程度高い水準だが、環境や安全にも配慮し、エンジンは現行の液化石油ガス(LPG)から、電気モーターを組み合わせたLPGハイブリッドタイプに変え、燃費性能は倍近く向上した。さらに最新の衝突回避支援パッケージ「トヨタ・セーフティセンス・C」を標準装備するとともに、サイド&カーテンなど6つのエアバッグも搭載し安全装備を充実させた。

テーマは日本の“おもてなしの心”だ。ミニバン「シエンタ」をベースに開発し、従来のタクシーと比べると、高さは1割以上高く1.7メートルを超える。後部左側のドアは大開口の電動スライドドアにしたほか、低床フラットフロアを採用し、乗降しやすくしたことが特長だ。

大きな荷物を持った外国人観光客から高齢者、子どものほか、車いすの人でもそのまま誘導しやすいユニバーサルデザインに変更。室内は窓も大きく開放感があり、乗車中に外の景色を満喫しやすい。

日本を象徴する「深藍」を採用


「JPN TAXI」の運転席。かゆい所に手が届く作りだという(撮影:大澤 誠)

トヨタとタクシー業界は6年かけて共同開発してきた。会見で川鍋会長は「3年前に(日本交通の)千住営業所にトヨタのエンジニアが10人来て、メーターや架装を全部外して机に並べたうえで、多くの質問を受けた。その結果、A4の日報入れやPETボトルの収納場所などかゆい所に手が届く作りになった。タクシー乗務員のことを徹底して考えていることは、足を一歩踏み入れればわかる」と話した。

後部右側のドアを左側と同じスライドドアにせず、片開きドアにしたのも、乗務員の意見を取り入れたためだ。右側をスライドドアにすると、後続車からドアの開閉が認識されにくく、接触などの危険度が増す。トヨタにとってはドアの開発投資などが二重にかかることになるが、安全性を重視した結果、左と右でドアの形状を変えた。


後部座席は体の大きい外国人でもゆったり座れる。ドアは左側のみスライド式を採用した(撮影:大澤 誠)

色にもこだわった。ニューヨークが黄色、ロンドンが黒に対して、ジャパンタクシーは古くより日本を象徴する色として藍色「深藍」(こいあい)をメインカラーに採用した。

導入は東京を拠点とする大手タクシー会社から始まり、徐々に地方にも広がる見通し。川鍋会長は東京オリンピックまでに都内で3台に1台、約1万台を次世代タクシーに変え、オリンピックのロゴも入れたいとする。まずは東京でジャパンブルーである藍色に統一したタクシーを多く見かけることになりそうだ。トヨタは月間販売目標を1000台に設定しているが、19日までにすでに1300台の先行受注があるという。

トヨタとタクシーの歴史は古い。1936年の「トヨダAA型」から始まり、1953年に発売した「トヨペットスーパーRH型」など、長年にわたりタクシー業界とともに歩んできた。この日登壇したトヨタの豊田社長は「会社にとっても私にとってもタクシーは非常に大きな存在だ。タクシードライバーとメーカーが一緒になって未来の交通を作り上げていく」とタクシー業界を持ち上げた。

トヨタとタクシー業界に一時軋轢も

だが、事件は昨年5月に起きた。トヨタが配車大手の米ウーバーテクノロジーズと資本業務提携し、ライドシェアで協業すると発表したからだ。


そろって登壇した豊田章男トヨタ自動車社長(右)と川鍋一朗全国ハイヤー・タクシー連合会会長(撮影:大澤 誠)

タクシー業界にとってウーバーはいわば“白タク”で、敵以外の何者でもない。川鍋会長も「え、トヨタが?という心境。しっちゃかめっちゃかだった」と振り返る。当時タクシー業界からは「トヨタとの戦争だ」との不穏な発言も飛び出したが、この日は豊田社長と川鍋会長がそろって登壇して、“和解”をアピールしてみせた。

それでもタクシー業界の危機感が去ったわけではない。川鍋会長は「タクシー業界も進化する」と発言。「初乗り410円」という運賃値下げや定額運賃など、新たな試みも始めるなど顧客掘り起こしに必死だ。

一方、トヨタも自動車業界が100年に1度の変革期を迎える中で、ウーバーのような新興企業と組む動きを加速させている。車というハードを売るだけのビジネスから、サービスへの転換を探っているのだ。

それぞれの業界が大きく変化する中、東京オリンピックに向けて手を取り合った両者。キモ入りで開発された次世代タクシーは、顧客にどう受け入れられるか。