健康長寿でいるためには、生活習慣病を抱えやすい中年の時期から注意が必要だ。しかし、糖尿病や高血圧がなかなか改善されないまま、脳卒中、つまり脳の血管が詰まったり破れたりして、手足のしびれ、言葉がうまく発せられない状態に陥る人は少なくない。
 脳卒中は、主に血管が詰まる脳梗塞と、血管が破れる脳出血、くも膜下出血に分かれる。いずれにしても、発症すれば命を落とす可能性があり、一命を取り留めたとしても重い後遺症が残ってリハビリが必要になる場合が多い。
 厚労省の2016年『国民生活基礎調査』によると、介護が必要になった原因の約3割は脳血管性認知症で、脳卒中により脳の神経細胞が壊れたことに起因するという。つまり脳卒中は、健康長寿の最大の敵とも言えるのだ。

 「脳卒中の発症は、60〜70歳がピークとされています。しかし近年は、アナウンサーの大橋未歩さん(脳梗塞)や、ミュージシャンの星野源さん(くも膜下出血)のように、30代でも発症する例が増え、若年性脳卒中として注目されています。発症後に後遺症を残さないためには、発症直後の早期治療が重要になってきます」
 こう説明するのは、国立病院機構東京医療センター脳神経外科外来担当医だ。
 例えば、脳卒中のうちの脳梗塞の場合は、血管内に詰まった血栓を溶かす薬「t-PA」の投与と、血管にカテーテルを通し血栓を取り除く血管内治療がある。この2つの治療を同時並行で行うことにより、後遺症が残る確率を下げることができる。

 日本人の場合、かつては脳出血が多かった。しかし、近年は高血圧の管理が進み、栄養状態もよくなったことで血管が破れにくくなり、その発症の割合はかなり下がったという。その一方で、飽食の時代を迎えたことにより糖尿病や高脂血症の人が増え、これが脳梗塞患者の急増につながっているという。
 医学博士の内浦尚之氏はこう話す。
 「例えば、小さな脳梗塞なら、一時的なマヒなど、軽症で済む場合が多い。しかし、心臓でできた血栓が比較的大きく、これが脳の太い血管を詰まらせるとかなりのダメージとなり、当然、後遺症が残ってしまう。この心原性脳梗塞栓症は非常に怖く、発症した人のうちの約2割が死亡、さらに寝たきりなどの介護を必要とする人を合わせると、その数は約6割にまで上るのです」
 これで小渕恵三元首相が亡くなり、長嶋茂雄巨人終身名誉監督、サッカーのイビチャ・オシム元日本代表監督らは今も後遺症と闘っている。

 前述のように、脳梗塞は発症から3〜4時間以内であれば、「t-PA」薬を使ったり、カテーテルを通して直接血の塊を除去する治療法を用いるが、内浦氏は「可能な限り積極的な投薬をするが、成功率は必ずしも高いとは言えない」とも言う。とくに心原性脳梗塞栓症では、発症から10年間の再発率が7割とされ、他の脳梗塞の場合も半数近くに再発が見られる調査結果があるという。
 再発を防ぐにはどうすればいいのか。血栓を作りにくくする治療薬「ワーファリン」などがあり、専門医のアドバイスにより予防知識を得ることも必要。中でも、脳卒中で倒れる前に現れる“前触れ”を認識していれば、予防につながるそうだ。

 都内総合医療クリニックの久富茂樹院長は、こう説明する。
 「脳梗塞の症状は、ある日突然、起こるのが特徴です。急に意識がなくなり、半身麻痺や呂律が回らなくなるなどの発作が起きる。脳の血管が詰まり、さらに破れたりすれば、細胞に栄養が届かず死んでしまう。そこで心掛けておきたいのが、発作が起こる前の“異変”のチェックです。
 一時的な半身麻痺や、手足のしびれ、さらには物が二重に見えたり、ちょっとの間言葉が出てこない…。こうした症状を感じたら、すぐに医療機関を受診することです。この“前触れ”に気づくか否かは非常に重要で、気づくことができれば大きな発作、つまり脳梗塞などの予見ができるし、事前の治療も可能になります。ただ、この前触れは本人が気づきにくいのが難点なため、予めこれらの現象の原因を頭に入れておくことが大切です」