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もくじ

ー M5 vs F430 意外なカード?
ー 全開のフェラーリを引き離す
ー サウンドのみならず洗練性も
ー M5、驚異の完封勝ち
ー 青ざめる跳ね馬

M5 vs F430 意外なカード?

M5対F430というこの対決は、皆さんにとっては意外なカードなのかもしれない。

M5の新車価格は、オプションのカーボンブレーキを装着したF430に比べて、価格は半分ほど。しかしパワーの数字は勝り、乗せられる人数は倍で、トランクに至っては5倍も広い。これだけで足し算引き算を乱暴にすれば、M5の持てる魅力は倍近いといえる。

じゃあ、乱暴にではなく、ひとつひとつの能力を検分していったらどうなのか。それを確かめるべく、われわれはこの2台の高性能車を走らせてみることにした。行き先は素晴らしいワインディングロードだ。

まずM5のステアリングを握った。最初に感じたのは、M5は慣れるのに多少時間がかかるクルマだということだ。ややこしそうなハイテク装備が満載で、そいつらのためのスイッチの操作方法やディスプレイの見方を覚えるのが大変なのだ。

だから乗り込んですぐは気後れするし、装備の過剰感さえ覚える。ダンパー減衰力の変更や、オイル量の自動チェックはともかく、天気予報をキャッチして凍るほど寒い朝に自動暖機するまでの機能は必要ないように思える。

だがクルマに慣れ、各種の電子制御機能を使い込むにつれて、徐々にこのクルマのキャラクターが見えてくる。iDriveからステアリングホイールのスイッチまで、すべてがドライバーを助けるために存在しており、そしてそれ無しにはM5の価値は半分にも満たないことに気づく。

全開のフェラーリを引き離す

とはいえ、M5本質はあくまでハイパフォーマンスセダンである。加えて言えば、信じられないほど速くエキサイティングな。それを強く認識したのは、高速道路を降り、空いた2車線の国道に出てスロットルペダルを床まで踏み込んだ時だった。

正直言ってM5のアイドリング時のV10の音は、ターボディーゼルにそっくりで、少しも魅力的に聞こえない。7速トップで高速道路を2500rpmで流すときも、エンジン回転はあまりにも静かでスムーズで、牙を隠し持っているようには思えない。だが、その国道での体験は強烈だった。

わたしはまずパワーボタンを押した。それによってエンジンは通常の400psから507psのフルパワー・モードになる。電子制御ダンパーは3種類のうち最も硬いセッティングを選び出す。

スロットルレスポンスは最も鋭いモードに豹変する。変速は最もアグレッシブなパターンが選択される。さらにはシートまでもが最も尻をホールドするポジションになる。そしてわたしはミラー越しにフェラーリのドライバーの顔を見届けてから、スロットルをぐいと踏み込んだ。ギアは2速だ。

月並みな表現ですまないが、こう書くしかない。わたしの背中はシートに深く押しつけられた。回転計の針が3000rpmを指したあたりで、超ハイパフォーマンスカーのみでしか体験し得ない強烈な加速がわたしを見舞ったのである。

わたしは全身に鳥肌が立った。道は緩いRがついていたのに、不思議にもテールスライドの気配はなく、M5はただひたすら前に進んでいく。3秒後には、M5はフェラーリを10mほど引き離していたのだった。

サウンドのみならず洗練性も

針が5000rpmに至ると、M5のV10サウンドはさらに刺々しさを増した。さっきまでは後ろを走るF430の挑戦的なエンジン音が聞こえていた。だがもうM5のV10の轟きしか耳に入らない。

6100rpmのピークトルクに向かいながら加速の勢いは高まっていく。そして6500rpmで加速は一段と激しくなる。F430との差はさらに広がっていった。

M5の魅力は、そういう凶暴なエンジンだけではない。SMGのギアシフトもまたしかりである。最も攻撃的な変速モードを選び、8100rpmのレブリミットまで引っ張って、すかさずパドルを引いてシフトアップすれば、その素晴らしさがわかるだろう。

まず変速が速い。人間がMTを操作していたら絶対にこれほど素早くはできない。またシフトショックも極小だ。クラッチが切れる瞬間は明らかに衝撃があるが、再びエンゲージする瞬間にはほとんど何も感じない。

そしてこれが、いついかなる時も簡単に再現できる。人間ではそうはいかない。こうした点で、F430のF1マティックは、大方のパドルシフト式ギアボックスよりも優れてはいるけれど、M5に比べると洗練度でちと劣る。しかもギア段数はひとつ少ない。

そんなパワートレインによってM5は、2車線の国道での加速競争で、現在おそらく世界で最も憧れを集めているフェラーリF430を完全に打ち負かした。

こちらがスピードを緩めるまでに、F430との差は数十メートルにもなっていたのだ。F430に乗っていた編集部員も、これにはショックを受けたと後に述懐したが、わたしも同じようにショックだった。

