神戸製鋼所など名門企業で不祥事が相次いでおり、世界に冠たる「日本の製造業はどこに行った」と海外で報道されているのは悲しい限りである。

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神戸製鋼所で検査データ改ざん問題が発生、アルミ・銅製品だけでなく、同社主力事業の鉄鋼製品に広がった。鉄鋼製品の不正は取締役会に報告されていたものの、対外公表をしていなかったという。会社側は「隠していたわけではない。取締役会や社内のコンプライアンス委員会に報告した。法令違反かどうかという判断で公表しなかった」と説明。データ改ざんは法律違反にはあたらず、納入先との話し合いで問題は解決した、だから公表しなかったというわけである。同社に限らず、他の名門企業でもこの種の不祥事が相次いでおり、世界に冠たる「日本の製造業はどこに行った」と海外で報道されているのは悲しい限りである。

このような不祥事をいわゆる組織のガバナンスの問題ととらえると、企業経営者には決して他人事ではない。20年以上前の話で恐縮だが、大和銀行の巨額損失事件に対する株主代表訴訟の判決が産業界にショックを与えた。大阪地裁は被告人である11人の取締役らに7億7500万ドル(当時のレートで約830億円)の支払いを命じた。これは取締役とはいえ、個人では到底支払える金額ではない。

しかし、それよりも問題は、過去から今日に至るまで企業の不祥事が後を絶たず、そこに経営者や取締役に責任意識が欠如しているのではないかという点である。コーポレート・ガバナンスが日本でも言われ始めて相当の年数が経過するが、その中心課題は取締役の機能と責務にある。取締役は本来、株主の負託に基づいて企業の経営を監視・監督する責務があるが、従来日本では取締役も監査役も、その実態は企業経営に絶対的な権限を有する社長によって指名され、株主総会で選任されるとはいえ、自らを抜擢してくれた社長を監視・監督する機能が十分果たせていないからだ。
米国ではこの弊害をなくすために、独立性の強い社外取締役を任命することを義務付け、CEOをはじめ執行役員を監視・監査し、不適任と評価した場合は、CEOの首のすげ替えの権限まで与えられている。

日本でも東証のコーポレートガバナンスコードによって社外取締役設置を義務付けており、それ以来多くの企業が優秀な社外役員を任命し牽制、監査機能の強化に努めている。そして神戸製鋼のみならず不祥事を起こしている企業にはほぼすべて強力な社外取締役が存在するにもかかわらず、不祥事が起こっている。適切な人を社外役員に選任し、その人たちに事業の現状をくまなく報告し、取締役会等で発言する機会を多く持ってもらうことであろう。

注意を喚起したいのは、企業は社会の公器として、株主のみならず企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)に対し、誠実な使命遂行が求められていることである。経営トップも取締役も、現在の計画や戦略が企業の収益だけでなく社会的にも容認される行動かどうかを正しく評価・判断する良識と機能を果たすことが求められる。経営者や取締役が、株主や従業員あるいは社会に対する責任を改めて再認識し、その達成のための高いプロフェッショナル性を持つ意識改革こそが今求められているのである。
<直言篇25>

■立石信雄(たていし・のぶお)
1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC=企業市民協議会)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。