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厚生労働省の調査によると、腰痛を抱える患者は2800万人。これだけ患者が多いのは、腰痛患者の85%が、原因不明の“見えない腰痛”に悩まされているからだ。では腰の痛みを消すにはどうすればいいのか。早稲田大学の金岡恒治教授は「背もたれを使わずに座ることを意識してほしい」という。腰の痛みを消す具体的な方法を解説しよう――。

■二足歩行するだけで腰に負担がかかる

長年腰痛を患って、いろいろやってはみたけれどもイマイチよくならず、もう腰痛と友達のような長い付き合いになってしまっている……そんな人は多いのではないだろうか。

「そもそも人間の身体は4つの足で歩くためのつくりになっています。二足歩行が腰に負担がかかるのは当然です」

こう語るのは、ロンドン五輪の日本選手団本部の帯同ドクターで、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の金岡恒治氏だ。

「日常生活そのものが、腰に負担のかかるスポーツだと思ってください。負担がかかっているのに腰回りを支える筋肉が弱ければ、故障してしまいますよね。腰痛は肥満や喫煙、姿勢、さらには遺伝や老化、心理的因子など様々な原因が複雑に絡み合って起こりますが、かかっている負荷に対して腰が耐えられる強度になっていないことが根本にあるのは間違いありません。姿勢の矯正などで腰にかかる負荷を軽減するか、エクササイズで筋肉を強化するか、それ以外に解決策はないのです」

腰痛に苦しむ人がまず考えなければならないのは、自分の腰がどういったメカニズムで痛みを引き起こしているのか、仕組みを知ることだ。実は、それを理解するだけで腰痛の問題は半分くらい解決できてしまうという。

「腰痛はレントゲンなどの画像診断で骨の異常が認められる『特異的腰痛』と、画像診断で痛みの原因が判別できない『非特異的腰痛』の2つに大別されます。言い換えれば、“見える腰痛”と“見えない腰痛”ですね。腰痛患者の85%が後者の“見えない腰痛”と言われ、何年治療しても根本的には良くならないという問題を招いているのです。腰痛は脳で痛みを増幅して感じてしまうことがあるとわかっていて、痛みの原因がわからないというだけで、それがストレスになってさらなる痛みを招いてしまいます。でも、痛みの仕組みがわかれば自分で自分の腰の状態を判断できるようになり、対処法もわかるので不安に襲われることもなくなります。それだけで痛みの感じ方は大きく軽減されるのです」(金岡氏)

「腰痛の仕組み」とは、一体どのようなものなのか。順を追って説明しよう。

■ステップ1:腰痛が起こるメカニズムは?

▼脳につくられる“痛みの回路”

腰痛を引き起こすのは、大きく分ければ2つしかない。それは 「骨・関節」と「脳」だ。骨は、先に述べた腰への負担で痛みが生じる。そこで起きた痛みを仮に「1」とすると、その「1」の痛みに対して心理的因子によって脳が拡大解釈して「3」や「4」の痛みだと錯覚してしまうことがあるという。

「痛みの感じ方というのは人それぞれです。『1』の痛みをそのまま『1』と感じる人もいれば、『5』と感じる人もいます。痛みに対して敏感な『5』と感じる人は、脳の神経伝達物質のバランスが悪いと考えられています。傾向としては、不安感が強く、ネガティブな考え方をする人に当てはまることが多くなっています」(早稲田大学スポーツ科学学術院教授 金岡恒治氏)

こう語るのは、脳と痛みの関係に詳しい上野毛脳神経外科クリニック院長で脳神経外科医の小林信介氏だ。

「腰痛を含めた疼痛に苦しんでいる人は、思考や創造性、感情などを司る前頭葉の血流が低下しているという研究結果があります。まだはっきりしていないことも多いのですが、腰痛と脳に密接な関係があることは明らかです。脳神経外科医の立場から言いたいのは、腰痛は慢性になる前に早く治療して痛みを取り除く、ということです。痛みが継続的なものになってしまうと、仮に痛みの原因が改善されても、脳が“痛みの回路”を記憶してしまって、いつまでも痛むということも起こりうるからです」

