気温が急に下がって、かぜ気味の人が増えてきました。この季節、うがい薬やのどスプレーなどが店頭を飾ります。今回はこれら「かぜ予防製品」の有効性に迫ってみましょう。

かぜを予防できる薬はない

なぜかぜは、毎年当たり前のように流行るのでしょうか。

これほどさまざまな薬が手に入り、さまざまな予防策が講じられているにも関わらず、健康な人でも毎年一度や二度は「かぜっぽい」とか「熱っぽい」とか「喉に来た」「鼻に来た」なんてことを経験されるでしょう。注意していても引いてしまう、それがかぜです。

本当になぜなんでしょうね?

かぜはウイルス感染で引き起こされます。かぜウイルスには数え切れないほどたくさんの種類があり、インフルエンザ同様、型も微妙に変化しています。だから予防できないのです。と言ってはミもフタもありませんが、しかし効果のある予防策はありますよ! 

かぜはウイルスの空気感染、飛沫感染、あるいはウイルスの付いた物をさわった手で口や鼻をさわったりすることで感染します。ですから、オーソドックスですが、うがいや手洗いで物理的に洗い流すことは有効です。小学生を対象にした調査では、うがい手洗いを行なっている児童のほうが感染率が低く、有効性が示されています。

うがいは水、お茶で十分

うがいが有効なら、できるだけ強力なうがい薬で!と考えがちですが、うがいは水やお茶で十分です。ドラッグストアにはたくさんのうがい薬が並びますが、実はうがい薬の有効性については十分わかっていません。

しかし、読者のみなさんのなかにも子どもの頃から「ポビドンヨードでうがいしてきた」という方は少なくないでしょう。日本ではなぜか、茶色い、においのきついポビドンヨードが大人気です。

あの茶色い液体は何かというと「殺菌剤」です。細菌を殺す薬です。しかし先に言いましたようにかぜはウイルス性感染です。だから、ポビドンヨードでうがいしても、かぜウイルスは殺せませんので、かぜ予防にはならないのです。

しかしポビドンヨードの殺菌力は強力です。そのため喉の雑菌はきれいさっぱり殺してくれます。同時に喉の常在菌も一網打尽です。常在菌はそこに必要だからいる親しい存在、自分の味方のような存在です。常在菌がいなくなってしまうと、ますますウイルスに感染しやすくなります。侵入を邪魔する菌がいないからです。ポビドンヨードでうがいすることは、むしろ逆効果と考えることもできるわけです。

では、なぜポビドンヨードを使ったうがいが励行されるのでしょうか?実のところ、なぞです。あの色といい、あの匂いといい、ちょっと喉に沁みる感じといい、いかにも「効く」感じがするからかもしれません。子どもの頃からの習慣ともなれば、なおさらです。プラセボ効果は絶大、なのかもしれません。

なので、ポビドンヨードでうがいしないと不安、かぜを引きそうな気がする、という人は使ってもいいでしょう。副作用の危険もほとんどありません。ただし、それは直接にかぜ予防するものではないことは理解しておいてください。

喉が痛いときには抗炎症剤「アズレン」のほうが有効

喉が痛いときにも、うがいが勧められます。その場合は喉に炎症が起きているので、炎症を鎮める薬の方が効果的です。病院でも、かぜで喉が痛い患者さんには抗炎症剤のアズレン(正式名はアズレンスルホン酸ナトリウム)が処方されることが多いです。

これはドラッグストアにも売っています。「アズレン」とか「AZ」という名前がついている薬がそうです。こちらは濃い紫色をしています。

余談ですが、ポビドンヨードとアズレン、ドラッグストアで買うならアズレンのほうがお得です。ポビドンヨードのほうが容器が大きく、価格は安いですね。しかし1回あたりの使用量では、アズレンの方がずっと少ないため、単価計算すると安くなるのです。

いずれにしても、うがいの基本は水やお茶で十分です。間違ってゴックンと飲み込んでしまっても問題ありませんしね。ポビドンヨードやアズレンをゴックンしてしまうとかなりキツイと思いますが。

最後に、手洗いについて、よくこんな質問を受けます。

「薬用石けんで洗ったほうがいいですか?」

薬用石けんでも、普通の石けんでもかまいません。むしろ、手洗いのたびに石けんでごしごし洗っていると、これもまた常在菌まできれいさっぱり流してしまいますし、手荒れの原因になりますので気をつけましょう。手洗いの目的は、手に付着したウイルスを洗い流すことです。石けんの目的は汚れを落とすことで、ウイルスを退治できるわけではありません。よって手洗いも、水やお湯でジャーッと流すだけで十分です。

うがいは水やお茶でガラガラするだけでよし。



■賢人のまとめ
かぜ予防として、うがいや手洗いは有効です。ウイルスが流れればいいので、うがい薬を使う必要はなく、水やお茶で十分です。ポビドンヨードなど殺菌力の強いうがい薬を多用すると、喉の常在菌も殺菌されて、かえってウイルスに感染しやすくなるおそれがあります。手洗いも水で十分です(ただ、手が汚れているなら石けんで洗ってくださいね!)。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。