先頃発表されたノーベル医学生理学賞で、体内時計をコントロールする「時計遺伝子」を発見し、その仕組みを解明した3人のアメリカの大学教授(ジェフリー・ホール=ブランダイス大名誉教授、マイケル・ロスバシュ=同大教授、マイケル・ヤング=ロックフェラー大教授)が受賞を果たした。

 現代社会において、特に日本人はこの体内時計が狂いがちだが、それを整えることが健康長寿に結びつくと言っても過言ではない。
 「体内時計が遺伝子によってコントロールされていることは1970年代に判明していましたが、受賞した3人により『ピリオド』と呼ばれる体内リズムを制御する時計遺伝子と、その『ピリオド』を補完する役割をする『タイムレス』という時計遺伝子が発見されたのです」(健康ライター)

 「ピリオド」は、夜間に細胞内でたんぱく質を作り、日中に分解し、そのリズムは24時間の体内リズムと同調しているという。つまり体内時計は、朝に目覚め夜に眠くなるリズムを作り出しているということだ。
 『生体リズム健康法』(文春新書)の著書がある山梨大学医学部名誉教授の田村康二氏は、こう説明する。
 「全身には60兆個の細胞がありますが、その中に時計遺伝子が存在し、リズムを刻んでいます。時計遺伝子の働きを司るのが、脳の視床下部の視交叉上核に存在する、1万個以上の時計細胞なのです」

 視交叉上核では、眼から入ってきた光の信号を感知する。これがスイッチとなって時計遺伝子が1日のリズムを調整、松果体と呼ばれる脳内の分泌器に信号を送り、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌量が調整されるという。
 しかし、不規則な生活によって時計遺伝子が生み出すリズムが狂うと、睡眠の質が低下し、ホルモンバランスや自律神経の優位バランス、さらには呼吸、体温、血圧、心臓の動きなどに悪影響を及ぼす。当然のことながら、その状態が続けば“病的な老化”につながってしまう。

 田村氏が続ける。
 「そもそも“生活習慣病”は、厚労省が発案した官の用語で、言ってしまえば上から目線の言葉です。確かに生活習慣が悪いと様々な病気を発症しますが、ではどうすればいいのか。散歩をする、ビタミンCを摂取するなど、様々な方法を唱える人はいますが、体が活動していない時の問いかけに対する答えがない。そこで、生体リズムを整えることが重要になってくるのです。人体は太陽周期による生体時計に支配されています。その生体時計のリズムを知り、遺伝子に組み込まれた“自然の働き”に逆らわないライフスタイルこそが、その答えなのです」

 時計遺伝子が刻む体内時計の時間は、1日約25時間で、24時間のリズムに合わせた我々の生活とは1時間ほどのズレがあるという。そのため体内時計をそのままにしておくと、ズレが徐々に大きくなり、実際の活動時間に頭や体が十分に動かない“時差ぼけ”のような状態になって体調も崩しがちになる。このズレを調整するのが、朝の食事だ。
 「朝食を取ることで時計遺伝子が働き、1日約25時間の体内時計がリセットされるのです。朝食を週に2、3回欠食する人は20代の男性で2人に1人、30代で3人に1人いるとされますが、朝食をきちんと取る人は長生きするというデータもあるのです」(同)
 ちなみに、米カリフォルニア大学のブレスロー教授も、毎日朝食を取った場合、男性は12年、女性は7年寿命が伸びるとの研究結果を出している。

 さらに時計遺伝子に関しては、こんな話もある。
 「最近の研究結果では、時計遺伝子は視床下部だけではなく、体じゅうの細胞のほとんどに存在することが分かっています。心臓や血管、内臓、皮膚など、それぞれに時計遺伝子があるということ。脳内の体内時計を“親時計”とすれば、他の体の細胞が持つ時計は“子時計”で、親と子は常に連携し合っているというのです」(前出・ライター)

 このことを考えても、朝にしっかり食事を取ることは重要になってくる。
 「朝に親時計が活動的なリズムを刻み始めると、それが子時計に伝わって血圧を上げるなど、活動的になる。こうして、体全体が統一されたリズムに整っていくわけです」(田村氏)

 加えて、時計遺伝子は昨今注目されている長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)とも関連しているという。
 「時計遺伝子の信号は遺伝子が生み出すたんぱく質によって伝達されますが、この流れをよくするのが長寿遺伝子とされています。長寿遺伝子も全身の細胞内に存在し、放出するたんぱく質によって細胞内のミトコンドリアの動きを助け、その結果、老化の原因となる活性酸素の放出量を減らしてくれるのです」(前出・ライター)

 この長寿遺伝子を働かせるのは、カロリー摂取の制限と5大栄養素(炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル)のバランスの取れた摂取、適度な運動、そして、ポリフェノールの一種であるレスベラトロール(赤ワインなどに含まれる)の摂取だ。
 「生体リズムに叶った生活を送っていると、人間は100歳まで働ける。私自身、それを目指していますよ」(田村氏)

 まずは朝食から始めよう。