枝野幸男氏率いる立憲民主党の「善戦」はあったものの、下馬評通り自公の圧勝となった第48回衆院総選挙。テレビ各局は大々的に特番を組み視聴率競争を繰り広げましたが、一夜明け新聞各紙はこの選挙をどのように伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

衆院総選挙の自民圧勝を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「自公大勝 3分の2」

《読売》…「自民圧勝 与党310超」

《毎日》…「自民大勝280超す」

《東京》…「自公3分の2維持」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「自民 揺るがず」「立憲 躍り出る」

《読売》…「『安倍1強』継続 小池旋風吹かず」

《毎日》…「敵失 安倍1強続く」

《東京》…「分裂野党に票分散」「疑問残し政権継続」

ハドル

各紙、選挙結果について、社説かそれに準ずるようなコラムを載せていますので、その中に見える各紙の問題意識を拾い上げるような感じで見ていきましょう。

なぜ自民党に入れたのか

【朝日】は18面社会面の記事で、自民党に投票した有権者に話を聞いている。まずは見出しから。

安定求め 結局自民自民に投票した有権者景気を重視■せめて現状維持自らの所業 反省して

青森で2人に聞いている。リンゴ農家の女性(67歳)は、小選挙区、比例区ともに自民党。これまでも自民支持だった。「北朝鮮が挑発的な態度に出ている今は国難で、最も責任感を示しているのは自民党」という。また建設会社の男性社員(68歳)は、は民主党政権の記憶から、「いまの野党よりマシだ」と消去法的選択。

東京では女性2人。アベノミクスを評価するモデル(32歳)は仕事が増え、「景気回復の兆しは感じる」として。都議選では都民ファーストに入れたが、希望の党には入れる気が起こらなかった。小池氏には都知事として「都政と東京五輪に尽力してほしかった」と。もう1人の女性会社員(58歳)は、求めているのは変化ではなく現状維持だとして、野党の主張には「うんざりした」と話している。

自民党に投票しながら批判的な人もいる。福岡県の医師(57歳)は自民党に投票したが、「『森友・加計問題』をごまかすための解散だ。与党が自民であることに異存はないが、自らの所業を反省して欲しい」と。安倍内閣の事績を「所業」という強い言葉で非難している。宮崎県の会社員男性(58歳)は「『反安倍』の人も国民には変わりない。支持者以外の人の声や疑問に答える姿勢を持つことは忘れないでほしい」と。その他、小選挙区で自民、比例で立憲民主に投じたのは、「憲法は守ってもらいたい。戦争に向かって行くようなことは絶対に避けてほしい」からだと語る19歳の学生も。

uttiiの眼

安倍氏の主張が投票行動にそのまま反映している人、希望の党に対する反感から自民党に入れた人、今回の解散・総選挙は「森友・加計問題」隠しだと認識していても、投票するなら自民党だと思っている人、現実的な課題と将来的な課題によって投票行動を使い分けている人。実に様々な動機、様々な理由で、実際の投票行動が決まってくるものだと思う。与党支持と言っても、かなり複雑な経路を通って結論に至っていること、野党はもちろんだが、与党にもそのことを十分自覚してもらう必要があるだろう。

岐路に立つ共産党

【読売】は4面に共産党についての記事。見出しから。

共産惨敗 議席大幅減立憲民主に支持流れ

公示前21議席だった共産党について、12になりほぼ半減する公算。比例で850万票を獲得する目標だったが、これも目標を下回った模様。《読売》は「立憲民主党などと政権批判票を分け合う形」となったのが災いしたという。

民進、自由、社民との4党選挙協力で候補の一本化を目指していたが、民進の希望の党への合流方針によって不可能となり、希望の候補とぶつかったことで自民党を利する結果となったと分析している。

uttiiの眼

志位氏は「力不足」だったとか捲土重来を期したいなどと語っていて、立憲民主党との協力も続けていく方針のようだが、同じことの連続では困難な状況を突破できないのではないか。立憲民主党とは「政権批判票を分け合った」どころではなく、「ごっそり持って行かれた」というのが実態で、おそらく、共産党の内部から、今後の共闘に否定的な意見が出てくるのではないだろうか。全選挙区に候補をたてる既存の方針は、比例で議席を稼ぐなどの共産党の基本戦略に適ったものだったのに、それをかなぐり捨てて共闘路線を追求したため、じり貧になった、そんなふうにと考える人たちも内部にいるだろう。

逆に、極論すれば、党名を変更して綱領も改定し、共産主義・社会主義を理想から引き摺り下ろして、新しい党として再出発する道もあるはずだ。ヨーロッパの共産党が辿った道でもあり、それなりの合理性はある。共産主義社会を究極の目標とせずとも、国会と地方議会、そして地域において最も非妥協的な批判勢力としての信頼が得られれば、この国の民主主義の発展に寄与することが出来るかもしれない…そう考える人たちが共産党の中にもいるはずだと思うのだが。

公明党が離反を恐れる中道層とは?

