不都合なことについては思考停止?財政再建は遠のくばかり(写真:M・O / PIXTA)

10月22日に投開票が行われる第48回衆議院選挙において、結局、財政再建は争点にならなかった。

安倍晋三首相は、2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げる方針に変わりはないが、その使途を従来の「社会保障費」と「後代への負担のつけ回しの軽減」から「教育無償化」へ変更するとした。9月28日の臨時国会で冒頭解散の理由として「消費税の使途を変更する」ことが「国民の皆様とのお約束を変更する」ことにあたるため、「国民の信を問わねばならない」とした。「教育無償化」は聞こえのよい政策ではある。しかし、政策効果について議論が不十分なことはさて置くとしても、実現したいならば、ほかの費用を削って財源を捻出すべきだ。

ところが、今回、自民党と議席を争う「希望の党」は「景気回復を確実にするため、2年後の消費税増税を凍結する」とし、「立憲民主党」も「将来的な国民負担を議論することは必要ですが、直ちに、消費税率10%へ引き上げることはできません」としたため、財政再建は衆院選の争点から完全に外れてしまった。

選挙に勝つためにはどの党もポピュリズム

振り返れば、安倍首相は2014年11月の衆院解散時にも、2015年10月から予定されていた消費税率引き上げを2017年4月に延期するので「国民の信を問う」ことを理由とした。結果は自民党の圧勝。そして、2016年5月末には伊勢志摩サミットで突然、リーマンショックを引き合いに出して「危機に陥る大きなリスクに直面している」と語り、消費増税を2019年10月に再延期することを発表。7月の参院選で勝利した。「消費増税」を3回選挙に使ったので、2019年10月の増税もかなり怪しくなってきた、と予想する向きが市場には多い。

今回の解散の真の理由は、安倍首相自身の支持率が下がる中で、野党・民進党が弱体なうちに、憲法改正へ向けた体制を磐石にしておきたいというものであったことは誰もが認識しているだろう。

日本の財政は、国と地方の長期債務を合わせて、2017年度末で1093兆円、対GDP比で198%にのぼる。世界共通の基準による国と地方の一般債務は2015年度実績で1296兆円、対GDP比は243.5%と断トツ。先進国で2位のイタリアは対GDP比で132.7%(2015年暦年)である。

消費税率の8%から10%への引き上げによる税収の当初予定していた使途も借金が減るわけではなく、毎年発生している財政赤字を2兆円減らすだけだ。だから「後代への負担のつけ回しの軽減」にすぎず、「つけ回し」はまだまだ続くのである。ちなみに、2017年度の基礎的財政収支は10.8兆円の赤字の予定で、2020年度の黒字化目標は達成がまったく無理という状況だ。

そんななかでも、ポピュリズム的な増税の回避、バラマキ政策といった無責任な公約がまかり通る。なぜなのか。

こうした問題の背後には、日本の財政がさらに悪化すること、あるいは財政再建への政府の姿勢が後退したことが明らかなのに、市場からの警鐘が鳴らないということがあるだろう。

市場からの警鐘はなぜ鳴らないのか

第1に、財政の体温計とも言うべき「国債の金利」が役に立たないことだ。いうまでもなく、日本銀行の金融政策が原因だ。2%のインフレ率の目標を達成するために、2013年4月以降、年間50兆円、2014年10月以降は年間80兆円も保有量が積みあがるように国債を買って資金供給する異次元緩和を続け、国債市場の流動性は枯渇してしまった。購入できる量の限界が見えてきたので、2016年2月にはマイナス金利政策、9月からはイールドカーブ・コントロール政策を導入して、短期金利をマイナス0.1%に固定、長期金利(期間10年)をゼロ%に誘導している。金利は日銀の管理下にあり、市場原理によって動くものではなくなったため、財政が悪化しても金利の反応は鈍い。

第2に、格付け会社の格付けも日本国債についてはあまり機能しない。日本国債の格付けはS&PでAプラスで見通しは安定的。ムーディーズもA1で見通しは安定的、フィッチ・レーティングスはAで見通しは安定的である。

これは格付けが、デフォルト確率を見るものだからだろう。日本政府は借金のほとんどを国内で賄っている。2016年12月末時点で1075兆円発行されている日本国債のうち海外投資家の保有比率は10.5%にすぎない。家計や企業といった民間部門に余剰資金があるので、いざとなれば消費税率でいえば30%といった大幅な増税をすれば赤字をなくせるし、もっと大幅な増税をすれば借金は減らしていくことができる。あるいは高インフレを起こせば政府債務は実質的に大幅に減るはずだ。格付け会社からすると形式的には債務不履行の確率は低いと考えられる。

つまり、財政再建に取り組まなければ、日本の家計は将来に大きな負担を覚悟しなければならなくなるが、要するに「日本経済がどんどん衰退して日本人が苦しむだけ」ということだ。BNPパリバ証券の中空麻奈投資調査本部長は「財政が悪化する方向のイベントがあっても見通しをネガティブに変えることすらせず、警告を発しないのは無責任。日本でのビジネスを失いたくないという配慮もあるのではないか」と格付け会社を批判している。

後代へのつけ回しは増大するばかり

また、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドが警鐘を鳴らしてくれると見ているような記事も時折あるが、実際は、日本国債においてはこれは参考指標とならない。CDSは保証料を支払って、元本を保証してもらう取引で、スプレッドは保証料率になる。社債などではヘッジに活発に使われている。

しかし、日本国債ではヘッジに使われていない。日本国債はすべて円建てで発行されている。日本国債がデフォルトするときは円の信用も破綻しているので、100億円分の国債と引き替えに100億円をもらっても仕方がない。したがって、日本国債のCDSはドルで取引されているが、日本政府はほとんどドル建ての債務を持っていないので、銀行などの機関投資家は為替リスクを取ってまでドルをもらう取引を行っていない。そこがかつて話題になったギリシャ国債などとの違いだ。

日本国債のCDSはヘッジ目的ではなく外国人投資家の一部が、日本国債を材料にして賭けを行なっているにすぎないので、市場への影響力はほとんどない。

以上のようにまったく警鐘の鳴らない中で、「後代へのつけ回しの拡大」に対する危機感すら失われているのが日本の現状だ。しかし、リスクが顕在化する局面はどこかで現れる。近い将来でも、米国の経済状態が非常によくなるようなことがあって、長期金利が上昇すれば、これに日本の金利も引きずられて上昇することがありうる。そうすると、日銀がこれを抑え込むことは難しくなり、政府の利払い負担が拡大していく。「フリーランチはない」とか「借りたカネは返す」といった常識は日本から失われてしまったのだろうか。