高速での洗練度。座席の多さ。トランクの容量。装備の充実。1/2の価格。それに加えて加速パフォーマンスでもM5はF430を下したのである。

だが驚くのはまだ早かった。腰を抜かすような現実が次のセクションで明らかになったからだ。そこは起伏の多いオープンロードで、F430が、いかにもその本領を発揮できそうな道だった。

M5、驚異の完封勝ち

実際、フェラーリはそこで水を得た魚のように走った。だが、M5はF430を凌ぐ走りを見せたのである。

コーナー進入も限界も、身のこなしのバランス感も、すべてM5の方が上だった。嘘ではない。本当だ。バンプだらけで逆バンクも頻出するこのワインディングが終わる頃には、後ろにいたはずのフェラーリの姿がどこにも見えなくなっていたのだ。

重量を考えれば信じられないほど洗練されたその立ち居振る舞い、カミソリのように鋭いステアリング、呆れるほど強力なグリップにブレーキ性能、見事なギアシフト、鋭いスロットルレスポンス、鮮やかな回頭性……とにかく衝撃的なまでにM5は凄かった。

写真撮影の待ち時間の間に見た夢ではないのを確認するために、同じ道でクルマを取り替えることにした。去年の試乗記でベタ褒めの絶賛原稿をそれについて書いた、他ならぬそのクルマのほうにわたしが乗るのだ。

ドアを開け、美しい赤いレザーを傷つけないように慎重に身体を滑り込ませ、深く息を吸い込み、新車のフェラーリに共通した独特の匂いを嗅ぐ。そしてステアリング上に設けられた、スターターボタンを押す。

そこでまず驚いた。耳に届くサウンドが、わたしが昨年イタリアで試乗したクルマほどドラマチックでなかったからだ。あのときのような暴力的な目覚め方はしないのである。またブリッピングしたときの吹け上がりの音とレスポンスも少々大人しくなった気がする。

サウンドが控えめなのはまあわかる。F430は吸気系の臓物がエンジンルームの右側にあるために、左ハンドル仕様車と同じ吸気音を、この右ハンドル仕様では聞くことはできないのだろう。

しかしスロットルレスポンスが多少鈍い理由は不明だ。制御ソフトが異なるのだろうか? それとも試乗会で乗ったあの左ハンドル車が、「何か特別な理由」で良かった個体だったのだろうか?

走り出して、驚きはもうひとつ増えた。F430のはエンジンの低〜中速のトルクが、M5ほど豊かではなかったのだ。360に搭載されていたV8エンジンにも同様な不満を感じたものだが、試乗会でのF430ではそれは解消されたとあの時は思った。

しかし、こうしてM5と比べてみると、F430のV8は5000rpm以下で多少貧弱に感じる。それ以上まで回してやれば、F430は猛然と加速していくことは確かだ。

だがそのときにはM5は遠くに行ってしまっているのである。

青ざめる跳ね馬

もちろんM5が太刀打ちできない項目はある。操る愉しさに溢れた正確なステアリングと、フィールに富んだ鬼のようなブレーキ、ゴージャスな内装、そして何よりも3000rpmから上のエグゾーストノートである。

このサウンドはただ爆音度によってアピールするものではなく、音質そのものが魅惑的なのだ。だが、F430のこうした輝きを曇らせる事実があることをわれわれは今回のテストで知った。

それはスポーツカーの根源に関わる問題ではないけれど、高性能車としての市場存在感には大いに関係する問題である。

わたしは、F430をハードに速く走らせる過程においてクルマとの一体感を味わい、強烈な精神的な満足を得た。それは認める。しかしそうしても、追走してくるBMW M5を引き離すことができなかったのだ。

もちろんフェラーリ信者とフェラーリべた褒め評論家の信者から、反対意見が挙がるのは承知している。フェラーリには単なる速さだけではない計り知れない魅力があり、もし速さだけを追求するなら、スーパーセブンR500Rやラディカル、もしくはフルチューン800psのGT-Rでも買えばいいのだと、そういう反論だ。異論はない。

しかし、2000万円以上のお金を払ってF430を手に入れたのに、もしそれが公道で「セダンごとき」にブチ抜かれたしたら、平静でいられるだろうか。しかも今回は4人乗車で、トランクに荷物を満載しているBMWにだ。

紛れもなくF430は現代トップ、そして史上有数のスポーツカーの1台である。だが、だとしたらわたしは新型M5をどんな形容で評価していいのか。

まるで別世界から来たクルマとでも言おうか。M5はそういう風に表現するしかない差をもってフェラーリF430を下したのである。