"Nanobridge"搭載FPGAのウェハ(写真:NEC発表資料より)

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 NECは19日、独自の金属原子移動型スイッチ「NanoBridge」を搭載したFPGA(NB-FPGA)のサンプル製造を開始したと発表した。2017年度中にサンプル出荷を開始するという。

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 機能を特化したロジック半導体を安価に設計するのに多用されるのが、FPGA(Field Programmable Gate Array)である。FPGAの言葉通り、現場でプログラムによって特定機能のハードウェアを実現する。現在のFPGAの主流はSRAMベースであるが、これを金属原子移動型のスイッチに代替したことで、1/10の低消費電力、1/3の面積を実現した。また、電源を切ってもスイッチのオン・オフ状態を保持するという。加えて、SRAMのように電荷を用いないために、放射線によるソフトエラーも1/100に抑える優れた放射線耐性を持つ。

 今回の試作はファウンドリーの300mm専用ウェハ製造ラインにて、最大製造規模は5,000枚/月の規模になる見込みである。

●FPGA市場でのNB-FPGAの意義

 富士キメラ総研によれば、2020年のFPGA市場は7,550億円と、2015年度比で176%の伸びを示す。市場を牽引するのは、ザイリンクスやインテル(アルテラを買収)であり、クラウドコンピューティング、ネットワーク、産業用IoTなどで存在感を示している。

 FPGAの特長は、製造済の半導体をプログラムによって書き換え、特定用途の半導体を現場で作れることである。先端プロセスでは、数億円ともいわれる製造費用を必要とせず、かつ短期間で特定機能を実現する。

 他方、特定用途の半導体を設計製造するASIC(Application Specific IC)は、性能、消費電力、面積で優れている。

 FPGAの特長である安価な開発費と短い開発期間を維持したまま、ASICに匹敵する低消費電力、高速性能、高密度を実現したのが、NB-FPGAである。NB-FPGAの設計環境や製造環境が整えば、FPGAの主流になる可能性を秘めている。

●衛星機器とIoT機器への適用を目指す

 NB-FPGAの特長を活かして、衛星機器とIoT機器分野での適用を目指すという。

 先ず、放射線耐性が高いことから、JAXAと合同で、来年度に打ち上げる「革新的衛星技術実証1号機」にNB-FPGAを搭載し、実用性と信頼性を検証する予定だという。ソフトエラーを1/100に抑える優れた放射線耐性が実証されれば、衛星機器における有効な手段になるであろう。

 次に、FPGAに比べて1/10の低消費電力であることは、電源供給なしで何年も稼働することが求められるIoT機器にとっては朗報であろう。NECは、Cyberと呼ばれるFPGAやASICの高位合成ツールを自社開発、販売する唯一の日本企業である。この環境がNB-FPGAでも整っていることが、NB-FPGAのIoT製品への適用には重要と思われる。

 最後に、NB-FPGAは、金属原子にルテニウムを用いて、銅とルテニウムの間に個体電解質を設け、スイッチのオン・オフを決定する仕組みである。通常の半導体プロセスと異なる構造であるため、製造装置、微細化、歩留りなどの幾つかクリアすべき課題はあるであろう。2003年から始まった基礎研究から実用化まで漕ぎ着けた技術であり、イノベーションとなることを期待する。