「あけがらし」は、山形県長井市の老舗醸造所の「山一醤油」の女性だけに製法が伝わる、秘伝の食べ物。

かつては男衆に見つからないよう、みなが寝静まった深夜に一族の女性の手で仕込みがおこなれていたというほどの念の入れようです。

一族にだけ製法が伝わる
名無しの食べ物

和がらしによるふくよかな辛さ、糀が熟成した芳醇な甘み、麻の実のカリッとした食感で、白ご飯のお供や酒の肴にもなる「あけがらし」ですが、もともと一族の女性がひっそりと婚礼の際に仕込んでいた食べ物のため、大正時代までは名前がついていませんでした。

その秘伝の食べ物を「あけがらし」と命名したのは、詩人谷川俊太郎の父、徹三氏だったと伝わっています。故・七代目当主が学生時代に東京の寄宿舎で同室だった徹三氏と、田舎から送られていたこの芥子糀(からしこうじ)で酒盛りをしていたとき、谷川氏が

「落語にも ”あけがらす” てぇ話があるし、祝言の時だけのめでたくてウメー食べもんだから、メデテー芥子ってことで【あけ(明と開をかけて)がらし(芥子)】ってなぁどうだ」

と言ったことがきっかけになったそうです。

辛子麹は、遣唐使が
北九州に持ち込んだもの?

モノや情報が何百年も後の世の中に残っていくための方法は、いくつかあります。

ひとつは、たくさん作ること。コピー&ペーストや大量生産によって分散して保存されることで、後世まで伝わる確率が増えるというのは理解しやすいでしょう。もうひとつは、誰かが責任を持って、管理し続けること。たとえば、「秘伝」や「一子相伝」「門外不出」といったものです。

一説によると「あけがらし」に使用されている辛子麹は、遣唐使が北九州に持ち込んだと言われるものが、国内で唯一あるのみ。かつて最上川舟運の終着点であった長井市に、海を通じて北九州から辛子麹がもたらされたのかもしれないそうです。

「あけがらし」を口にほお張れば、老舗の醤油店が守り継いできた、大陸から繋がる歴史までも感じることができそうです。

購入は、山一醤油より。

Photo by Kenji Fujimaki