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「トランプは傲慢」と評した日本人は穏便すぎる?

 大統領選期間中から大統領に就任して10か月経つ現在まで言いたい放題の暴言を吐いてきた米ドナルド・トランプ大統領。訪日を2週間後にした今現在も、ツィッターによる暴言癖を控える気配は全くない。

 外国の首脳にはある程度礼節を持って接してきたわが日本人の80%はトランプ氏を「傲慢(Arrogant)」というレッテルを貼っている。さらに62%は「狭量」、56%が「危険」と回答している(参照=http://www.pewglobal.org/2017/10/17/troubles-with-the-u-s-relationship/)

 この日本人の「トランプ傲慢論」に米元外交官の1人は皮肉っぽくこうコメントしている。

 「トランプを傲慢と評してくれた日本の人たちは優しくて、穏便すぎるね。トランプに対する評価にしてはマイルドすぎるよ。米国人の大半はトランプは人格障害だと確信しているよ」

 元外交官がそう言うのも、実は10月に入って米国では、精神科医27人が「トランプ大統領は極度の精神障害患者であり、大統領には不適格だ」と「診断」を下しているからだ。

The Dangerous Case of Donald Trump: 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess A President edited by Bandy X. Lee St. Martin's Press, 2017


 ハーバード大学、スタンフォード大学、NYU(ニューヨーク大学)など精神科医や臨床心理士27人がトランプ氏の精神状態を徹底分析した結果である。

 1人や2人の町医者が勝手に推測したのではない。全米でも最も権威ある精神科医27人がトランプ氏のこれまでの発言や行動を医学的に精査し、その研究結果を1冊の本にまとめたのだ。

 タイトルは「The Dangerous Case of Donald Trump」(ドナルド・トランプの危険なケース)。副題は「27 Psychiartists and Mental Health Experts Assess A President」(27人の精神衛生専門家による大統領診断)。

 第1章は「トランプ氏の症状」、第2章は「トランプ氏のジレンマ」、第3章は「病状がトランプ氏に与える影響」の3章からなる360ページの「診断書」だ。

極度のヘドニズム+政治権力志向=非社会化型行動障害

 むろんトランプ氏にご足労願い、近代医学機器の整ったクリニックで診断した結果ではない。

 方法は、これまでトランプ氏を実際に診断した主治医のカルテ(これが正確なものかどうかは誰も分からないのだが)、そして大統領選当時から大統領に就任し現在に至るまでの同氏の発言や行動(演説、記者会見、インタビュー、ツィッターなどすべての発言)を徹底的に精査した「間接診断」である。

 精神科医27人が「診断」したトランプ氏の病状は以下の通りだ。

▽「トランプ氏の衝動的言動は抑えの効かない極度のヘドニズム(快楽主義)症状だ」(ハーバード大学医学部のフィリップ・ジムバーコ名誉教授)

▽「トランプ氏は病理学的ナルシズムと政治権力志向とが極端に混ざり合った症状に罹っている」(ハーバード大学医学部のクレグ・マルキン博士)

▽「トランプ氏が第三者を一切信頼しない症状は極度のパラノイアに罹っているためだ」(著名な作家、医学ジャーナリストのゲイル・シーリー氏)

▽「トランプ氏は明らかに非社会化型行動障害に罹っている」(著名な臨床精神科医、ランス・ドゥデス博士)

▽「悪性の人格障害がトランプ氏の日常生活で常態化している」(精神衛生分野での権威、ロバート・リフトン博士)

 27人が一致してまとめた結論は、「トランプ氏はこれらの人格障害からくる種々の精神衛生上の欠陥から米国大統領の職務には適していない」という厳しいものだ。

 いわば精神科の権威たちがトランプ大統領にレッドカードを突きつけたのである。トランプ流に言えば、「You're fired」(お前は首だ)というわけだ。

もはや通用しなくなった「ゴールドウォーター・ルール」

 米国では1964年以降、精神科医が診断した(あるいは間接診断などで結論づけた)公人の健康状態について公けにすることはタブーになっている。

 1962年の大統領選の際に数人の精神科医が共和党大統領候補だった超タカ派のバリー・ゴールドウォーター上院議員(アリゾナ州選出)を精神障害だと「診断」し、その「診断書」を論文にして医学専門誌に寄稿したことが発端だった(参照=http://usamericana.com/fact-1-189-psychiatrists-say-goldwater-is-psychologically-unfit-to-be-president.html)。

 これに対しゴールドウォーター氏は名誉棄損でこの医学雑誌の編集長を告訴、裁判所は同氏の訴えを認め、編集長に罰金7万5000ドルの支払いを命じた。

 これを受けて、精神科医らが参加する「全米精神科医学会」(American Psychiatrist Association=APA)は会員に対し、「公人の精神・心理状態を診断あるいは推測し、その結果を公表することは社会通念上、倫理上、許されないことで、これを禁ずる」という規定を決めている。

 通称「ゴールドウォーター・ルール」と呼ばれている。

 こうしたルールにもかかわらず、なぜ今回、27人の精神科医たちはトランプ大統領に対する「診断」を公開したのか。

 理由は3つ。1つは今回「診断」した精神科医たちは、大半が「APA」会員ではなく、もう1つの精神医で作る「全米精神分析学会」(APsaA=American Psychoanalytic Association)の会員だったこと。

 APsaAは、「たとえ公人であろうと精神医が知り得た病状については公けにする社会的・モラル的責任がある」との立場を貫いている。

 そしてもう1つは、歴代大統領としては前代未聞の言動ぶりに対するメディアや世論の反応だ。

 「勇気ある27人の精神科医」が「診断」する以前(大統領選期間中)から「トランプ大統領はどこかおかしい」というコンセンサスのようなものがすでに出来上がっているのだ。

 その意味で27人の「診断結果」が出ても米国民の多くは衝撃とは受け取っていない面がある。

 著名なジャーナリスト、ビル・モイヤーズ氏などは「27人の精神科医による『診断結果』はもっと早い段階に公表されるべき、緊急事項だった」と、世論を代弁している。

 そして3つ目がトランプ氏側の対応だ。トランプ氏がこの「診断」を名誉棄損だと告訴すれば、その「事実関係」を公正な第三者機関(裁判所が指名する医師団)が同氏を直接診断することになるだろう。

 トランプ氏は喜んでそれに応じるだろうか。おそらくそのような屈辱的なことはしないだろう。

 なぜなら大統領が27人の精神科医や出版社を告訴し、裁判所が指名した第三者機関が徹底的調査、その結果、「大統領はやはり精神障害者」と判断したらどうなるか。

 米憲法修正第25条4項*1が適用され、辞任に追い込まれる可能性が出てくるからだ。トランプ氏はそんなリスクを冒すだろうか。

*1=米憲法修正第25条4項では、副大統領が大統領は肉体的精神的に職務遂行が困難を判断した場合、閣僚の過半数の賛同を得て、辞任を促すことができると規定されている(参照=https://usconstitution.net/xconst_Am25.html)。

 遠路はるばる日本にやって来るトランプ大統領に対して、日本人としてこういうネガティブなお話は申し訳ない面はある。

 しかし、6800発の核兵器を持つ超核保有大国の三軍の最高司令官たるトランプ大統領は、いつでも「核のボタン」を押せる立場にある。今回の訪日にも「ブラック・ボックス」を持参してくる。

 それだけに27人の精神科医が作成した「カルテ」については、われわれ日本人も世界中の人たちも全く無関心ではいられない。

筆者:高濱 賛