自由民主党HPより

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 ついに本日、衆院選の投開票日を迎えた。この選挙はひとえに、「国民に丁寧に説明する」という言葉とは裏腹に強行的な方法で法律を次々に成立させてきたことや、縁故主義で政治を私物化していること、国民に知らされるべき情報を隠蔽してきたことなど、約5年にわたる安倍政権の政治に審判を下す意味がある。

 だが、そうした「これまでの行い」だけではなく、さらに考えなければならないのが「これからの行い」だろう。安倍政権が継続された場合、国会で上程されるであろう法案についてだ。

 しかも、それらは、わたしたちの生活に深く影響するだけではなく、この国のかたちを一変させる危険をはらんだものだ。

 まず、そのひとつが「働き方改革関連法案」、いわゆる「残業代ゼロ」法案、「定額働かせ放題」法案だろう。電通の高橋まつりさんが過労自殺した事件を受けて、自民党は選挙公約でも〈長時間労働を是正する〉と謳っているが、この法案の中身は、さらに労働者を長時間労働に晒す内容なのだ。

 たとえば、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)の導入。この制度について、大手メディアは「働いた時間ではなく成果で評価する」「働く時間ではなく成果に応じて賃金を払う」などと紹介しているが、成果に合わせて賃金を決めることは現行法でも可能なこと。しかし、高プロが導入されれば、労働基準法が定める週40時間労働や休憩、休日などの規制から除外されてしまうのだ。

 また、いまは「高度の専門職」「年収は平均年収額の3倍程度の労働者」が対象とされているが、経団連は以前「年収400万円以上を対象」と主張していたことからも、この要件は引き下げられるという見方が強い。

 いや、年収が高くない人にとって他人事ではないのが、1日にどれだけ働いても合意した「みなし労働時間」で定額賃金を支払う「裁量労働制」の拡大だ。こちらは専門職のほかに、管理職や一部の営業職にまで対象を広げる。これは「1時間働いても8時間働いたことになるのだから、いいのでは」と思われがちだが、とんでもない。仕事が片付かなければ逆に何十時間でも働かせることが可能になるからだ。

 実際、電通の高橋まつりさんの遺族は、長時間労働を規制する法律の必要性とともに〈労働時間の規制をなくす法律は、大変危険だと思います。高度プロフェッショナル制や裁量労働制など、時間規制の例外を拡大しないでください。娘は戻りません。娘のいのちの叫びを聞いて下さい〉と訴えている。

 だいたい、安倍首相は〈長時間労働を是正する〉と言いながら、この法案で時間外労働の上限規制を、過労死ラインの月80時間を超える「月最大100時間未満」としている。このまま法案が通れば、現状よりも長時間労働を助長することは間違いないのだ。

 結局、安倍政権が国民ひとりひとりの健康や安全を守るではなく、労働者を消耗品のように使い捨てする大企業の主張を押し通そうとしていることはあきらかだが、この「働き方改革関連法案」と同様に国会で上程されようとしている恐ろしい法案が、「家庭教育支援法」だ。

 この法案は、〈保護者が子に社会との関わりを自覚させ、人格形成の基礎を培い、国家と社会の形成者として必要な資質を備えさせる環境を整備する〉〈保護者が子育ての意義を理解し、喜びを実感できるようにする〉(毎日新聞2016年11月2日付)などと規定し、それに沿った基本方針を国や自治体が協力する、という内容だ。

 自民党は素案から家族国家観的な表現をやや弱めて修正しているが、本質は何も変わらない。ようするに、待機児童問題も解消できていないというのに、必要なインフラの整備はそっちのけで、公権力が家庭内の教育に介入することを定めようというのだ。

 しかもこの法案は、安倍首相が会長となり2012年4月に発足させた「親学推進議員連盟」が立法化を宿願としてきたもの。実際、安倍氏は当時のメルマガで、同議連についてこう記している。