とはいえ、すでに慢性腰痛になってしまっている、という人も多いだろう。そういう人は痛みに対して後ろ向きにならず、前向きな気持ちになれることをすべきだと小林氏は助言する。たとえば、趣味に没頭するようになったら痛みが改善された、犬を飼い始めたら腰痛が治った、といった事例は数多くあるという。

「あとは、辛い気持ちを吐き出すことでしょうか。ネガティブな思いを人に話すことで、気持ちがすっきりして前向きになれることも多い。悩みや苦しみを自分の中だけに溜め込まないことが大事になると思います」(小林氏)

このように、脳が痛みを拡大解釈して感じさせる傾向があるとはいえ、痛みの元になるのは、「骨・関節」の部分だ。その震源地は、「椎間板」「椎間関節」「仙腸関節」の3つ。腰痛そのものはこれらの骨か、その付近の筋肉から発症する。自分の腰痛が3つの震源地のどれからきているかを知ることが重要になってくる。

主な要因は椎間板と椎間関節になる。仙腸関節の痛みは圧倒的に女性が多いが、腰痛の原因としては10%程度だ。

自分は一体どれが原因になっているのか。3つの震源地の構造と合わせて、痛みの原因を特定する方法を解説していこう。

■ステップ2:腰痛の原因を特定するには?

▼セルフチェックで判明! 前屈で痛めば椎間板

「椎間板」は背中の骨と骨の間にある軟らかい円盤状の軟骨で、背骨に加わる衝撃を吸収するクッションのような役割を果たす。椎間板に負担がかかって、神経に触れると痛みが発生する。これが椎間板からくる痛みの仕組みだ。

「この段階では画像診断で異常が認識されない“見えない腰痛”ですが、これが悪化することで『椎間板ヘルニア』という“見える腰痛”になります」(早稲田大学スポーツ科学学術院教授 金岡恒治氏)

「椎間関節」は背中側にあり、背骨同士をつなぎ、左右合わせて48カ所もある。関節は「関節包」という膜に包まれているが、その中には多数の神経があり、関節が傷つき、神経が刺激されると即座に痛みが起こる。

「仙腸関節」は骨盤の中で最も大きい骨である腸骨と、背骨である腰椎の下にある仙骨をつなぐ、縦に長い関節だ。かつては腰痛の原因とは考えられてこなかったが、ここで起こった炎症を注射でおさえると腰痛が軽減されることから、腰痛の原因箇所の一つと見られるようになった。仙腸関節に負荷がかかり、関節をずらす力が加わると仙腸関節のズレが生じ、痛みが発生する。

「骨は酷使しても壊れない人、すぐに悲鳴をあげる人など、個人差があります。今までどれだけ負担をかけてきたか、その蓄積したダメージも痛みの発症に関係すると考えられます」(上野毛脳神経外科クリニック院長 脳神経外科医 小林信介氏)

では腰痛の原因をどう特定するか。まずは腰のどこが痛いのかを自分で指差してみてほしい。

仙腸関節は、ズボンのベルトの位置くらいの高さで、背中側の体の中心から指2本ぶんくらい離れた左右の位置にある。触ると少し盛り上がっているが、そこが痛みの震源地でなければ、仙腸関節の腰痛ではないと考えていい。

次に、前屈と後屈をしてみてほしい。椎間板は腹側、椎間関節は背中側にあるため、前屈をすると椎間板を圧迫し、後屈をすると椎間関節に負荷がかかる。

前屈で痛い場合は椎間板が痛みの震源地である可能性が高い。後屈で痛む場合は、さらに左右の斜め後ろに反らして、痛みが出るようであれば椎間関節由来の可能性がある。

「このいずれにもはっきりと当てはまらず、少し正中から外れたところに痛みを感じる、という人は筋肉が痛んでいる可能性が高いです。このセルフチェックで、100%とは言えないものの、どの震源地由来なのか、おおよそ判断できると思います」(金岡氏)

■ステップ3:痛みを消し去るには?

