元彼の結婚。

適齢期の女性にとって、これほどまでに打ちのめされる出来事があるだろうか。

元彼がエリートだったら、なおさらだ。

どうして私じゃなかったの。私になくて、彼女にあるものって何?

東京で華やかな生活を送るエリートたちが、妻を選んだ理由、元カノと結婚しなかった理由を探ってみる。

先週、元彼の元妻・玲子から、結婚において重要なものを教えられた奈緒。今回は一体何を学ぶ・・・?




奈緒は、帰宅するやいなや、てきぱきと夕食を済ませ、急いでバスルームに向かった。

明日は、笠野とのデートだ。

サンタ・マリア・ノヴェッラのバスソルトをたっぷりと入れた浴槽でゆっくり半身浴しながら、iPhoneを食い入るように見ていた。

今さらながら、amazonプライムで配信されていた『バチェラー・ジャパン』にハマっているのだ。

奈緒は、彼らが繰り広げる恋愛模様に一喜一憂している。

「えー、なんであの子!?」

コメンテーター気取りの鋭いツッコミを入れながら人様の恋愛を楽しんでいるが、選ばれなかった女性の涙に、図らずももらい泣きしてしまう。

残っている候補者は5名。20代前半の女性ばかりで、「結局、若い子が良いわけ?」と、胸がチクリと痛む。

-笠野さんに一目惚れされたくらいだし、私はまだまだ大丈夫!

1話分を見終えてLINEを確認すると、笠野からメッセージが入っていた。

-明日、19時に『鉄板焼 紫野』を予約しました。
I can’t wait to see you!(早く会いたい!)

会う前からすでに、手応えしかない。

奈緒は、鏡に向かって、とびきりのスマイルを作ってみた。

―準備万端だわ♡


ついに笠野とのファーストデート!その行方は・・・?


積極的なアプローチこそ正攻法?


仕事を終えた奈緒は、入念に化粧を直した後、セルジオ・ロッシに履き替え、笠野が指定してきた『鉄板焼 紫野』に向かった。

奈緒が到着すると、すでに笠野はカウンター席に座っていた。

「改めて、初めまして。笠野といいます。突然名刺なんか渡してしまいすみません。あまりにも僕のタイプだったので。今日も美しいですね」

ストレートな褒め言葉に、奈緒の心拍数が一気に上がる。心を落ち着かせようとして、乾杯する前にうっかりビールを飲んでしまった。

慌ててグラスを持った笠野と飲みかけのビールで乾杯し、奈緒が謝るとまたもや「かわいいなぁ」と褒められ、奈緒は頰を赤らめた。




笠野は、親の方針でインターナショナルスクールに通い、スタンフォード大学を卒業、今は某コンサルティング会社のシカゴ本社に勤務しており、今回は、勤務する会社の日本法人に3週間出張中とのことだ。

笠野に勧められた「はんぺん焼き」の美味しさに感動し、奈緒が写真を撮ろうと試みたその時。

「僕、バチェラーなんだけど、奈緒ちゃんは彼氏いるの?」

「バ、バチェラー!?」

ーバチェラーって、最近ハマってる、あの・・・?

まさか次のバチェラーに選ばれたのかと、一瞬で色んな事を考える。

「バチェラーっていうのは、独身男性って意味だよ」

「ああ、そういうことなんですね。びっくりしちゃった。・・・えっと、彼氏はいません」

心を落ち着け、俯きがちに答える。

「That’s good to hear!」(それは良かった!)

ネイティブ発音過ぎて全く聞き取れなかったが、奈緒はとりあえず「ミートゥー」と言って、メインのフィレステーキを頬張った。

食事を終えると、「お茶でも飲みに行かない?」と笠野に誘われ、『ミクソロジーサロン』へ。

ここは、お茶のカクテルが有名らしいが、「お茶でも」と誘って、バーに連れてくるあたりが何とも心にくい。

カクテルをいただきながらのんびりしていると、急に笠野の携帯が鳴った。

「奈緒ちゃん、ごめん。仕事に戻らないといけなくなったんだけど、また絶対に会いたいんだ。次は、休みの日にでも遠出したいな」

-22時。今から仕事に戻る・・・?

