森山直太朗が15周年で追求した“表現”とは 『絶対、大丈夫』ツアーとドラマ、劇場公演から考える

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 2017年10月25日、森山直太朗が映像作品『絶対、大丈夫 〜15thアニバーサリーツアーとドラマ〜』(DVD/Blu-ray)をリリースする。本作にはデビュー15周年を記念した全国ツアー『絶対、大丈夫』の千秋楽(2017年7月29日/東京・NHKホール)と、同ツアーの舞台裏を描いたドラマ『絶対、大丈夫』を収録。さらに完全生産限定盤であるファンクラブ盤には、ドラマのメイキング映像、ツアーファイナルのドキュメンタリーなどが収録される。

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 2015年9月から約半年間の活動“小休止”、アルバム『嗚呼』のリリース(2016年6月)に伴う活動再開、デビュー15周年記念オールタイムベストアルバム『大傑作撰』(2016年9月)、全国ツアー『絶対、大丈夫』(2017年1月〜7月)、そして、通算3回目となる劇場公演『あの城』まで、15周年イヤーをきっかけにして様々な活動を繰り広げてきた森山直太朗。本稿では映像作品『絶対、大丈夫 〜15thアニバーサリーツアーとドラマ〜』、劇場公演『あの城』を軸にしながら、森山直太朗の15周年の意義を探ってみたい。

■前進するために過去と向き合い、そしてツアー『絶対、大丈夫』へ

 全国ツアー『絶対、大丈夫』のオープニングは、最新アルバムの表題曲「嗚呼」そして「魂、それはあいつからの贈り物」。さらにライブ中盤では「『嗚呼』のなかから思い入れの強い曲をやります」という言葉とともに「とは」「金色の空」を披露するなど、このツアーの中心は明らかにアルバム『嗚呼』にあったと思う。“小休止”後の最初の作品となったアルバム『嗚呼』の制作は、発表されないまま埋もれていた過去の楽曲を洗い出すところから始まったという。歌手として前に進むためには、やり残した過去と向き合う必要があるーーそんな決意を根源にしたアルバム『嗚呼』は、決して捉えることができない人間の感情を生々しく描き出す、森山直太朗の新たな芯とも言える作品になった。

 あらゆる感情をひとつの歌のなかに結晶させた「嗚呼」、“魂”という抽象的かつ普遍的なテーマに挑んだ「魂、それはあいつからの贈り物」などがステージの上で圧倒的な説得力を放ち、直太朗のライブに新しい躍動感を与えていたことは、この映像作品からも強く伝わってくる。もちろん「さくら(独唱)」「夏の終わり」「生きてることが辛いなら」「どこもかしこも駐車場」「花」(千秋楽のダブルアンコールのみ)などの代表曲も披露されているし、ディスコテイストにアレンジされた1stシングル曲「星屑のセレナーデ」ではアフロヘア、サングラス、ベルボトムのスーツ姿で登場するなど彼らしいエンターテインメント性も発揮されているが、彼は決して後ろを向いていない。そうではなく、彼自身が置かれている“現在”そして“この先”の在り方をダイレクトに体現していた。そう、アルバム『嗚呼』を生み出した“前に進むために過去と向き合う”というスタンスは、このツアーにもそのまま継承されていたのだ。

■音楽以外の部分でも自由度を大きく上げた森山の表現

 ツアーの千秋楽に先駆け、6月25日にWOWOWでオンエアされ、千秋楽の同日にもライブ生中継の直前に再放送されたオリジナルドラマ『絶対、大丈夫』についても記しておきたい。このドラマの舞台は、ファイナル公演が行われたNHKホール。本人役で出演した直太朗は「今日は歌いたくない」とう気持ちを抑えられず会場から逃げ出し、行方がわからなくなってしまう。焦りまくるマネージャー、舞台監督、ヘアメイクは直太朗不在のままライブを敢行しようと画策するーーというストーリーのコメディなのだが、亡くなった母親役の森山良子、会場に戻ることを決心した直太朗を運ぶタクシー運転手役の綾小路翔の気の利いた演技、シニカルなユーモアをふんだんに交えた演出を含め、「ここまでエネルギーを注ぎ込む?」と驚いてしまうほどのクオリティが実現されている。

