「何もしないシアワセって言うんですかね。島内をめぐって、気に入ったポイントでボーッとして、猫に出会うとカメラを向けて。そんな過ごし方がウケてるみたいですよ」
 小鳥の歌、瀬戸内の潮騒。穏やかな海風が全身をなでる……。
 瀬戸内海、播磨灘。香川県の小豆島と岡山県の直島にはさまれて、ポツンと浮かぶ小さな楽園に立っている。
 ゴスロリ系女子がひとり、自転車を止め、眼下に広がる播磨灘のまぶしい風景をスマホで、ピッ、パシャッ。

ここは、豊島。


 周囲約20km、人口千人あまり。小豆島が3万人だから、その小ささ、のどかさがうかがえる。
「何もしないシアワセ」を教えてくれたマッチョな男性も、この島の魅力に惹かれて移住したひとり。
「遊ぶところも呑むところもないけど、坂道の多いこの島の小道を、電動アシスト付き自転車をレンタルして走りながら、気に入ったポイントでボーッとして、猫に出会ったらスマホで写真を撮る……。そんなスローな時間を過ごす女子たちのひとり旅が増えてきた」
 高松港から、小豆島の土庄港を経由し、唐櫃港から豊島に上陸。たまにすれ違う人はみんな旅人で、自転車に乗りながら、「こんにちは」と。な〜んにもない段々畑の小道で、チャリ乗りゴスロリ女子と挨拶を交わす……。

この瞬間が、非日常。


 瀬戸内のキラキラと光る海面をめでながら、自転車を走らせていて、さらに気づいたことがある。
 信号がひとつも、ない。
「豊島には信号機がひとつもないうえ、クルマが2台、3台と連なると“渋滞”となる。車種でその所有者がわかってしまうし、すれ違うだけで誰かわかっちゃう」
 島には、家浦・唐櫃・甲生と3つの集落があり、ぐるっと1周すると、山道→集落→山道→集落、という単調だけど新鮮なリズムでサイクリングできる。山道では誰もいないから、「うほーっ」と思いっきり叫んで走れる。
「さっき、なんか叫んでませんでした」
 島の小さな商店で出会ったサイクリストに、見られていた。どこでだ?
「例えば、夜の船便で島を出たりすると、『あいつは昨日の晩、(高松市街などの)街へ遊びに行ってた』とすぐに広まってしまう。島民の噂が走るスピードは、インターネットよりも速い」
 マッチョな移住男の言葉を思い出した。

小さい島では、隠し事できない。


 かつて、産業廃棄物不法投棄問題が発覚され、「ゴミの島」と揶揄された時代もあった豊島。いま、この島は「何もしないひととき、自分らしく過ごす時間」を求めて島を訪れる女子たちで、ちょっとだけ、はなやか。
 遠い島、秘境、といったイメージのある瀬戸内の小島。実はアクセスも多彩。新幹線で本州側からアプローチする旅人もいれば、ジェットスターなどのLCCも飛ぶ空路で高松空港を経由して島に上陸するツアラーもいる。
 そして、次々と姿を消していく、寝台特急も、ここでは健在。「サンライズ出雲・瀬戸」という寝台電車で高松へ朝入りするという手もある。
 サンライズ出雲は、パワースポットとして人気を博す出雲大社へ向かう女子たちに人気。高松ゆきは瀬戸内の小島をさまよう旅人でにぎわうという。
「ポーッ」という小船の汽笛に、蝉の合唱。サラサラとなでる潮風に乗って、また人の声。
「こんにちは〜っ」

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2014年8・9月号に掲載された第25回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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