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今回のテーマは「最寄駅」だ。みんなもある? 最寄駅。自分んちから一番近い駅。あるよな、吉幾三がいた村とかじゃねえ限り、あるよな? じゃあそれについて何か言うことある? ねえよな? 俺もねえよ。

何だこのテーマは。何も思いつかなかったにしても他に何かあるだろう。ぶっちゃけ、「パン」とかでいい。好きなパンならたくさんある。しかし、駅て。駅自体にそんなに興味ないのに、最寄駅と言われたら1個しかねえ。半径ちょうど1kmに4つあるとかじゃない限り1個しかねえ。鉄道マニアでも話に詰まるだろう。

最寄駅、確かにある。実家は駅が近く徒歩5分だ。ほとんど無人駅であり、自動改札が導入されるより、おとり潰しの方が早い気がする。そこから、高校、専門学校と5年間電車通学をしたわけだが、前述の通り言うことはない。

特に田舎の駅というのは事件が起こらない。都会の駅なら人が多いから、何かしら起こるだろう。新宿駅ともなれば、「3年ぶりに脱出」等のスペクタクルが連日起こっているはずだ。しかし、田舎の駅は何も起こらない。出口は多くて2つなので迷いようがない。人身事故も起きない。何せ30分から1時間に1本しか電車がこないので、その間に気が変わる。

そもそも、田舎の人間は大人になるとほぼ車を持つので電車に乗らなくなるのだ。今の家に引っ越して5年たつが、今の家の最寄駅から電車に乗ったことは一度もない。逆に言うと、田舎の人間は車がないと働くことさえままならないのである。

私も自分の車を持っている。車はタイヤさえついていればいいと思っているので、最安値の軽自動車だ。私はほぼ毎日これで通勤し、ほぼ毎日ここで昼飯を食べている。

「便所飯」と言う言葉を知っているだろうか。昼食時、教室など人が集まる場所でひとりで飯を食うのが辛い学生が、トイレの個室で飯を食う行為だ。それと概要は同じだと思ってくれて構わない。

しかし、便所と車では雲泥の差だ。まず、車ではウンコとかしない。いつかしてしまう日がやってくるかもしれないが、今のところまだしてない。空調もあるし音楽もかけられる。背もたれも倒せる。多機能でキレイな便所も増えてきたが、便器のフタがリクライニングぐらい倒せる便所はまだないだろう。後は、座席に温水洗浄便座さえつけば無敵である。

別にいじめられているわけでも、会社で飯を食っていたら舌打ちされるとかではないが、休み時間なのだから快適に過ごしたい。つまり、ひとりでいたいのだ。学生の時は、それこそ便所ぐらいしかそういう場所はなかったかもしれないが、大きくなれば車というパーソナルスペースくらいはもてる。大人になるのもそう悪いことじゃない。軽自動車の運転席で1本満足バーをかじりながら、少年少女にそう伝えたい。

そんなわけで、車は自分の部屋に続く、くつろぎ空間だった。しかし先日、久しぶりに夫を私の車に乗せたのだが(田舎は大人がひとり1台車を持っているのが普通なので、お互いの車にあまり乗らない)、しばらく走ると夫は何も言わずに空調を「換気」にした。

「くせえんだな」。瞬時に察知した。確かに毎日ここで飲み食いしているし、飲むヨーグルトのカップとかがしばらくゴミ箱にいれたままだったりするし、そして何より、私が毎日乗っている。

しかし、それは自分では分からないものなのだ。なぜ便所なんかで飯が食えるかと言うと、その内慣れるし、長い時間そこにいると臭いということにすら気づかなくなるのだ。「便所より格段に快適になった」と思っていたが、どうやら匂いだけなら便所級だったようである。

次の日、消臭剤を買った。室内用のでかいやつにしたが、もう、昔の学校の便所にぶら下がっていた謎のピンクの玉でも、ミラーにぶらさげておけば良かったかもしれない。夫からはこれ以前にも、部屋とか私本体の匂いについて、再三注意されている。その度に悪いなと思っているが、思うだけで改善しないので、最近は「選択ミスをしたお前が悪い」と思うようにしている。改善なき反省ならしない方がいいのだ。

○筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。