服の好みは人それぞれ。通常は個性の問題で済まされますが、人が驚くような奇抜な格好には、心の問題が潜んでいることもあります。大きな問題を見逃さないために気をつけるべきこととは?

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もしも突然、人が驚くようなファッションをし始めたら……

「十人十色」という言葉どおり、人の好みは皆それぞれ。場合によってはかなり違うことがあります。個人の嗜好だけでなく県民性や職業などで捉えて、「あの人は○○出身だから派手だ」「△△で働いているからきっちりしている」といったイメージも、いまだにある程度残っているかもしれません。

もちろんこれらはステレオタイプな考え方に過ぎません。一般的なイメージに縛られず、人と異なるものが好きな人は少なくないでしょう。これは決して悪いことではありません。しかしどんなことでも、あまりに常識を外れすぎると、周りからは少し変わり者で近づきがたいと思われたりして、対人関係で問題が生じてしまうことはあるものです。

もし何かが周りの人とは違っていても、通常は個性の問題です。しかし場合によってはその人の内面の問題を反映している可能性もあります。心の病気が見た目に現れることもあるのです。

ここでは個人の好みの中でも「奇抜な服装」を例に、その違いが単に個性によるものか、それとも心の病気などを反映したものかを判断する上で、ぜひ知っておいていただきたい精神医学的な基礎知識を解説します。

もともとそういう個性なのか? 服装が変わっているだけなのか?

奇抜な服装やいでたちを好み、実際にされる方は少なからずいらっしゃるものです。若者を中心にファッションで冒険をする人は珍しくありませんが、例として少し極端なものを挙げましょう。例えばですが、あなたが回覧板を届けにお隣のインターフォンを鳴らすと、中からまるで戦国武将のようないでたちをした息子さんが出てきた……といった状況を想像してください。それがその人の個性によるものとして見過ごして大丈夫かを、考えなくてはなりません。

もしその理由が本人の口から話されれば、問題があるのかないのかは大分はっきりするでしょう。もしかしたら息子さんはそういう格好をする仕事につかれたのかもしれませんし、あるいは戦国ブームの影響でその種のサークル活動の最中だったのかもしれません。あるいはハロウィーンのために仮装の練習……といった通常の考えで納得できる理由があれば、精神医学的な問題は何もありません。

しかし、その格好の理由をいう本人の口から出た言葉が、一般的な感覚で理解するのが難しい場合は問題です。例えば、「戦国武将の強さと魂を体に入れているところなんです」「敵が襲ってくるのに備えている」といった意味不明な言葉が当人の口から真面目に語られるようならば、その服装は思考内容の問題の表れということになります。

特に以前は全くそうした傾向がなかったのに、急にそのような様子になっていれば、精神疾患の前触れの可能性に十分注意したいところです。その可能性を見極めるためには、何か問題が他にも現われていないか、そしてもし現れていれば、その内容がどのようなものかが重要になってきます。

口から出る言葉で問題の深刻さに気づくことも……

うつ病や統合失調症など心の病気の発症の直前には、しばしばそれまでには見られなかった問題、具体的には気持ちのありかたや考える内容、口にする言葉、さらには身なりや生活態度などに問題がみられることもあります。

もっとも奇抜な服装をすることは、思春期の、いわゆる年頃の若者にはありがちなことと、周りは受け止めるかもしれません。実際、多くはそういうことで済むでしょうが、場合によっては上記のように思考内容の問題などを反映している可能性もあるのです。

また、口から出る言葉で思考プロセスの問題に気づく場合もあります。具体的には当人の話し方が以前とはまるで違ったり、妙にまわりくどくなっていたり……といった時です。これは論理的に物事を思考する力が弱くなったことを意味します。こうした問題は先の思考内容の問題と同じく当人はなかなか気づかないものですが、それを聞く相手はすぐ気づくと思います。

もし相手の口から出る言葉に思考プロセスや思考内容の問題がはっきり表れていれば、それを引き起こしている脳内の問題がかなり深刻化している可能性があります。その時点で精神科受診を検討したいところです。実際、こうした問題は抗精神病薬などの治療薬でかなり効果的に対処できます。

行き過ぎた個性はパーソナリティ障害の可能性も……

上記のように急に奇抜な服装をするようになったわけでもなく、もともとそういう傾向の人が注意したい心の病気が「パーソナリティ障害」です。この中の「障害」は誤解されやすい語です。その意味するところは決してパーソナリティが障害されているといったわけではなく、パーソナリティに関連した問題が原因で、日常生活をその人本来のレベルで送ることが障害されているといった意味合いです。

したがってもし日常生活上、奇抜な服装を好む個性のために何らかの支障が現れていれば、そのレベルによってはパーソナリティ障害の可能性もあります。通常、現れている問題に対処していくためには心理療法など精神科的な治療を受けることが望ましいです。なお現時点では仕事やプライベートが順調でも、違う環境で生活すればパーソナリティの問題が顕在化して、場合によってはパーソナリティ障害のレベルに近くなる可能性もあることはご注意ください。

最後にまた上記の例に戻りますが、回覧板を届けにいった時、戦国武将の姿で玄関に出てきたのが息子さんではなく、その家のお父さんだった場合はどうでしょうか? 通常はその場合でも何かしらもっともな理由があるのでしょうが、場合によっては息子さんの場合と同様、深刻な問題が関わっている可能性もあります。その場合は息子さんと違って年齢が上がっていることを考慮しなくてはなりません。脳内の器質的問題、具体的には脳腫瘍や血管性の病変などが原因の可能性もあるからです。脳の画像を見れば、こうした問題がはっきり現れている可能性もあります。

以上、今回は個性の問題か、それとも心の病気などの可能性があるのかという問題を、奇抜な服装を例に詳しく解説しました。大切なことは、「何だか奇抜な格好だな」と周りが放っておくと、場合によっては深刻な問題を見逃してしまう可能性があるということです。もし実際に誰かにそのような状況が見られれば、ご家族やご友人など周りの方は大きな問題を見逃さないためにも、まずは本人にその理由をちょっと尋ねてみるようお願いします。
(文:中嶋 泰憲)