賭けに負けた失意の前原誠司氏。民進党の代表辞任と自身の希望の党入党を力なく語った(写真:日刊現代/アフロ)

政界の長老達が「こんな奇妙な選挙は初めて」と口を揃えた第48回衆院選が終わった。

投開票日の22日は超大型台風が列島を直撃したが、解散前の「追い風」を自ら「逆風」に変えて「完敗」した小池百合子東京都知事率いる希望の党に象徴されるように、各選挙区でのどんでん返しも目立った。そんな「乱気流選挙戦」で、最後に笑ったのは「強運」の安倍晋三首相(自民党総裁)だった。

解散直前の結党・党首就任宣言で政権交代への大勝負を仕掛けた小池氏は、自らの"舌禍"で有権者の「希望」が「失望」に変わると、「狐につままれたような選挙」との捨て台詞を残して無念そうに永田町の表舞台から去った。

首相と小池氏という明暗くっきりの「2人の主役」。これに、それぞれの立場で絡み合った各党党首達は、想定外の野党第1党に躍り出た立憲民主党の代表・枝野幸男氏が喜びに困惑が混じる複雑な笑顔を見せる一方、強固な組織で応戦した山口那津男公明党代表と志位和夫共産党委員長はどちらも「比例の頭打ち」などでの議席減に肩を落とした。発足時の「大阪の地域政党」への逆戻りを余儀なくされた日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)は、選挙戦で結んだ小池氏との連携も含め、「一から出直しだ」と嘆息した。

「革新勢力」の片隅で生き残りにかけた社民党の吉田忠智党首は、かつての剛腕・小沢一郎氏率いる自由党とともに党存続のための「政党要件」クリアでほっと一息。しかし、参戦8政党の中で「自民党より右」とされる小政党・日本のこころは、中野正志代表(参院議員)の選挙戦での舌鋒鋭い革新勢力攻撃が話題になったものの集票にはつながらず、中央政党としての命脈が尽きた。

「判官びいき」で勝ち上がった無所属組

党首の戦いとは別に、あえて無所属での「孤独な闘い」を選んだのが、元党首の野田佳彦元首相、岡田克也元外相ら「筋を通したサムライたち」。野党第1党として巨大与党と対峙してきた民進党の解散直前の希望の党への「身売り」と、同党合流をめぐる「排除の論理」にはじき出された格好だ。しかし、選挙の七つ道具にも不自由する「無所属」を水戸黄門の印籠に変え、有権者の判官びいきを追い風に、そろって勝ち名乗りをあげた。

対照的に、民進党の希望合流を独断で押し進めた前原誠司民進党代表(無所属で出馬)には、行く先々の仲間の応援演説で「帰れコール」が飛び出し、「この道しかなかった」との弁明も次第に力を失った。公示直後に小川敏夫・民進党参院議員会長が口にした選挙後の民進党再結集論には「政治不信の極み」と怒り心頭だった前原氏。だが、希望が失速する中での有権者の視線の厳しさに、同氏の地元事務所は「お通夜のような雰囲気」(関係者)となり、早々と決めた当選にも歓喜はなく、失意の前原氏は選挙後の代表辞任と希望の党への入党を力なく語った。

各党各候補のせめぎ合いの中で、不倫、暴言などで顰蹙(ひんしゅく)を買った自民党「魔の2回生」を中心とする「お騒がせ候補」たちも、厳正な国民の審判の結果、「笑った人」と「泣いた人」に分かれた。

これまで通り、22日午後8時からテレビ各局は一斉に出口調査に基づく各党議席獲得予測を報じた。「まだ票は開いていないのに…」という視聴者の疑問・不信を無視した速報合戦で、事前調査で圧倒的優位とされたいわゆる"鉄板候補"に次々と当確がつけられ、各選挙事務所でのバンザイも始まった。

その喧騒が一段落したところで、開票作業の進行とともに、テレビ報道の重点は「注目候補」の当落に移った。視聴率を競い合うテレビ各局は、当選が当然視される各党党首や有力議員よりも、さまざまなスキャンダルで世間を騒がせた候補者の開票情報を優先し、なかでも「不倫」や「暴言」で当落が注目されたお騒がせ女性候補たちにスポットを当てた。

自民党系の「不倫がらみ」女性候補は全滅

各局がこぞって大きく報じたのは、いわゆる"文春砲"の「ダブル不倫疑惑」報道で民進党離党に追い込まれた山尾志桜里氏(愛知7区)の当落だ。国会論戦で首相の天敵として名を挙げ、「民進党のジャンヌダルク」と呼ばれて9月1日の同党代表選後に幹事長就任が内定したが、直後のスキャンダル報道に、「密会写真」への説明もないまま離党し、無所属での戦いを余儀なくされたのが山尾氏。しかし、選挙戦では一貫して「不倫はしていない」と訴え続け、23日未明までもつれた自民公認候補との大接戦を勝ち抜き、目を潤ませてバンザイした後、支援者に深々と頭を下げる様子が全国中継された。

一方、山尾氏以上に注目を集めたのが元秘書への「このハゲ〜!」などの暴言でこちらは"新潮砲"の餌食となった豊田真由子氏(埼玉4区)。自民党を離党し、無所属で家族の応援もないたった1人のなりふり構わぬ選挙活動が話題となった。公示前から地元の子供たちには「ハゲのおばちゃんだ」と大人気で、行きかう有権者の格好の「写メの標的」ともなったが、対立候補を圧倒する「知名度の高さ」に得票はまったく連動せず、あえなく最下位で落選。おびただしいフラッシュの中で「申し訳ない」と泣き崩れた。

