「中傷デマ」3カ月以内に対応すべき理由

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社外秘の情報を暴露された企業、誹謗中傷された個人、レビューサイトに悪意たっぷりの罵詈雑言を書き込まれた飲食店など、増え続けるネット被害。対応策を、弁護士に聞いた。

■どうして人はネットで中傷したり暴露したりするのか

インターネット上に、自社の名誉を傷つけられる書き込みや、著しく権利を損なう投稿を発見した場合、皆さんはどう対応するだろうか。特に、匿名の主による悪意というのは、なんとも不気味なものである。

「5年ほど前から、ネット上の書き込みによるトラブルの相談が急増しています。すこし経てば落ち着くかと思ったら、ずっと多いです。でも、こうした事態に直面しても、泣き寝入りする必要はありません」

そう語るのは、ネットの風評被害に関する案件を数多く扱い、昨今のインターネット事情に精通している鳥飼総合法律事務所の神田芳明弁護士だ。たとえば、法人に多いのが、匿名の内情暴露だという。

「怒りや恨みだけでなく、本人独自の正義感に基づいている場合もありますが、自分の名前を隠して、過剰な残業やコンプライアンス違反の実態、さらには社長や上司の不倫問題を暴露するようなケースが、非常に増えています。いわば公益通報の代わりにネットが活用されているようなものですが、なかには事実ではない書き込みも多く、企業側は頭を悩ませています」

従業員ではなくても、就職活動生が、落とされた腹いせに「あの会社の面接に行ったら、威圧的な態度を取られた」などと、転職サイトや2ちゃんねるなどの掲示板に書き散らかす例も。おかげで会社の評判が落ちている、人が集まらない、ネットの書き込みを理由に内定辞退があった、などと嘆く人事部からの相談も少なくないという。

一方、個人に多いのは、ツイッターなどのSNSによる被害だ。こちらの場合は主に男女関係のもつれから、個人情報を晒されてしまうようなケースが多く見られると神田氏は言う。

「リベンジポルノとまではいかないまでも、別れを告げられた元恋人や愛人から、『この男は、こんな性癖がある』『おかしな女性と交際していた』など、交際中に得た情報を暴露されたり、関係がこじれた際に根も葉もないデマを広められたりといった相談は、枚挙に暇がありません。ツイッターのように手軽に発信できる手段が身近に存在することが、理由のひとつでしょう」

では、こうした相談を受けた際、弁護士がとる対応はどのようなものか。神田氏はまず、依頼主に対して6つの対応策を提示する。そして、それぞれの事例に合わせて、ベストな選択を検討するのだ。

「どういった書き込みか、相手がどういう性格の人かなど、状況を細かく検討しながら決めていきます」

まずは(1)「反論」。書き込まれた内容が事実無根である場合は特に、憤る依頼主はこの対応を希望しがちだ。しかし、「通常は反論しないほうがよい」と神田氏は断言する。

「特に書き込まれたサイトでの感情的な反論は避けるべきです。たいてい火に油を注ぐことになり、問題をこじらせてしまう結果になるからです。企業が被害者の場合は、自分たちの立場や正確な情報を表明しておくべきときもあるので検討に値しますが、個人の場合、反論してかえって事が大きくなっては、相手の思うつぼでしょう」

個人間の場合、反論によって得られるものは少ない。そこで意外と有力な選択肢となるのが、(2)「無視」である。

「何かを暴露する投稿がされたとしても、相談者が感じているほど、その書き込みが目立たず、それ以上書き込みがないケースというのはよくあります。当事者としては、何か対応せずにいられない気持ちになるのは当然でしょうが、もしそれがいくつもの検索ワードを組み合わせなければたどり着けないネットの深部に書き込まれたものなら、無視して風化させてしまうほうが得策とも言えます。行動を起こしたときに、新たな書き込みを誘発するリスクやかかる手間やコストと、天秤にかけて考えるべきでしょう」(神田芳明弁護士)

すぐにでも行動を起こしたい焦りはあるが、そんなときこそ、冷静になることが大事なのだ。

もし反論でも無視でも事態の収束が見込めないという結論に至った場合は、(3)「削除」以降の選択肢がクローズアップされることになる。ここからは法的対応となるが、改めて考慮すべきポイントが3つある。

「まず、書かれているのは本当にその人のことなんですか? という点。これを専門用語で『同定可能性』と言いますが、問題の書き込みによって企業や個人をどこまで特定しうるものなのか、その可能性を考えます」