▼「1カ月で9割も痛みが軽減した」

日常生活を送るのが困難なほど腰痛や下肢の痛みやしびれが続くようなら手術を検討したほうがいい場合もある。だが、“見える腰痛”と“見えない腰痛”の多くは運動療法で改善することができる。ここからはその痛みを改善するメソッドを紹介しよう。

金岡氏によれば、「腰痛を患っている人のほとんどが、腰の筋肉を正しく使えていない」という。

ではどこの筋肉を鍛えれば改善されるのか。それは、背骨に直接くっつき、骨を支えている「ローカル筋」だ。

「ローカル筋は背骨のコントロールや体のバランス維持などで頻繁に使われる筋肉ですが、常に全力で動いているわけではありません」(早稲田大学スポーツ科学学術院教授 金岡恒治氏)

腰痛を和らげるには、ローカル筋の中でも、腰椎や骨盤を安定させるために欠かせない「腹横筋」と「多裂筋」の2つを活動させるのが効果的だ。まずはローカル筋にスイッチを入れる「ドローイン」から始めよう(イラスト参照)。

ポイントは、あおむけに寝て腰椎を下に押し付けるイメージで床にくっつけること。つまり背中を床に押し付けるように心がけてへそを凹ませて、骨盤を床側に動かすようにすると、腹横筋がしっかり働く。10秒、慣れてきたら30秒ほどおなかを凹ませよう。

ドローインの後は、いよいよエクササイズだ。ここで紹介したいのは最も手軽にできる「ハンドニー」だ。腹横筋にも多裂筋にも効率よく働きかけることができる(イラスト参照)。

「どちらのエクササイズをやるにしても、朝一番、左右2セットずつのプログラムがおすすめです。余力があれば、夜寝る前にもやってください」(金岡氏)

金岡氏が慢性腰痛を抱える40〜60代の男女の患者にこのエクササイズを1日2分ほど続けてもらったところ、「1カ月で痛みが5割減る」という臨床結果を得られた。なかには、1カ月で9割も痛みが軽減したという人もいた。6カ月続けたころには、全体の平均で8割も痛みが軽減したという。

▼背もたれを使わずイスに座ってみる

最後に、腰への負担を小さくする「姿勢」について説明しよう。

「冒頭で話したように、人間の体は4つの足で歩くつくりになっているため、腰に負担がかかるのは仕方がないことです。ベストな姿勢をとることで、負担を最小限にすることはできます。体に一本の芯が通ったようにまっすぐ立ち、さらに頭の頂点にフックをつけられ吊るされているようなイメージを持ってください。それが最も椎間板や椎間関節に加わる負荷が小さい“ニュートラルゾーン”です」(早稲田大学スポーツ科学学術院教授 金岡恒治氏)

ニュートラルゾーンとは、背骨がきれいなカーブを描き、おなかと背中の両方から腰椎を支えている状態。ゆっくりと骨盤を腹側と背中側に動かしてみて、腰の痛みや違和感が最も少ないポイントを探ってみてほしい。そこが自分のニュートラルゾーンになる。

「24時間その状態をキープすることはできませんが、日常生活の中で時々意識するだけでもいい。デスクワークでも背もたれを使わずに座るなど、なるべくニュートラルゾーンを意識してください」(金岡氏)

自分の体は、自分で把握し、管理する。それだけが腰痛改善の道、ということのようだ。

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金岡恒治
整形外科医。早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本水泳連盟医事委員長を務め、ロンドン五輪では日本選手団本部ドクターとして帯同。R-body projectにて腰痛運動療法教室も行う。
 
小林信介
上野毛脳神経外科クリニック院長。昭和大学医学部卒業。2002〜04年にドイツ・ギーセン大学脳神経外科勤務。日本脳神経外科学会専門医。日本脊髄外科学会認定医。日本頭痛学会専門医。
 

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(衣谷 康 写真=PIXTA)