こんな時間に呼び出されるなんて、コンサルの世界は恐ろしい。

「こんな時間に大変ですね。ええ、ぜひまた。土曜日なら空いてます」

土曜日は先週キャンセルされた千尋と食事の予定だが、ここは女同士、事情を話せばわかってくれるはずだ。ごめん、千尋・・・と思いながら答えた。

「OK!早めに計画を立てよう。LINEするね」

店を出た笠野は、すぐにタクシーを捕まえると奈緒を乗せ、ドアを閉めながら「Good night, sweetie」(おやすみ)と呟き、ウィンクした。

日本人離れした積極的なアプローチに、奈緒の心は完全に笠野に奪われていた。

お礼を送るためにLINEを開くと、すでに笠野からメッセージが届いていた。

“I’m in love with you”

すぐさま意味を検索した奈緒は、思わず赤面した。

-あなたに恋しています・・・。


元彼・晋平から突然の電話。そのワケとは?


元彼の変わったところ、変わらないところ


笠野とのデート翌日、奈緒は帰宅するなり、パソコンでオンライン英会話を調べていた。

気が早いが、もし笠野と結婚することになれば英語は必須だろう。思い立ったが吉日、英会話を始めようと思ったのだ。

ひとまず体験版に申し込むため、Skypeを立ち上げて動作確認をしていると、懐かしい名前から電話がかかってきた。

-伊藤晋平さんから着信中・・・応答 or 拒否

晋平は奈緒の元彼だ。恐る恐る奈緒が応答すると、懐かしい顔が画面いっぱいに映し出された。

「もしもし・・・?」

「奈緒、久しぶり!奈緒がオンラインって表示されたのを見たら、話したい衝動に駆られて、思わず電話かけちゃったよ」

晋平は現在、勤務するテレビ局のパリ支局に単身赴任中。証券会社で働く奥さんは、東京に残って仕事をしているそうだ。

「パリに駐在なんてさすが晋平ね。パリはどう?」

そんな他愛もない会話から、二人の話題は徐々に、付き合っていた当時や晋平の結婚、奥さん・千夏のことになっていった。



奈緒が晋平と付き合っていたのは、大学時代まで遡る。

二人の出会いは、友人に誘われて参加した食事会。当時、晋平は大手テレビ局の記者2年目。とにかく激務だった。

だが、お金はあるが時間のない社会人の彼氏と、時間はあるがお金のない学生の彼氏とのデートは、質が違う。

多忙な晋平とのデートは彼の家が多かったが、記念日のレストランやプレゼントはケタが違ったし、学生と付き合っている女友達との差に優越感を感じていた。




ある金曜日。奈緒は、北品川にある晋平の家で、彼に手料理を振るまうためレシピと睨めっこしながら、肉じゃがやきんぴらごぼう、白和えを作っていた。

いつの時代も“家庭的な女”は男性から大人気。奈緒は、正直家事は苦手だが、無理やりにでも家庭的アピールをしようと必死で、料理に洗濯、掃除を頑張っていた。

「ただいまぁ」

疲れ果てて帰宅した晋平を笑顔で迎え、料理を温め直してテーブルに並べると、「いやあ、嬉しいなあ。お腹ペコペコだったから」と、晋平は喜んだ。

が、味噌汁を口にした途端に表情が曇った。

「これ、ダシとった?」

「やだ、ごめん!うっかり忘れちゃった」と言いながら急いで粉末のダシを味噌汁に振りかけると、晋平が信じられないという顔で奈緒を見た。

「奈緒ちゃん、もしかして、普段から昆布とか煮干しでダシとったりしないの?」

「だって、粉末の方がラクでしょ?」

晋平が「まじかよ」と呟いたのが聞こえたが、奈緒は、儀礼的にでも「ありがとう」と言えない晋平にムッとしていたのだった。



「奈緒、聞いてる?」

パソコンから呼ばれる声に、奈緒はハッと我に返った。つい、昔の思い出に浸っていたのだ。

「あ、ごめん」と言いながら、慌てて言葉を探す。

「晋平、パリで一人暮らしなんて、家事とか大丈夫なの?」

奈緒は、いつも散らかっていた晋平の部屋の掃除、洗濯や料理もしてあげていたことを思い出しながら聞いてみた。

「え?俺、一人で全部やってるよ」

「すごいじゃない!私と付き合っていた時より、ずいぶん成長したのね」

奈緒は、バリキャリの千夏さんは家事なんか放置で、晋平も必要に迫られてやらざるを得なくなったのだろうと憐れんでいた。

「はぁ、奈緒、俺の何を見てたの?」

「何って・・・晋平は家事が全く出来なかったでしょ?だから私は色々と世話してあげたじゃない・・・?」

すると晋平が、冷たく言い放った。

「俺のこと、何も理解してなかったんだな」

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元彼・晋平から当時の思いを明かされる!そして奈緒は笠野とついに・・・。