最近、少ない財産で相続争いが起きてしまうケースが増えているのを知っていますか? 家庭裁判所にもち込まれた遺産分割で、相続財産が1000万円以下のケースは3割以上と、じつは一般家庭にとって、相続は身近な問題なのです。資産が多い人は、そもそも、お金にまつわる知識があるため事前に対策を打ちやすい傾向が。手間やお金をかけて準備することもできます。
一方、「大した財産は持っていない」と感じている層ほど、揉めることはないと油断して決めるべきこと決めておかなかったり、家族間の問題を放置していたり…。自宅プラス預貯金が少しだけというケースの方が、意外にも危なかったりするようなのです。今回は、わずかな遺産をめぐって、きょうだい仲がこじれてしまったという、ESSE読者・西村由紀子さん(仮名、47歳・福島県在住)に、理不尽な相続エピソードを教えてもらいました。


遺言はなし。説明もなく、遺産の行く先は生まれたときから決められていた!

・西村さんのデータ
姉と兄を持つ末っ子。両親と取り立てて仲が悪いわけではなかったが、異常なほど兄だけを溺愛する両親に違和感を覚えながら育つ。結婚を機に実家から離れる。

強い長男びいきの考え方をする両親のもとに生まれた西村さん。父が亡くなったときも母が亡くなったときも、西村さんは一銭も遺産を手にすることはありませんでした。
「両親は遺言状を残しませんでした。残す意味なんてなかったんです。私も私の姉も1円も遺産を手にしてはいません。だって、兄がすべてを持っていくって、生まれたときから決まっていたんですから」。
西村さんの母親は、北関東の米農家に生まれました。そこは長男びいきの考え方がしみついた土地だったそうです。父親は東京の米屋の生まれですが、ここにも長男びいきの考え方が根強かったそう。だからこそ、2人の間に子どもが生まれたら、長男びいきで育てるのは当然の流れだったといいます。生まれたときから兄は優遇されて育ち、おこづかいも西村さんと姉よりも多くもらっていました。

子どものときに姉と一緒に聞かされた、母親の言葉が今も忘れられないという西村さん。
「『あなたたちはそのうち結婚して、私たちから離れていくのよ。だから中学を卒業したら働きなさいね』と…。子どもながらに衝撃を受けたのを覚えています。兄は死ぬまで両親のめんどうをみることを、ことあるごとに言われていましたが、私と姉はそれは望まれていませんでした。その代わりに、あなたたちにはお金をかけない、という宣言だったのです」。兄は両親からたっぷりお金と愛情を注がれ、2浪までした挙句、だれでも簡単に入れるような大学に進学しました。そして西村さんが20歳のとき、父が他界。「遺産はすべて母が相続しました。子どもの私たちにはなんの説明もなく…」。
ほどなくして兄は結婚し、母と2世帯住宅で暮らし始めます。生活費は母が負担して、母の介護を兄夫婦が担当。西村さんと姉は幼い頃からの言いつけどおり、両親のめんどうをみることはありませんでした。

5年前には母も他界します。西村さんと姉は兄に相続放棄させられ、家、預貯金などの遺産はすべて兄が引き継ぎました。死んだあとのことまで、両親の計画どおりに進んだのです。兄は広々とした2世帯住宅で、今でも幸せそうに暮らしているそうです。「めんどうをみている兄が多く遺産をもらうのは理解できますが、相続放棄までさせるなんて…。同じきょうだいという意識が兄にはまったくないのでしょうね。両親が亡くなってからは一切交流をしていません。もう勝手にやればいいと思っています」。

いかがでしたでしょうか? 注ぐ愛情の量に差をつけてわが子をかわいがる…そうした親の姿勢はもちろん問題です。しかし、父親が亡くなったとき、そして母親が亡くなったとき、西村さんにはたしかに相続する権利がありました。家族の関係を維持するために自重したのに、やっぱり納得できず、みんながバラバラに…。今となってはあとの祭りですが、兄と話し合いを重ねる、弁護士に相談するなど、なにかしらの対策はとれたのかもしれません。遺産問題でいったんこじれてしまうと、家族関係を修復するのは困難です。泥沼の事態にならないためにも、問題を先送りせず、親が生きている間に話し合いや準備をしておくのがよいでしょう。
 
<取材・文/ESSE編集部>