脳と肺にウイルスが増殖、死亡したフェレットの図(「セル・ホスト&マイクローブ」誌の論文より)

写真拡大

世界中で5000万人〜1億人が死亡したといわれる1918〜1919年のインフルエンザ・パンデミック(爆発的流行)からちょうど100年。再び新型インフルエンザの大流行が始まる可能性が極めて高くなったという恐ろしい研究が発表された。

東京大学の河岡義裕教授が率いる国際研究チームが、中国で人への感染が続いている鳥インフルエンザウイルスの一部が2017年2月に変異し、哺乳類同士で感染するタイプに変わったことを突きとめた。このウイルスが人間から人間に感染するタイプに変わり、パンデミックが起こるのは時間の問題という。研究成果は米科学誌「セル・ホスト&マイクローブ」(電子版)の2017年10月19日号に発表された。

第1次世界大戦を「自然消滅」させたウイルスの猛威

1918年に始まったインフルエンザ・パンデミック(スペイン風邪とも呼ばれた)は、第1次世界大戦のさなかだったため被害の実態は不明だが、当時の世界人口の3割弱にあたる5億人が感染、1億人近くが死亡したといわれる。各国とも戦争どころではなくなり、世界大戦は「自然消滅」の形で終わった。

人類の歴史の中でインフルエンザの大流行・大量死が繰り返されてきたが、次のパンデミックの引き鉄となるのが中国で大流行中の鳥インフルエンザ「H7N9」型といわれる。致死率が非常に高く、もともと鳥同士しか感染しなかったが、変異を繰り返し、2013年から人にも感染するタイプに変わった。世界保健機関(WHO)によると2017年9月末までに中国本土で1564人が感染、612人が死亡している。人間では約20年かかる世代交代をウイルスは数分〜数時間で成し遂げ、進化が早い。このウイルスが人から人に感染するタイプに進化するとパンデミックが始まるといわれる。

刻一刻と迫るパンデミックの危機を心配し、香港の衛生防護センターは2017年1月22日、春節(旧正月)を利用し中国本土へ行く予定の旅行者に「渡航を控えるよう」警告を発した。また、WHOのマーガレット・チャン事務局長は同年1月25日、「中国でのH7N9型ウイルスの感染者が今季(16年秋以降から)すでに225例に達し、過去4年の致死率が約40%にのぼっている。世界はパンデミックのための準備が必要なのに、まだ十分に整っていない」と警告する異例のコメントを発表した。

「誰もが見たくなかった深刻な事態に」

そんな中で、「セル・ホスト&マイクローブ」誌に論文が発表された。同誌を発行するセルプレス社のプレスリリースのタイトルは「中国のH7N9型鳥インフルエンザのパンデミック潜在力を追跡調査中 哺乳類モデルで致命的感染力」だ。

それによると、研究チームは中国の患者から採取したH7N9型ウイルスを調べた。すると、すでに人間同士に感染し細胞で増殖しやすい遺伝子変異が起きていた。人の気道などにくっつきやすいタイプに変わり、抗ウイルス薬の効果を弱める変化も起きていた。

そこで、インフルエンザウイルスに対し人とよく似た反応を示す哺乳類フェレット(イタチの仲間)で実験したところ、少量のウイルスでも、せきやくしゃみなどのしぶき(飛沫=ひまつ)で感染が広がり、7割近くが死亡した。ウイルスが肺や脳でよく増殖し、致死性が高いことが分かった。フェレットは人間に代わってインフルエンザ感染を調べる最良の動物モデルだ。つまり、人間同士のせきやくしゃみでも感染する可能性が非常に高いウイルスに変貌していることを示しているという。

一方、マウスの実験でウイルスに対し、抗インフルエンザ薬として一般に使われる「タミフル」などの「ノイラミニダーゼ阻害薬」を試すと、効果が低かった。しかし、ウイルスの増殖に関わる酵素の働きを妨げる薬のアビガン(一般名ファビピラビル)はウイルスの増殖を抑える効果が高かった。

今回の結果について、研究リーダーの河岡義裕教授は、プレスリリースの中でこうコメントしている。

「これまで、飛沫に含まれるようなわずかな量で感染し、哺乳類を殺すほど致死力が高い鳥インフルエンザウイルスは報告がありませんでした。H7N9型ウイルスは鳥から人へ感染を繰り返す過程で、病原性を強め、人から人へ感染するタイプに変わった可能性が非常に高いと考えられます。誰もが見たくなかった進化ですが、これは深刻な事態です。中国は鳥インフルエンザにかかった家禽類の対応を(殺処分ではなく)、ワクチンに頼っている状態です。鳥インフルエンザの流行の監視体制を改善する必要があります」