【毎日】は3面の解説記事「クローズアップ」の最後段に、公明党について書いている部分がある。見出しは、「公明、小選挙区落とす」。

公明党は公示前の35議席確保を目標にしていたが、神奈川6区を落とすなど厳しい戦いを強いられた。小選挙区の候補を落とすのは、「政権を奪還した12年衆院選以降で初めての事態」だという。神奈川6区の敗因は「立憲民主党に共産党が連携する形で、野党の分裂した支持が集約されていった」(山口那津男代表)こと。《毎日》によれば、「躍進した立憲民主党に中道層を取りこまれる傾向は比例代表の苦戦にもつながった」としていて、その原因の中には「安全保障関連法や『共謀罪』法の制定で自民党に協力したことが中道層の『公明離れ』につながったとの見方もある」という。

uttiiの眼

数日前の《毎日》が、やはり、公明党が中道層の票を立憲民主党に奪われることを警戒し、同党批判を強めているという方向性の記事を掲載していた。この記事も同じ前提に立ちながら、安保法制や「共謀罪」の成立に協力したことで中道層に嫌われたのではないかという推論を付け加えているところが新しい。

分からないのは、この「中道層」がどんな人たちかということ。

ただ単に、与党と野党の中間、あるいは「保守」と「リベラル」の中間的な立ち位置を好む人々という意味なのか、それとも、護憲派として平和志向が強く、僅かでも公明党に不満を抱いてきた一部の創価学会会員のことなのか。公明党を比例区の投票先として積極的に選択するような人たちが、創価学会の会員以外にどのくらいいるものなのか疑問なので、公明党が警戒していたのは、実は、創価学会の票を奪われることだったのではないだろうか。勿論、邪推かもしれないが。

「気前の良い社会」

【東京】はいつも見開きの「こちら特報部」が13面だけの1ページになり、「有権者に聞く 1票に託したあなたの近未来」と題して、投票を終えた有権者11人に話を聞いている。ここで取り上げるのは、その欄の左側に配された定番の「本音のコラム」。今日は看護師の宮子あずさ氏執筆。

タイトルは「気前の良い社会」。宮子氏は、東京18区で菅直人氏を支援し、街宣からビラ折りなどの作業にも参加した人らしい。そして選挙中、「リベラル」とは何かと考え続けていたという。「一般にリベラルは、個人と自由を重んじ、保守は集団と統制を重んじるイメージ。しかし、富の分配や反差別の法規制をリベラルが求める場合もあり、定義は難しい」という。宮子さんが一番「腑に落ちた」のは、リベラルという英語が示す「気前の良い」という意味で、宮古氏は「人それぞれの違いが認められ、ありのままのその人が尊重される社会。自由は大事だが、それ以上に人権と平等に、私は重きを置いている」としている。

uttiiの眼

ある人が自分のカネに関して「リベラルである」というのは、確かに、「気前よく金を出す」という意味になるようだ。その他に「たくさんの」とか「豊富な」という使い方もあるので、要は、「制限しない」、「ケチケチしない」という意味だろう。他人の行動や考え方に対しては、「寛大」ということにもなる。ただ、これらはみな、「自由主義者」と批判的に言うときの使い方にも通底していて、この「自由」は「ルーズ」に近い印象。だから、「気前が良い」という言葉でリベラルを枠付けるのはどうだろうか。

よく、リベラルは途中で意味が転換したと言われるけれど、それは、規制のない勝手し放題の状態では、多くの人々の自由が逆に侵害されるということが自覚され、規制を通じて人権と平等が守ることがリベラルな価値に合致するということが分かったからだろう。だから、「自由は大事だが、それ以上に人権と平等に、私は重きを置いている」と仰る宮子氏は、間違いなくリベラルな人と言って良いのだと思う。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

特別体制でページ数が少ない中、選挙に関して、ホンの少しでもユニークな内容をご紹介しようと努力してみました。うまくいったかどうかは自信がありません。ご感想などいただければ幸いです。

というわけで、選挙が終わり、また世の中は新しいフェーズに入ったようです。

また明日!

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