世界に先駆けてキャッシュレス社会を実現させた中国だが、先端技術の分野でも今、アメリカに肩を並べる勢い。膨大なビッグデータを駆使して、中国発の先端技術を世界標準にすることを狙っている。写真は深セン市内。

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世界に先駆けてキャッシュレス社会を実現させた中国だが、先端技術の分野でも中国は今、アメリカに肩を並べる勢い。膨大なビッグデータを駆使して、中国発の先端技術を世界標準にすることを狙っている。

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人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、医療ヘルスケアなど世界的に注目を集める次世代産業で、中国の存在感が急激に増している。AI関連の特許出願数では、米国は首位を守っているが、伸び率では中国勢が凌駕、世界の主導権を握りつつある。

◆ビッグデータ武器に、グーグル、アップルと競う

世界の自動車メーカーやグーグル、アップルなどが覇を競う自動走行分野で、IT大手の百度(バイドゥ)は自動走行車のプラットフォームを、各国の大手自動車メーカーに公開。中国は世界最大の自動車市場で、規制緩和が進行しているため実証実験やテスト走行を行いやすい。世界中を走る自動車から走行データを吸い上げることで自社のAI開発を強化するのが狙い。

医療ヘルスケア分野でも中国は世界の先を見据えている。中国ではすでにこの分野のベンチャー企業が100社以上誕生、その多くは医療情報のビッグデータを利用したものだ。ウェアラブル端末では血圧や体温、血糖値、睡眠時間などがクラウド上で共有され、スマホにフィードバックされる。また各患者のカルテや体内検査CT・MRI画像などをビッグデータ化し、治療に役立てるシステムも開発されている。

中国ネット企業は海外企業との本格的な競合にさらされなかったため、世界最大のオンライン市場をスタート期から急成長期まで思うままに活用することができた。中国のネット利用者数は2010年以降急増、現在9億人近くにに達している。中国は断トツの世界最大の電子商取引(EC)市場で、全世界のオンライン販売の4割近くを占めている。アリババのプラットフォーム上の取引だけで昨年に総額5000億ドル(約57兆円)に達し、アマゾンと米イーベイの取引額合計を上回っている。

◆1日1万6000人が起業、アジアの開発拠点へ

人口や市場規模が巨大な上に、お金を国外に持ち出せないため、国内での投資規模が大きいことも見逃せない。優秀な人材は起業を目指し、米国など海外に留学した人たちの間でも、現地のIT企業で働き、帰国してから起業するという流れが生まれている。

中国では1日1万6千人が起業。中国の官民は産業構造の「創新」を目標に掲げ、政府は巨額の補助金を支給している。深センでは、ドローンや教育用ロボット、3Dプリンター などの世界先端企業が目白押し。深センは充実したサプライチェーン、人材、工場の集積などの強みを生かして、世界の工場からアジアの開発拠点へと変貌を遂げつつある。「アジアのシリコンバレー」と言われてきたが、起業家数やIT企業の集積数などで既に“本家”を凌駕したとされる。一方で、中国政府は、生産過剰にあえぐ重工業分野の国営企業改革を推進、余剰設備の廃棄を目指しており、光と影が交錯する。

深センにハードウェア系ベンチャー企業が増加している要因として(1)全国からの移住者を中心とした若くチャレンジ精神旺盛な人材の宝庫である(2)短時間での部品調達が容易なサプライチェーンが充実している(3)香港を通じたグローバルネットワークやシリコンバレーなど欧米のイノベーション拠点とのつながりがある―などが挙げられる。

◆マンガ・アニメをスマホで楽しむ

中国では高度経済成長が続いた結果、精神的な欲求を充足するエンターテインメントに目が向き、文化産業が勃興している。アリババが大手動画配信サービス「優酷土豆」を買収するなど中国アニメ市場が活発化。マンガやアニメを愛好する人口は約4億人に達し、若者人口が減少する日本の業界にとっては救世主となる。

日本の大手出版社集英社によると、中国の若者は、街角や地下鉄車内で日本のマンガやアニメを、スマホで楽しんでいる。かつてはもっぱら単行本や雑誌の出版やテレビだったが、デジタル配信時代に突入してさらに開花した。

日本のマンガ・アニメを中国に配信している杭州翻翻動漫集団の沈浩社長は日本留学後の2009年にマンガ・アニメ関連会社「翻翻動漫集団」を創業。日本の大手出版社・集英社と提携し、『ワンピース』『NARUTO』など同社の人気マンガの中国での出版、ネット配信を行っている。集英社の足立聡史ライツ事業部海外事業課長は「中国ではネット環境が日本より整っており、若者はネットを通じて漫画を楽しんでいる」と言明、「以前は海賊版に悩まされたが、課金された正規版をスマホで読む人が急増。電子決済が後押ししている」と明かした。「同じ東洋人なので、欧米のマンガやアニメより親近感があるようだ」とも語る。大手企業が正規品の権利を持つようになったら、海賊版が減少したという。

中国のマンガ・アニメ制作の質も急速に向上。中国人の原作を日本でアニメ化して日中で配信するなど、新しい形態も生まれている。翻翻動漫集団が運営し、集英社がサポートするマンガコンクール「新星杯」(主催・浙江省杭州市)をきっかけにデビューした中国人マンガ家七人の作品が日本の雑誌やデジタル媒体に掲載され、うち一作品は最大発行部数の「週刊少年ジャンプ」(集英社)で初の海外作家オリジナル作品としてデビュー。「中国のトキワ荘(手塚治虫、藤子不二雄、石森章太郎らが暮らした豊島区のアパート)」と呼ばれる「中国漫画家村」が各地に出現、多くの志望者が切磋琢磨している。「新星杯」は中国だけでなく、海外華人華僑向けにも募集を始めている。

中国からの訪日客が急増し、昨年600万人を超え、今年は800万人に達する勢い。筆者は最近9月から10月にかけて、中国との間を2回往復したが、搭乗した大型航空機は中国人の観光客やビジネス客でほぼ満席だった。各地を取材して、中国の急速な変貌と底知れぬパワーを見せつけられた。(八牧浩行)