「老後設計の基本公式」で計算すれば、誰でも3分で「老後に使えるおカネ」が「見える化」できます(写真:よっし/PIXTA)

ファイナンシャルプランナーの筆者のところに相談に来る顧客(メール含む)は、30〜50代の方が多くを占めます。しかし、実はその後「相談者の両親」が「子どもから聞いたのですが、相談に乗ってくれますか?」と事務所に来ることがよくあります。

現役世代の顧客に対しては、経済評論家の山崎元さんと筆者が共同で考えた「人生設計の基本公式」を使って家計の見直しをしています。「人生設計の基本公式」とは、「働いている間に手取り年収の何割を貯金すべきか」という必要貯蓄率を計算することが、おおもとになっている計算式です。連載でも毎回のように触れていますが、これについては「あなたは65歳までにいくら貯めればいいのか」をお読みになるとすぐにわかりますので、ぜひ読んでみてください。

今から「老後に取り崩せる金額」を知ろう


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一方、「リタイア間近」あるいは「すでにリタイアしている」方には、「これまで積み上げた資産をいくらくらい、どのように取り崩したらいいのか」という相談への答えを出すことになります。ここでいうリタイアとは、いわゆるフルタイムで働かなくなった、というくらいの意味です。

そこで今回は、老後に取り崩してもよい金額を求める「老後設計の基本公式」という新しい考え方をご紹介し、老後資産の取り崩し方についてお話ししたいと思います。もちろんこの式は、現役時代から、「リタイア後にいくら資産を取り崩してもいいのか」を知っておくのにも使えます。また後述しますが、リタイア後でも仕事をして収入を得る場合は、その分が加味できるようになっています。

たとえば、今50歳の人が仮に65歳をリタイアと決めたら「あと15年」ということになりますが、この「老後設計の基本公式」を使ってシミュレーションをすることで「おお、順調に準備ができているな」と安心するのもよし。逆に「これではおカネが足りない!」としみじみ感じたら、行動に移すといいでしょう。

では、さっそく「老後設計の基本公式」を見てみましょう。以下、アルファベットや数式が出てきますが、一見難しく見えるだけで、眺めていれば大丈夫。なので、安心して読み進めてください。

「老後設計の基本公式」では、老後期間全体を通じて資産から平均的に取り崩すことができる額(d)を計算します。前述の山崎元さんが、マネー相談事例等を参考に、リタイア後の資産の取り崩し方について、誰でも一発で答えが出るよう、考案したものです。

以下が「老後設計基本公式」です。


式をさっとながめながら読んでください。式の「肝」になる「取り崩し可能額」(d)とは、資産から取り崩し、もらえる年金額にプラスして使ってもよい、「1年当たりの取り崩し可能額」です。つまり、年間の生活費は、「年金額(p)」に「取り崩し可能額(d)」を加えた「年間支出(y)」がメドということになります。

残りの項目も説明します。「保有資産額(A)」は、現在保有している資産額です。ただ確実に見込まれる一時退職金を加えても構いません。また、売却しようと考えている不動産も、保守的に見積もった金額で加えます。逆に、家の修理代など一時支出の予定があれば、その金額分を差し引きます。

「未年金年数(a)」は、年金の受給開始までの期間です。65歳で退職して70歳から年金を受給開始しようとする場合は5年ということになります。この期間は、年金がないので、その分を資産から取り崩すことになります。

「働く収入(w)」は、リタイア後に働いて収入を得る場合の年収(万円)を入れます。「働く年数(b)」は、リタイア後に働く予定の年数です。

定年退職する夫婦(妻は専業主婦)の場合はどうなる?

さて具体的に、桐本忍さん(60歳・仮名)、弥生さん(60歳・仮名)のご夫婦について考えて見ましょう。

桐本さんは、今年60歳で定年退職を迎えますが、会社の継続雇用制度を使って、65歳までの5年間(b)ほど働き続ける予定です。年収は、手取りで年間300万円(w)になります。年金は、5年後(a)の65歳から280万円(p)を受け取る予定です(弥生さんはずっと専業主婦)。

現在、ご夫婦には持ち家があります。実は、将来は息子夫婦に不動産を譲ることで、老後の面倒は見てもらうということになっています。施設に入居するなどの介護費用は不要という想定で、もらえる退職金を含めた「保有資産額(A)」は5000万円。そのうちの3000万円を「最終資産額(H)」として残すことにします。

最終資産額とは、最晩年に確保しておきたい金融資産の額です。介護施設入居費用や遺産額などを指します。人によっても違いますが100万円などとせずに余裕を持って見込みます。「想定余命年数(n)」は、寿命を95歳までと考えて60歳時の想定余命年数を35年とします。

さて、これらの条件をまとめて、もう一度整理してみましょう。

A:「保有資産額」5000万円
p:「年金額」(年額)280万円(「ねんきん定期便」で確認)
a:「未年金年数」5年間
w:「働く収入」300万円
b:「働く年数」5年間
H:「最終資産額」3000万円
n:「想定余命」35年


