1981年9月、運行開始当初のオレンジカラーのTGV(©SNCF MEDIATHEQUE)

仏アルストムと独シーメンス、鉄道事業の統合――その発表を両社がしたのは9月26日。アルストムはフランスの高速列車TGVを、シーメンスはドイツの高速列車ICEを製造している。

一方、7月2日にフランスで2本の高速線が同日開業して、はや3カ月。その高速線を走るTGVの売り上げは絶好調で、SNCF(フランス国鉄)は、7〜8月の2カ月間におけるパリ―ボルドー間の利用者数は100万人超で、前年同期比75%増と9月22日に発表した。

その9月22日は、36年前にTGVが初めてフランスで営業運転を開始した日でもある。37年目に突入した現在、一見、好調の波に乗るようにも映るTGVではあるが、史上最大ともいえる岐路に立たされている。

資金難を露呈した高速線計画

ことの発端は、7月1日までさかのぼる。新高速線の開業前日、エマニュエル・マクロン大統領はレンヌで催されたセレモニーで、「フランスは、これ以上、高速線計画に着手しない。プライオリティは在来線」と宣言した。ボルドー以南、特にフランス第4の都市であるトゥールーズへの高速線延伸が事実上の既定路線とも見られていただけに、この発言は波紋を呼んだ。

さらに、8月30日、国務大臣兼環境連帯移行大臣を務めるニコラ・ユロ氏も、大統領に呼応した。政治ニュースのテレビ番組に出演した際、「新たな高速線の建設は、率直に言って優先事項ではない。国に資金があれば、喜んで(着工するだろう)。だが、資金がない。鉄道ネットワークは、毎年、10億ユーロ(約1300億円)の損失を生んでいる」と驚きの発言をした。

高速線の延伸計画に擁護的な姿勢を示していた運輸担当大臣エリザベット・ボルヌ氏も、「出資の確約がない運輸政策を、(実現に向け)追求していくことはできない」と、その見解にも変化が見え始めている。さらに、「5カ年計画において、約100億ユーロ(約1兆3000億円)ものインフラ関連事業が融資の確約がないまま予定されている」と、厳しい台所事情を明かした。

これらを受けて9月5日、ボルヌ運輸相を中心とした「高速線計画に関する協議委員会」がパリで開かれた。プロジェクト推進派であるボルドー、トゥールーズの両市長など多数が出席し、国にとっては“厳しい時間”であったことが想像できる。そして、9月7日、環境移行・連帯省、トゥールーズ市は、それぞれの名義で同文のリリースを発表している。その内容は次のとおりだ。


7月1日のセレモニーで、TGV運転席の窓から観衆に応じるマクロン大統領 (©Groupe SNCF )

「会合は、7月1日の大統領によるインフラ計画の優先事項を明確化するという発言を受け、行われた。会合の結果と、さらに優先事項も見極めたうえで、われわれは(プロジェクト実現に向け)協働を継続することに決定した」(途中抜粋)

マクロン大統領が挑む改革は、これだけにとどまらない。大統領は、セレモニーに向かう際に乗車したTGV車内で、SNCFの“変革”に関し、同社の十数人の社員と45分間のディスカッションも行った。

パリの車両基地に勤務する技術者、レンヌ支社に詰める管理職と幅広く招集され、大統領は、「これまで築いてきたビジネスモデル――SNCFの神話のようなものの上に、21世紀のSNCFを築くべきではない」と断じた。

そのほかにも、社員の身分規定、他社との競合、借金、そして、年金制度にまで踏み込み、その発言は多岐にわたった。SNCFのギヨーム・ペピ総裁も同席していたが、ペピ氏が驚きを隠すことはなかった。

“鉄道”の借金ではなく、“公共”の借金

SNCFの従業員の年金は、現在のフランス法令下で特別制度が適用される。ほぼ国有の形態をとる企業等に認められる制度で、運転士などの職種の社員は52歳から、内勤の社員は57歳から年金を受給できる。しかも、受給額は自身が最終的に受け取っていた最も高額な給与をベースに算出される。


約2500kmに及ぶフランス高速鉄道ネットワーク(©SNCF TGVレゾーの資料を筆者改訂)

マクロン大統領は、「われわれがこの問題を解決しなければ、その支払いをするのは、あなた方の子どもたちになるだろう。それは正しくない」と、この特別制度を廃止し、60歳から受給できる一般制度との統一を提案した。

さらに、増え続ける借金に対する大統領の矛先も鋭かった。2017年6月末で、鉄道ネットワークの資金調達から発生する国の借金は、440億ユーロ(約5兆7200億円)にまで達した。

「新たな借金を重ねることで、SNCFは社会に対し、どのような還元をすると約束できるのか。鉄道に関連する借金――そう呼ぶことを、やめなければいけない。これは、公共の借金だ。SNCFは、われわれとともに財政負担を軽減させ、現有インフラを改修する必要がある」

9月26日に発表されたアルストムとシーメンスの統合は、関係者にとって、決して寝耳に水の話ではなかった。

すでに6月26日、SNCFとDB(ドイツ鉄道)が共催した晩餐会で、SNCFのペピ総裁は車両メーカーの統合に関し、「われわれはその動きを好意的にとらえている。なぜなら、ヨーロッパの産業には競合する中国や韓国、将来的にインドとも正面から立ち向かえるだけの十分な規模が必要と考えるからだ」と容認する発言をし、そして、近く何らかの発表があることもにおわせていた。

TGVを中心に統合を考えれば、新たに発足するシーメンス・アルストム社は、その製造をどう進めるのか疑問がある。すでに1年以上も前、2016年9月からSNCFとアルストム間で、次世代TGVのプラットフォーム(技術仕様)構築はスタートしている。

その進捗は順調で、今年末にもそのプラットフォームが決定するという。固まったプラットフォームに、あとから合流したシーメンスの技術者たちも簡単に同意し、協働して次世代TGVの製造を進めることができるのか――。この件をアルストム本社に問い合わせたところ、「統合に関する質問に返答するには時期尚早」との回答だった。

「アルストムがシーメンスを買収した」との発言も

一方、TGV製造工場などの現場レベルでは、一部で反応が異なる。発電・送配電事業の2015年の米GE社への売却以降、「単体で事業を継続していくには規模が小さすぎる」との声もあった。むしろ、今回の統合は、「アルストムがシーメンスを買収した」との好意的な見方さえある。


1981年9月、開業直後のTGVから下車するミッテラン大統領(©SNCF MEDIATHEQUE)

シーメンス・アルストム社のバランス――大株主はシーメンス、そして、取締役会メンバー11人のうち6人をシーメンスから任命――この事実が、高速列車に関する何かを将来、決定する際、どう働くのか非常に興味深いが、とりあえず現段階として、10月3日にブリュノ・ル・メール経済大臣は、「フランス国内のアルストムの工場は、1つも閉鎖しない」と明言した。

1981年9月22日、TGV開業の日。フランスに新時代の幕開けを告げ、プロジェクトを指揮したフランソワ・ミッテラン大統領が、開業記念のTGVから下車する姿はいかにも誇らしげだった。

それから36年。高速線に関する多額の借金が明るみとなり、車両メーカー統合の荒波も押し寄せる中、TGVはいかなる方向に進んでいくのだろうか。