子供の向上心を潰さない指導とは?【写真:Getty Images】

写真拡大

【連載コラム】ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」――子供の向上心を潰さない指導

「日本サッカーの父」と呼ばれるデットマール・クラマーさんから、子供の向上心をプレーから判断するという話を聞いたことがある。

 ある日のこと、散歩をしている時に、家の近所でお父さんとボールを蹴り合っている子を見かけたクラマーさんは、その子供に「ボールを蹴ってみて」と声をかけたという。子供は少し戸惑いながらもクラマーさん目がけてボールを蹴ると、クラマーさんはそのボールを正確にコントロールし、寸分違わぬところにボールを蹴り返したそうだ。

 そして父親の方をくるっと振り向くと、「見ましたか。彼には才能があります」と言ったという。突然そんなことを言われた父親が、慌てて「なぜ分かるのです?」と聞くと、「彼がどうやって蹴ってきたかを見ましたか? 彼はただ蹴るのではなく、あえてアウトサイドで私にボールを蹴ってきました。それは難しいことに挑戦しようとしている気持ちの表れです。才能がある」と話し、また一人散歩へと戻っていった。

 ドイツでもかつて、チャレンジそのものを否定する風潮があった。アウトサイドパスなどは「軽いプレー」としてすぐに指摘されていた。攻守に体を張ったプレーをする、1試合の間走り続ける、積極的に1対1を仕掛けていく――サッカーにおいて、そうした姿勢が大切なのはもちろんだ。しかし、それだけでは上手くいかないという事実もある。

チャレンジする姿勢を咎めず、アイデアを育むためのヒントの提供を

 サッカーは相手がいるスポーツだ。ボールを動かすと人が動き、人が動けばスペースができる。しっかり守ろうとしている相手に対してチャンスを作り出すためには、相手を動かし、自分たちが有利な状況を作り出す駆け引きが重要になる。そのために大切なのは、選手がアイデアを持ってプレーすることであり、アイデアを育んでいくためには、様々な経験と知識が必要になる。

 そしてそのための経験と知識を手にするためには、ミスを恐れずチャレンジしていく姿勢がなければいけない。子供が難しいことにもチャレンジしようとする向上心を、潰してしまってはあまりにもったいない。

 どういう局面で、どんな動きをすると相手は困り、自分たちに優位な状況を作れるのか。それを知るためのヒントを指導者が提供し、それを自分のものにするための経験の場を最大限に生かしていく。サッカーに限らず、どの分野でも同じように大切なことだと思う。