海を眼下に深呼吸。小田原「江之浦測候所」を訪ねてみたら...そこは大人の"アート"ワンダーランド!

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小田原駅を過ぎて、海沿いを走るJR東海道線からもう少しだけ車窓を楽しんだら根府川駅に到着。木造瓦葺きの小さな駅に降りたつと、大きな木と送迎バスだけが待ってくれて。
JR東海道線の根府川駅。ホームからも海が近い、のどかな木造駅舎が旅心をくすぐる。
東京から小一時間だというのに、それだけで「ちょっと遠くに来てみたぜ♪」感は急上昇すること必至。さらにバスで山を登ること数分、目的地である「江之浦測候所」に到着です。
構想は壮大。大人のアートワンダーランド
10月9日にオープンしたばかりのこちらは、世界中のアート愛好家によって一目を置かれる現代美術作家・杉本博司氏が構想から10年以上を経て手がけた、複合的な文化施設(って少し事務的な表現ですが)。"アートの起源"を探るという彼のライフワークの集大成とも言える、大人の"アート"ワンダーランドでした。
この日はオープン直前の内覧会で、光学硝子舞台にて杉本博司氏のあいさつも。途中から正座(!)、が逆に和みのおもてなしに。
内覧会では、初めて体感する海と空と杉本世界との競演にアートに詳しい取材者たちでさえもソワソワ、ワクワク。
相模湾を一望できるみかん山を譲り受け、自然な地形を生かしながら造成。周囲の豊かな自然を借景に、杉本博司氏の古美術や古典芸能、あるいは文学などの深い造詣でもって集められた(彼曰く「自然と集まって来るものです」)ギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などが敷地内には巧みに配置されています。
全ては、古来からの人間とアートとの関わりに思いを馳せながらの、平安、室町......など各時代の建築様式や伝統工法を用いながらのもの。その敷地内を、肉体的にも精神的にも刺激を受けながら回遊することでひとつのアートが完成する、と考えることもできそうです。杉本氏曰く「現代文明が滅びた後にも遺跡として残ることまで想定している」というのだから、その構想は実に壮大なのです。
「測候所」なのに、美術館なの?
30を超す建造物や文化的遺物は、巡り合った経緯や制作意図が記された小冊子を片手にじっくりと楽しみたいところです。知識があるほどに味わえる対象も多いのですが、その環境に身を置くだけでも楽しめてしまう対象も。「測候所」のコンセプトを理解するためにも、少しご案内してみましょう。
室町時代、禅宗様式で建てられた明月門をくぐったら、能舞台の寸法で作られた石舞台を左手に見過ごしながらまずは海の方向へ。古代ローマの野外劇場を写した階段状の座席の先、相模湾を背にキラリッと眩しい「光学硝子舞台」が迎えてくれます。ここまでたどり着いたら、ゆっくり深呼吸しながらひと息。

舞台の左脇には、錆びた鉄板が飛び込み台よろしく海に向かって伸びています。実はトンネル状にできた建造物なので、潜ってみることを強くオススメします。その名も、「冬至光遥拝隧道」。一年の終点かつ始点と考えられる冬至の一日だけ、朝の陽光がこのトンネルにダイレクトに差し込むのだそう。訪れた日は冬至ではなかったわけですが、暗闇の中、光に向かって歩みを進めるときの浮遊感覚は十分に独特なものでした。
「冬至光遥拝隧道」を歩く。海へと届く少し手前には、留め石が。(基本的には落下防止が目的であろうけれど)結界として受け止めたくなる。
一方、夏至の朝日がダイレクトに差し込むのは、海抜100メートル地点に長さ100メートルの廊下のように建てられた「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。「人類が最初に見た風景は、海だったのでは? 」という発想から世界各地で海と水平線、そして空だけを撮影した杉本氏の「海景」シリーズが、開館記念として展示されています。「少年時代、伊豆への家族旅行で車窓から眺めた海景が強く記憶に残っていた」という杉本氏。自らの集大成となる文化施設を江之浦に築こうと考えた理由のひとつが、あのときと同じ相模湾を眺められるから、ということだったそうです。