 配信シングル『絶対、大丈夫』の意外性に溢れたプロモーション(「お守り」という形でのリリース、“このお守りが本当に絶対、大丈夫であることを証明する良い手立てがないか目下のところ考え中です”というYahoo!知恵袋への書き込み、「#彼氏に歌で起こしてもらったなうに使っていいよ」というWEB CM、“歌詞のフレーズを動画検索してヒットした映像を編集する”という手法で制作されたMVなど)もそうだが、今の直太朗は音楽以外の部分でも自由度を大きく上げているのだ。アルバム『嗚呼』、全国ツアー『絶対、大丈夫』、劇場公演『あの城』の制作に関わった河野圭に取材した際、「『絶対、大丈夫』のMVもそうだけど、最近の直太朗くんはすごいことをやってるじゃないですか。それを見ていると『いまの直太朗くんには何をやらせてもいいのかな』と思いますね」とコメントしていたが、15周年の一連のアクションが「森山直太朗、最近おもしろいことになってるね」というイメージへと結びついているのはまちがいないだろう。

■劇場公演『あの城』で改めて立ち返った“表現するということ”

 全国ツアー終了後に行われた約5年ぶりの劇場公演『あの城』(本多劇場/9月14日〜10月1日)もきわめて大きな意味を持っていた。音楽ライブだけでは伝えきれない表現への取り組みとして始まった森山の劇場公演は、『森の人』(2005年)、『とある物語』(2012年)に続いて3作目。今回も過去2作と同様、作・演出を森山の楽曲の共同制作者である詩人の御徒町凧が手がけ、劇中で歌われる楽曲の詞曲を森山と御徒町が担当した。

 『あの城』で描かれるのは、敵国に侵略されて“あの城”から逃げてきた、幼い王子とその取り巻きたちの物語だ。「いつかは城に戻りたい」と願いながら国境近くの森の奥で野営を続けているが、食料も底をつき、生活を共にする人々の関係に微妙な影が差し始める。彼らは敵国と戦う覚悟を決めて城に戻るべきなのか、王子を守るために逃亡を続けるべきかという決断を迫られるのだが、逡巡しているうちに“あの城”が敵国によって燃やされてしまう。

 “幸せとは何か?”“自分とは何者なのか?”という根源的なテーマと「Que sera sera」「雨だけど雨だから」「生きる(って言い切る)」といった劇中で歌われる楽曲が共鳴し合い、ストーリーがさらに深まっていく。これこそが直太朗の劇場公演の醍醐味だ。この公演のために書き下ろされた楽曲も興味深く、特にカントリーをベースにした「糧」、自己存在を巡るテーゼを正面から描いた「自分が自分でないみたい」などは、森山・御徒町のソングライティングチームの本質をはっきりと照らしていた。公演前のインタビューで「劇場公演はそもそも、コンサートやツアーでやりきれなかったことを表現する場所だったんです。つまり音楽から派生したものだったんですけど、今回はそこに立ち返ろうと思った」と語っていた直太朗だが、『あの城』は“なぜ音楽という表現を追求しているのか?”という根本と向き合う機会でもあったのだろう。

 結果的に森山直太朗の“この先”を提示することになった全国ツアーの最終公演を記録した映像作品『絶対、大丈夫 〜15thアニバーサリーツアーとドラマ〜』、そして、表現の本質を抉り出した劇場公演『あの城』。ふたつの作品によって直太朗は現在の立ち位置と進むべき道を見い出せたのではないだろうか。15周年のアニバーサリーを経て生み出される森山直太朗の新しい歌を楽しみに待ちたいと思う。(森朋之)