アメリカの人種差別といえば、「アフリカ系アメリカ人に対する白人の」というイメージがあるかもしれません。だけど、他にもヒスパニックやムスリムに対する差別だって存在するのも事実。さらに、アジア系が標的になることだって。

ここで紹介したいのは、元NBA選手ケニオン・マーティンと、ブルックリン・ネッツで活躍するジェレミー・リンのやりとり。リンの対応には、様々な人種の人が暮らす日本でも、学ぶべきことがあるかもしれません。

元NBAオールスターと
初の台湾系アメリカ人の選手

まずは、知らない人のために、両者のカンタンな説明を。

ケニオン・マーティンは、NBAのドラフトで1位指名を受け、ニュージャージー・ネッツ(のちに本拠地を移して、ブルックリン・ネッツと改称)に入団。2003〜2004年のシーズンには、NBAオールスターゲームに出場するほどの実力者でした。そして、2015年に引退。

対して、ジェレミー・リンは、ハーバード大学を卒業後、台湾系アメリカ人として初のNBA選手となりました。ゴールデンステート・ウォリアーズに入団したのち、複数のチームでのプレーを経て、現在はブルックリン・ネッツのポイントガードとして活躍。また、彼はよく髪型を変えることでも知られています。

Photo by Paul Bereswill/Getty Images

そんなリンは、今シーズンからドレッドヘアでプレーをしようとしていました。ですが、その髪型を見た先のマーティンは、SNSでこう批判(自身のInstagramのアカウントではビデオを削除済み)。

アジア人に「ドレッドヘア」は
ふさわしくない

「あいつの名前がリンということを、思い出させてやらなきゃいけないのか?やめてくれよ。今までプレーしていたチームで、あんな頭をすることなんて不可能だった。誰か『黒人になりたいのか』って聞いてやれよ。気持ちは分かる。だけど、お前は”リン”なんだから」

おそらく言いたいことは、アフリカ系アメリカ人の1つの象徴でもあるドレッドヘアを簡単に扱ってくれるな、というものでしょう。けれど、これには多くのファンたちから非難の声が殺到することに。

この騒動、終止符を打ったのはリンのウィットの効いた返答でした。

違う文化への理解を深められれば
マジョリティにも影響を与えられる

「君がこの髪型を好きじゃなくたっていいんだ。でも、意見を言ってくれたことには感謝している。僕はドレッドヘアをしていて、君は中国語のタトゥーを入れている。それはお互いの文化に対するリスペクトなんじゃないかな。

マイノリティとして生きていく上で、違う文化への理解を深めていければ、マジョリティに影響を与えられると信じている。

君がチームに残した功績には感謝してるし、子どもの頃には、壁にポスターを貼ってたんだ」

確かにマーティンの腕には、「患得患失」というタトゥーが刻まれているようです。それをジョークにすることで対応したリンの機転には、多くの賞賛の声が上がっています。 

批判に激昂することなく
同じマイノリティとして寄り添う

とはいえ、幼い頃から憧れていた選手からの差別的な発言には、リンもショックであったかもしれません。だけど、アメリカに暮らすマイノリティとして気持ちが分かる以上、敵対する道は選ばなかったようです。

「自分の文化を間違って捉えられているときの気持ちは、痛いほど分かる。ハリウッド映画がアジア人を軽視していることだってある。アジアの歴史を勉強する時間が、多くの人に足りていないことも理解している。さらに、”ブルース・リー”や”エビチャーハン”という偏見を押しつけられるときに、僕はどれだけ傷つくかを知っている」

と、リンは「The Players' Tribune」に想いを書き綴っています。

前述の返答は、マイノリティの気持ちが分かる彼だからこそ言えたことなのでしょう。台湾系アメリカ人のイメージを傷つけたくない、という気持ちがあった可能性も。または、1人のNBA選手として、子どもたちに「自由」という夢を与えようとしたのかもしれません。

たくさんの人種の人が1つの国に集まっているのは、今やアメリカだけでなく日本だって同じ。この状況を踏まえるならば、差別を減らしていくアクションは重要なこと。だけど、不幸にもそれに直面したときに、リンのような「人種差別に対する平和的な解決方法」を実践することも大切なのではないでしょうか。

Top Photo by Paul Bereswill/Getty Images
Reference:Anthony Puccio,The Players' Tribune,Kenyon Martin,Jeremy Lin