〈教育は本来「家庭教育」「学校教育」「社会教育」の三本柱で行われなければなりません。しかし戦後「家庭教育」が消され、家族の価値すら、危うくなっています〉
〈子供に輝宙(ピカチュウ)愛猫(キティー)礼(ペコ)とまるでペットにつける様な名前をつける親が増えています。(中略)こうした現状は子供をどう育てるかわからない親が増えている結果と言えます〉
〈私達の議連は改正基本法を基に、「家庭教育支援法」を制定し、子供達の為に子育て家庭を支援していきたいと思います〉

 だが、安倍首相が必要であると強調する「戦前の伝統的な子育て」の中身は、トンデモと差別的思想で固められたシロモノだ。

 本サイトでは何度も俎上に載せてきたが、「親学」とは極右団体「日本会議」の中心メンバーである高橋史朗氏が提唱する教育理論で、「子守歌を聞かせ、母乳で育児」「授乳中はテレビをつけない」などと提唱。さらには「児童の2次障害は幼児期の愛着の形成に起因する」と主張し、"子どもを産んだら母親が傍にいて育てないと発達障害になる。だから仕事をせずに家にいろ"という科学的には何の根拠もない理論を展開。当然ながら、大きな反発を受けてきた。

 さらに、高橋氏が会長を務める「親学推進協会」は日本会議の別働隊であり、「家庭教育支援法」は日本会議がめざす憲法24条改正のための布石であるとも目されている。事実、日本会議の椛島有三事務総長は「『親学』は男女共同参画に対する対案の意味を持つ。ジェンダーフリーに対する保守の側の回答であり対策であります」「親学は父親母親の違いを明確にし、結果として男らしさ女らしさを育みます」などと日本会議福岡の総会で述べたとされる(朝日新聞16年6月17日付)。

 つまり、根拠もない非科学的なものを「伝統的な家庭教育」と呼び、母親である女性に強制して家庭に縛り付ける戦前の「家制度」下の思想が、極右の運動によって法制化されそうになっているのである。

 そして極めつきは、なんといっても「憲法改正」、なかでも「緊急事態条項」の新設だろう。

 自民党の選挙マニフェストでは巧妙に言葉を言い換え、さらっと「緊急事態対応」としか書いておらず、選挙戦においても争点にはなってこなかったが、これこそが安倍首相に権限を集中させフリーハンドを与える、つまり「独裁を許す」という、もっとも危険なものだ。

 まず、第一に危険なのは、自民党憲法改正草案によると、緊急事態宣言が出されると《内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定すること》や《内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすること》が可能になるため、安倍政権が徹底して軽視してきた国会での議論や手続きをすっ飛ばして法律をつくることや予算を組むことができる。その上、地方自治体に対しては、ナチスが首長を罷免したように、翁長雄志・沖縄県知事を罷免することも可能になるだろう。

 さらに、いちばん危惧されるのが、《何人も(中略)国その他公の機関の指示に従わなければならない》《基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない》とあること。すなわち、すべての人が否応なく国に従うことを余儀なくされ、法の下の平等や、思想・信条、表現、言論の自由などといった権利を「制限」されてしまう、ということだ。

 くわえて、緊急事態であることを決めるのは総理大臣なのである。閣議を通すとはいえ、「妻は私人」「"そもそも"には"基本的"という意味がある」などというトンデモ閣議決定を乱発してきたことを考えれば、安倍政権下ではまともな判断が下されないことは明白。つまり、北朝鮮によるミサイル挑発でも──たとえ国内に着弾せずとも──安倍首相は緊急事態を宣言できるのである。

 自民党は、選挙後「災害時に備えて国会議員の任期延長ができるようにするために緊急事態条項が必要」と訴えてくると思われる。しかし、国会議員の任期延長を憲法上で認めることは、議員がいつまでも居座りつづける可能性がある、とても危険なことだ。いや、緊急事態条項が新設されれば、憲法で「独裁」を保障することになるのである。この衆院選を最後に、普通選挙がおこなわれなくなる──そんな未来がやってくるかもしれないのだ。

 これらは絵空事でも妄想でもなく、間もなく国会に提案される予定の法案だ。安倍政権にこの国の未来を明け渡すとは、こういうことなのである。
(編集部)