ネットの書き込みは、伏字やイニシャルにしてあったり、名前が書いていないケースも多い。たとえ名前が明記されていても、それだけでは特定できないこともある。勤務場所、生年月日など、そのほかさまざまな情報があって『どう考えてもその人』ということが言えるなら、話が前に進む。自分では明らかに自分のことが書かれていると確信していても、第三者が見て認識できるとは限らないのだ。

次に、「権利侵害の有無」。書き込みが相談者のどんな権利をどの程度侵害しているのかを検証する必要がある。

「相談で一番多いのが名誉毀損ですが、自分にとっては腹立たしい言葉でも、それが本当に権利侵害に当たるかどうかは判断が難しい場合もあります。基本的には、その人や企業の社会的評価を低下させると認められれば名誉毀損ですが、それが単なる評価や意見で、『事実』が示されていない場合は、名誉毀損の問題ではありません」

たとえば、食べログに「この店はおいしくない」と書くのは、あくまで個人の意見なので名誉毀損には当たらない。料理に対する正当な批評は社会通念上認められるべきだからだ。「和牛だと偽ってオーストラリアの三流の肉を出しているから、おいしくない」と書けば、意見の前提として事実を示しているので、名誉毀損の可能性がある。

もうひとつ気にしないといけないのが、「炎上の可能性」。法的対応を進めたときに、相手がそれを知ることで、被害が大きくなってしまう可能性がないか。

「書き込んだ相手に構ってもらいたいという願望でやっている場合は要注意。こちらが何らかの対応をすることで『構ってくれた、よし頑張ろう』と、一層燃え上がることもあるんです」

相手の性質によって、どの程度被害が拡大する見込みがあるのかを見極める必要があるのだ。

■プロバイダが削除してくれないときどうするか

では、具体的に(3)「削除」するにはどうすればよいか見ていこう。

「掲示板などのウェブサイトやブログへの書き込みにより権利を侵害されたとき、公開を止めさせたりすることを、法律用語で『送信防止措置請求(削除請求)』と呼び、運営元の事業者(プロバイダ)に、削除を依頼することになります」(神田芳明弁護士)

もちろん、個人でプロバイダに請求することも可能だ。サイトによっては、トラブル発生時の相談フォームを用意しているところも多い。しかし、個人からの送信防止措置依頼に対しては、誠意ある対応が見られない場合もある。そんなときは、弁護士を通すのもひとつの手だ。

「きちんと権利侵害を説明できれば、個人からでも弁護士からでも同じ結果になるはずなのですが、サイトによっては、弁護士名で依頼したときのほうが削除してもらえる可能性が高くなります。もしそれでも削除に応じない際には、仮処分を申し立てて、削除を求めることも考えられます」

裁判で申し立てが認められれば、裁判所がプロバイダに命令してくれる。とにかく一刻も早く書き込みを消したい際には、すぐに弁護士を通すのが得策だ。

書き込んだ犯人がわからないときには、(4)「特定」という選択肢もある。ネット上の書き込みは、しかるべき手段をとれば、投稿者を特定することができるのだ。この手続きは「発信者情報開示請求」と呼ばれる。

「請求には通常、少なくとも2段階必要です。まずはブログや掲示板の運営者(コンテンツプロバイダ)にIPアドレスやアクセスの日時等を開示させる仮処分を申し立て、それをもとに、ネット接続業者(インターネットサービスプロバイダ)に対して発信者の氏名・住所等の開示を求める訴訟を起こします。これらのプロバイダは各ユーザーのアクセスログを、ネットに接続した個々の機器を判別するIPアドレスと共に保存しています。アクセスの日時とIPアドレスを開示させれば、書き込んだ人物にたどり着けるのです」

送信防止措置と同様に、自力で請求手続きを行うことも可能だ。しかし、個人情報保護の問題から、プロバイダが開示を渋るケースも少なくない。

「削除依頼は結構応じてくれるのですが、IPアドレスの公開は、裁判外で対応してくれるところは少ないですね。気をつけていただきたいのは、アクセスログの保存期間。だいたい3カ月ぐらいというところが多い。ちんたらしていると、特定できなくなってしまうので、なるべく早く裁判手続きに入ることが大事です」

権利を侵害する書き込みによって売り上げダウンなどの実害を被ったり、悪い評判が立つなど精神的苦痛を味わった場合、相手に(5)「損害賠償」の請求を行うことも考えられる。