上記の条件を「老後設計の基本公式」に入れて年間の取り崩し可能額(d)を求めると、約60万円になります。老後の生活費(y)を計算すると、60万円(d)+280万円(p)=340万円。340万円を12カ月で割ると、老後は95歳まで毎月約28万3000円で暮らすことになります。

余裕が欲しければ収入を増やす手段を考えるべき

ここから社会保険料や固定資産税などを支払わなければならないので、旅行や趣味などにおカネを使うのは、少し難しい生活になるかもしれません。もう少し余裕が欲しいのであれば、今後収入を増やす手段を考えるべきです。であれば、より収入の高い仕事に就く、副業を検討する、妻も働く、などの手段があります。

もちろん、資産の一部でリスクを取って運用で稼ぐことを目指してもいいのですが、将来の運用益をあてにして当面消費を増やすのは危険です。運用益は、現実に儲けてから(実現益でなく評価益でも構いませんが、取引コストや税金も含めて保守的に時価評価してください)「保有資産額」に加えて、計算し直すようにしてください。

また、ここで1つ、想定して考えておいたほうがいいことがあります。仮に、夫の忍さんが先立ってしまったら、妻の弥生さんはどうなるかです。

忍さんがいま亡くなったらどうなるでしょうか。年金受給額は、夫婦で280万円(うち妻の弥生さんの基礎年金が78万円)です。忍さんの受給額を、厚生年金(124万円)と基礎年金(78万円)の合わせて約202万円とした場合、遺族年金として弥生さんに支給されるのは、厚生年金124万円の4分の3にあたる93万円です。弥生さん自身の基礎年金78万円と合わせると、171万円になります。

そうすると、老後生活費(y)も減ることになりますので、年間取り崩し額(d)を計算し直す必要があります。この「老後設計の基本公式」は、このように状況が変わったり、資産が大きく減ったり増えたりした時には、再計算をして、取り崩し額の調整をしてください。

年金は「繰り下げ受給」をする

こうした事態を考慮して取りうる対策の1つに、元気な場合は、「年金を繰り下げ受給する」という方法があります。

受給をひと月繰り下げると0.7%受給額が増えますので、仮に、70歳まで受給開始年齢を引き下げると、受給額は42%増えることになります。夫婦ともに70歳まで繰り下げた場合、65歳でもらえる年金額は280万円でしたから42%増えると、397万6000円になります。

70歳を過ぎて夫の忍さんに万一のことがあった場合、厚生年金は176万円として、その4分の3は132万円ですから、弥生さん自身の基礎年金110万8000円と合わせると、242万8000円になります。老後生活費(y)は、その分増えますし、年金額は生涯変わりませんから、総じて寿命の長い女性にとって、公的年金は非常に心強い制度です。

しかし、現在、年金の繰り下げ受給をしている人は1.5%ほどだそうです。計算上は、おおむね82歳よりも長生きすると得になり、特に女性の場合寿命が長いので有利な可能性が大きいのです。もっとも、年金はこうした損得以前に、見てきたように、「長生きのリスク」に対応できる強力な保険なのだと認識するべきでしょう。

また、妻が働いて見込める収入を「2つ目のお財布」として、老後設計の基本公式の分子に加算してもよいでしょうし、有期の企業年金がある場合も、やはり加算することができます。仮に、企業年金が65歳から10年間80万円ある場合、800万円を分子に加算します。

年金受給まで収入がなく資産を取り崩す際はどうする?

このように、さまざまな想定で計算を行ってみてください。

また、運用がうまくいって資産額が増えた場合は、「保有資産額(A)」にプラスし、その後の取り崩し可能額に反映させていきます。現実に資産を取り崩す額が、想定より多くなってしまったということがあれば、計算をし直します。「取り崩し可能額(d)」と「年間支出(y)」の計算は原則として毎年行うといいでしょう。

なお、この計算は、前述の「人生設計の基本公式」の場合と同様に、資産運用がインフレ率並みに行われていることを想定しています。あくまでも一般論にすぎませんが、資産の一部でリスクを取った運用を行って、インフレ率並み以上の運用を目指すといいでしょう。運用のリスクを嫌って資産の全額を普通預金に置いているような場合は、現在の支出を控えめにして、将来使うおカネの実質価値を確保するように心掛けることが必要です。

最後に、繰り返しになりますが、基礎年金、厚生年金は、受給開始年齢をなるべく繰り下げることを考えましょう。公的年金は終身で受け取ることができるので、「長生きリスク」に対応できる強力な手段です。そうなると、退職してから公的年金を受給するまで数年間は収入がなくなります。ですから、できれば働いて、貯蓄の取り崩しを減らしたいところですが、この期間に金融資産の取り崩しで凌ぐ必要がある場合は、まず、銀行預金、証券口座など税制メリットのない口座から、資産全体のバランスを見ながら取り崩します。その後、確定拠出年金、NISAの順番で取り崩すようにするといいでしょう。

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