この2人以外で全国的に注目されたお騒がせ候補は、"不倫がらみ"でかつ「女の戦い」を演じた自民公認の中川郁子氏(北海道11区)と金子恵美氏(新潟4区)だった。それぞれ選挙区でのライバルの石川香織氏(立憲民主党公認)、菊田真紀子氏(民進系無所属)と、涙はもちろん中傷合戦を繰り出す「なんでもありの選挙戦」で必死の形相で生き残りをかけた。

故中川昭一元財務相の未亡人という立場なのに、妻子持ちの同僚議員との「路チュー」を激写され、病院に逃げ込んで批判された中川氏は、「聖心女子大OG」対決で後輩の石川氏に圧倒され、比例区復活もならずに悔し涙を流した。

また、当選同期が縁で結婚した夫(宮崎謙介元衆院議員、不出馬)が「育メン宣言」しながらの女性タレントとの不倫で議員辞職に追い込まれるという不運を跳ね返すべく、初出馬以来の「宿命のライバル」とされる菊田氏と「泣き合戦」を演じた金子氏は、小選挙区で競り負け、比例も次点で議席を失った。

「ダブル不倫」疑惑でも無所属で勝ち上がった山尾氏と比べ、「不倫の被害者」のはずの自民公認の金子氏が落選というあたりには、"スキャンダル女性"に対する有権者の「複雑な反応」もにじみ出た。

この4人のお騒がせ女性候補はいずれも3回目の当選を目指した戦いで、山尾氏を除く自民組の豊田、中川、金子3氏はいずれも「自民党魔の2回生」の一員でもあった。それぞれの奮闘ぶりには、有権者からの好奇の目をものともしない「メンタルの強さ」がテレビ桟敷でも話題になったが、山尾氏以外の3氏は逆風を跳ね返せず、涙にくれた。

「壮大な選挙詐欺」という後味の悪さも

首相は「女性活躍」を叫び続けるが、今回の選挙戦でも女性当選者は依然少数で、欧米の先進各国との落差は一向に埋まらない。そもそも、お騒がせ議員や女の戦いばかりが話題になる辺りに、「所詮、女性議員は政界のあだ花」との永田町の差別意識がにじむ。"勝負師"と呼ばれながら「排除」などの発言ミスで「希望」を「絶望」に変え、小池氏を頼った多くの民進系前職を「死亡(落選)」させた小池氏の落胆ぶりと、お騒がせ女性候補たちの大仰な泣き笑いは、「男社会」から抜け出られない永田町政治の歪みも浮き彫りにした格好だ。

こうした候補者の泣き笑いは「相変わらずの選挙風景」(自民幹部)との見方もあるが、今回ばかりは解散に至る経過や、その後の野党陣営での離合集散のドタバタ劇で、「過去にも例のない異常な選挙」(首相経験者)だったことは否定できない。

小選挙区で敗れた候補が比例復活する奇妙な選挙制度も相まって、1億人を超える有権者にとって「開けてびっくり」というより「壮大な選挙詐欺」に引っかかったような選挙結果は、「後味の悪い国民の審判」として政治不信を拡大させかねない。

政府与党は選挙結果を受けての特別国会を、11月1日に召集する方針だ。首相の「盟友」とされるトランプ米大統領の同5日の初来日をにらんだ日程で、1日の首相指名後の組閣では、首相が仕事人と名付けた全閣僚が再任される段取りだという。自民圧勝を受けて株価も23日の寄り付きから上昇している。何もかもが首相の強運を際立たせている。

小池氏最側近で希望の党の公認調整を仕切った若狭勝氏は、小池氏から引き継いだ東京10区であえなく落選した。解散前から他党の批判を浴びた小池氏の「選挙結果をみて決める」とする首相指名だが、候補を誰にするのかは選挙戦最終日(22日)の深夜にパリに飛び立った小池氏が帰国する25日午前にも、当選議員たちの「議員総会」で決めるという。

パリの空の下で「今回は完敗です」「おごりがあったと反省している」と憮然とした表情で取材に答えた小池氏は、代表続投を前提に「国会のことは当選された国会議員の方々にお任せします」とも語った。しかし当選議員の間では、「小池氏と前原氏が敗北の原因、どちらも責任は免れない」(民進系中堅議員)との声もあり、選挙後のゴタゴタは避けられそうもない。

異様な選挙戦そのものが「国難」との声も

一方、希望を押しのけて「反自民の受け皿」として野党第1党に躍進した立憲民主党の枝野幸男代表にも、新たな野党勢力再構築への重圧がのしかかる。希望の党に合流せず、立憲民主にも駆け込まずに無所属で勝ち抜いた「一騎当千の侍」たちとどう連携するのか、さらには、希望の党も含めての野党再編論にどう対応するのか…。次の国政選挙となるはずの2019年夏の参院選をにらんだ離合集散劇は早くも始まっているようにもみえる。

開票速報を受けて、自民党本部で当選者へのバラの花をつける首相の表情は終始こわ張っていた。「こみ上げる笑いをあえて隠した」と周辺が語るように、「ここで、おごりや傲慢さをみせれば、圧勝ムードなどすぐ消える」(自民長老)ことを自覚しているからだろう。

首相は9月25日夕の解散表明会見で今回衆院選を「国難突破」と名付けた。自民圧勝とは裏腹に、選挙期間中の調査や投開票日の出口調査などの内閣支持率を見ると、ほとんどで「支持」を「不支持」が上回っている。選挙後の野党の離合集散騒動や、お騒がせ女性議員の当落騒ぎも含め、有識者の間では「選挙戦で露呈した永田町政治の異様な実態そのものが国難」(政治学者)との声も広がる。