「誰が書き込んだかわかっていれば、民法で定められる『不法行為に基づく損害賠償請求』ができます。慰謝料などを請求する、ということです」

損害賠償の金額はケースバイケースだが、一般的な名誉毀損では、数十万から100万円程度になることが多い。営業上の損害を立証できれば、数百万以上の高額になることも。

ただし、送信防止措置や発信者情報開示請求を含めて、すべての法律事務所がネットに関する訴訟案件を扱っているわけではない。事前にホームページなどで対応の可否を調べてから相談する必要があるだろう。

■弁護士に頼むといくらお金がかかるのか

なお、気になるのが弁護士に支払うお金。事務所によって差はあるものの、たとえば削除の仮処分を行う場合、20万〜30万円程度。発信者情報開示請求であれば、40万〜50万円まで費用が嵩むこともある。損害賠償請求の場合は、着手金が請求額の10%程度、成功報酬は支払われた金額の10〜20%程度だ。

ほかに、(6)「警察」に助けを求めたほうがいい場合もある。特に相手が激高する性格だったり、ストーカー的な行為に及んでいる場合だ。

「警察が電話したり、直接会いに行って口頭で注意すると、9割ぐらいの人は、途端に態度を改めます。私が電話で相手に連絡をとったときに、『警察でも何でも来いよ!』と威勢がいいことを言っていたのに、いざ警察から警告を受けたらおとなしくなって、パタッと止まったということもありました」(神田芳明弁護士)

また、書き込みではないが、SNSのアカウントを乗っ取られて、自分の友達にどこかのサイト経由でお金を振り込ませるメールが届いたりするような被害を受けた場合。犯罪集団が絡んでいることもあるので、被害が深刻な場合は、警察に通報したほうが無難だ。ただし、警察は被害が明らかでない場合は動いてくれないことが多い。状況をうまく説明するためにも、まずは弁護士に相談したほうがスムーズだろう。

ここまではネット被害に遭ったときの対策に焦点をあててきたが、無自覚に自分が加害者になってしまうこともある。

最近よく耳にする「ソーシャルハラスメント」。たとえば、何の気なしに部下に対してフェイスブックなどのSNSで友達申請をする行為自体が、相手に苦痛を強いていることもある。

「上司からの友達申請を承認したら、プライベートでアップした写真に頻繁にコメントを書かれたり、自分の投稿へのコメントを強制されるようになって、ノイローゼ気味だ、というような相談もあります。頻度や内容によっては、『民法上の不法行為』に該当し、慰謝料請求の対象となる可能性があります。被害者は、上司の使用者である会社に対しても、使用者責任などを問うことができるのです」

さらに昨今、神田氏が問題視しているのは、デマツイート。

「熊本で震災が起きた際に、『動物園からライオンが放たれた』というデマを発信した男が、偽計業務妨害の疑いで逮捕されたニュースは記憶に新しいところでしょう。ここで問題なのは、このツイートがデマであると知らず、非常に多くの人がリツイートしてしまったこと。もちろんそれは善意による行動が大半だと思いますが、情報の真偽を確かめずに拡散したことが、権利侵害だと判断される可能性はゼロではありません」

知らないうちに加害者にならないためには、どんなことに気をつければよいのだろうか。

「各自がネットリテラシーを高めることが大切でしょう。車を運転するには運転免許が必要なのと同様に、インターネットを活用するためには、ネットに関するルールや法律を知る努力をすべきです。知らなかったからといって、違法なことをしても許されるわけではありません」(神田芳明弁護士)

仕事にも生活にもインターネットが欠かせない時代。安全運転を心がけたい。

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▼悪質な書き込みをされたときの6つの対応策

1. 反論
企業などが自分たちの立場を表明すべきときは、反論する。
2. 無視
そんなに目立たない書き込みの場合、あえて無視する。
3. 削除
書き込みを消したいときは、プロバイダに「送信防止措置」を要求する。
4. 特定
匿名の犯人を突き止めたいときは、プロバイダに発信者情報開示請求。
5. 損害賠償
犯人に慰謝料を払わせたいときは、訴訟を起こして損害賠償を求める。
6. 警察
犯罪性がある場合、相手が激高するタイプのときなどは警察に。

▼法的手段を取るとき検討するポイント

・明らかにその企業や個人だと特定できるか
・どんな権利をどの程度侵害しているか
・法的手段をとったときに、被害拡大の見込みはないか

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神田芳明(かんだ・よしあき)
弁護士(第二東京弁護士会)。鳥飼総合法律事務所勤務。上智大学法科大学院修了。ネットの風評被害対策、企業法務、不祥事対応等を扱う。共著に『その「つぶやき」は犯罪です』(新潮社新書)。
 

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(友清 哲)