音楽ヒットチャートにある変化がみられる。数あるヒットチャートの種類の中でも、iTunesチャートやレコチョクなど、配信音源がメインであるランキング上位に「ソロシンガー」が数多くを占めているという現象だ。これは何を物語っているのだろうか。【平吉賢治】

6:4の傾向

 時代によって、バンドブームがあったり、アイドルグループが支持を集めたり、一つの主力レーベルのアーティストらがランキング上位を網羅したりと、様々なトレンドが発生する。CD売上げランキングではアイドルグループの根強い人気を見せるが、配信リリース音源のヒットチャートやラジオなどのオンエアチャートでは、昨今ソロシンガーのランクインが目立つ。

 最新のiTunesチャートでは、「上位50の過半数がソロシンガー」という傾向がある。ここ数日でiTunesトップソングにランクインしているソロアーティストは、家入レオ、大原櫻子、三浦大知、安室奈美恵、星野源、カーリー・レイ・ジェプセン、エド・シーラン、米津玄師、宇多田ヒカル、蒼井翔太、前野智昭、武内駿輔、五十嵐雅など、国内外のソロシンガーの面々の名が並んでいる。また、アニメソングを歌う声優や俳優の名が目立つ。50位圏内全体の約6割をソロシンガーが占めているのだ。

 バンドやグループ、ユニット、クルーでランクインしているアーティストは、SPICY CHOCOLATE、THE ORAL CIGARETTES、AAA、乃木坂46、EXILE THE SECOND、Mr.Children、BUMP OF CHICKEN、東方神起、Mrs. GREEN APPLE、ONE OK ROCKと、50位圏内の約4割程度の比率だ。

 そして、iTunesチャートのみならず、レコチョク、FM「J-WAVE Tokyo Hot100」などのCD盤のセールス以外のランキングでも同様の傾向が見られる。

真逆の傾向の10、20年前

安室奈美恵

 昨年のシングルチャートをレコチョク等の配信サイトなどを参照し、総合的な視点でみてみると、ソロシンガーでは、桐谷健太、星野源、西野カナ、秦基博、平井堅、テイラー・スウィフトなどの名が並び、バンドやグループではRADWIMPS、ONE OK ROCK、Perfume、[Alexandros]、SMAPらがランクイン。ソロシンガーとグループの比率としては、ここ数日と同様の傾向がみられた。

 しかし、10年遡るとその比率は逆転していた。2007年の年間シングルチャートをオリコン等の統計を参照すると、ソロシンガーは、倖田來未、大塚愛、秋川雅史、桑田佳祐らがランクインし、全体の約3割強。バンドやグループはBUMP OF CHICKEN、L’Arc〜en〜Ciel、ケツメイシ、ORANGE RANGE、Mr.Children、KAT-TUN、EXILE、B’zら約7割弱の比率をグループ形態が占めていた。

 更にもう10年遡って1997年。ソロシンガーは華原朋美、今井美樹、河村隆一、長渕剛、安室奈美恵らがチャートを賑わせ、バンド、グループではSPEED、globe、GLAY、PUFFY、SMAP、Every Little Thing、THE YELLOW MONKEY、SHAZNA、MOON CHILDなど、ミリオンセールスを連発させるグループがチャートに名を並べ、その比率は7割弱だった。

 1997年、2007では配信リリースという形態自体が現在ほど浸透しておらず、CD盤の売上げ枚数のランキングも加味したが、ここ20年間の傾向を振り返ると、「グループ > ソロシンガー」から「ソロシンガー > グループ」という、音楽的な支持を集める流れがみられた。それは、2010年頃からの傾向で、以降は現在まで逆転現象は起きていないようだ。

なぜソロシンガーが注目される?

宇多田ヒカル

 国内では星野源のブレイクや、桐谷健太や菅田将暉などがシンガーとして注目を浴びたり、国外ではテイラー・スウィフトや エド・シーランなど、グループ活動をするアーティストよりも、ソロシンガーが話題に上ることが近年は多いように思える。

 とはいえ、「以前よりもソロシンガーがグループよりも評価されるようになった」という訳ではなく、「ソロシンガーの楽曲が浸透しやすくなった」ということが要因の一つのように思える。

 役者である桐谷健太が歌う「海の声」が大ヒットを記録したり、同じく役者業の菅田将暉の歌が評価されたことはごく最近の出来事だ。ネットを利用すれば配信音源がすぐに手に入るという環境が整っている現在、彼らの歌がメディアで流れ、気に入れば検索をしてデジタル配信という売り場で購入に至るまで、極端な話だが、数分でたどりつき、楽曲を楽しむことができる。

 「グループやバンドの楽曲に関しても同じことが言えるので、そこは平等だろう」というところだが、ここに、役者や声優、はたまた別の生業、本業と並行して音楽活動をするシンガーの楽曲が浸透する機会が増えてきた、ということが加わる。

 最近のチャートでは、アニメのキャラクターの声優が歌う楽曲がチャートを賑わせることが以前よりも多いという事実もある。数字的な統計をとることは難しいが、グループとしての楽曲よりも、ソロシンガーの楽曲の数が増加傾向にあるということがチャートに反映しているのではないだろうか。

ソロシンガーへの共感

菅田将暉

 インターネットで「歌ってみた」と動画を公開したり、YouTubeやSNSで弾き語りや楽器演奏を公開することは、現在では珍しいアクションではなくなった。これらの音楽活動は、基本的に一人でおこなわれることが多い。

 バンドやグループを組んで演奏をしなくても、DTM(PCでの音楽制作)でオケや楽曲を作る環境が2000年を過ぎたあたりから、格段に向上し続けていたり、弾きたい曲のコード進行をネット検索すると参考になる情報が手軽に出てくるといった、“一人完結”で制作・パフォーマンスできる音楽活動の幅が格段に広がった。

 音楽活動をする者にとって、これほど一人である程度の完成形まで辿り着く環境はなかったように思える。YouTubeやニコニコ動画などの共有サイトで作品を発表し、活動を続け、そこからメインストリームで活躍するという過程は、今や決して珍しいものではないだろう。

 もちろん、バンドやグループでそのような活動をするアーティストもいるが、アイディアや初期衝動を形にして、発表することをまず一人でやれるところまでやって――。といううちに、「一人でも案外出来た」という流れから、ソロアーティストが生まれる機会が増えたのではないだろうか。

 ソロシンガーの楽曲が浸透しやすくなったのは、一人で音楽制作や音楽的なパフォーマンスを楽しむ者が増えたことで、メジャーシーンで活躍するソロシンガーに対する親近感や共感、リスペクトが生じやすくなったということも、要因のひとつかもしれない。

 音楽チャートが現在の音楽シーンの動向をはかる全てではないが、音楽チャートの過半数がソロシンガーという傾向が物語るのは、一人で音楽を制作し、パフォーマンスをするというクリエーターが増加したという、生産的な文化発展が背景にあるのではないだろうか。