姫乃たまに聞く、「地下アイドル」という職業の実情<前編>

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「地下アイドル」について、あなたはどのようなイメージを持っていだろうか。

メディアを通して見ると、「いじめやセクハラがありそうで怖い」「闇が深そう」などのネガティブなイメージを持ってしまいがちだ。しかし、現役地下アイドルでありながら、ライターとしても活躍している姫乃たまさんの著書『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版社刊)を読むと、その印象は大きく変わるかもしれない。

「語られる」対象である地下アイドルにおいて、姫乃さんは地下アイドルを「語る」ことができる稀有な存在だ。その言葉は客観的であり、冷静。良い面も悪い面も含めて、あくまで地下アイドルという存在を淡々と掘り下げていく。

16歳のときにフリーランスで地下アイドル活動をスタートした姫乃さんは、過労から鬱になり、一度その世界から身を引いている。それでもなぜステージに戻ったのか…。その壮絶なエピソードは本書の「プロローグ」と「エピローグのようなもの」に書かれているので、ぜひ本を開いてもらうとして(ファンならずとも必読である)、今回の新刊JPのインタビューでは本書をもとに「地下アイドル」の実情について、姫乃さんにお答えしていただいた。

取材・文・写真:金井元貴(新刊JP編集部)

■「地下アイドル」という現象は東京だけのもの?

――この『職業としての地下アイドル』は新書としての出版となりました。

姫乃たまさん(以下、姫乃):2年前に出版した『潜行』(サイゾー刊)は、ハードカバーの単行本で装丁もかなり凝った作りですごく良かったんですけど、書店でタレント本や社会学の棚に置かれてしまって、タレント本としては誰も私に興味はないし、社会学の本としても見通しが甘い部分があったんです。

今回は新書なので、純粋に本が好きな方に読んでもらえるかなと思っているのですが、装丁がみな同じデザインだから、並ぶと一列で競っている緊張感が高いですね(笑)。帯も最終的に8パターンくらいつくりました。

――『潜行』の見通しが甘かった、というのは?

姫乃:私、東京の生まれなんですけど、地下アイドルを取り巻く状況って、地方でも同じだと思っていたんです。
ロコドルブーム(*1)もあったし、全国で同じように活動している子たちがたくさんいると思っていたんですけど、『潜行』を読んだ人から「でもやっぱりこれは東京の話だよね」ということを言われて、衝撃を受けて。

私は高校に物販や衣装が入ったキャリーケースを持っていって、放課後、そのままライブハウスに行って仕事をするという感じだったんですけど、それが地方では普通じゃなかった。群馬出身のアイドルの子に「地元では考えられない」と言われてしまって。だから、誰にでも伝わるように『潜行』を書いたつもりだったけれど、かなり見通しが甘かったと思いました。

(*1…ロコドルとは、ローカルアイドルの略称。地元を活動拠点にしていることが特徴)

――2年前に『潜行』を出されてから、現在も状況は同じなのですか?

姫乃:そうですね。先日、函館のコミュニティFMの番組に出演したときも、やっぱり東京の地下アイドルについて説明しても伝わらないんです。「え? なんでフリーランスなの?」「それってアイドルなの?」みたいな。

――「地下アイドル」と「ローカルアイドル」はまた違った部分がありますよね。

姫乃:函館にもご当地アイドルが複数いて、ほとんどのグループは一般的に知られていないんだけど、自治体がバックアップしていたりするんですよね。だから、東京の地下アイドルとは出自が全く違うというか、アイドルのあり方がまったく違うというか…。それは感じました。

■「地下アイドルって、一つの仕事なんです」

――『職業としての地下アイドル』は、アンケートデータをもとに地下アイドルの正しい姿を提示した一冊です。

姫乃:基本的な内容も多いので、地下アイドルの業界に詳しい人が読んだら「そうだよね」と思っていたこと数値化されていると思います。ただ、地下アイドルのことを知らない人が圧倒的に多いので、そういう人たちにも伝わるように意識しました。

――姫乃さんはよくメディアからの取材を受けていらっしゃいますが、業界外からの地下アイドル像と実際の地下アイドル像にかい離はあると思いますか?

姫乃:まだ一般の人にはよく知られていないように思いますね。「アイドル」という職業に対するステレオタイプが固まっていて、「勝気な女の子」「売れるために頑張っている」という認識を持たれます。

だから、函館でも「自分が売れることにも興味がないから、本を書けたんです」と言っても全く理解されないんですよ。「でもやっぱり売れたいんでしょ?」って。フリーランスというのも分かってもらえないし、オタク(*2)に対するネガティブなイメージもまだ強く感じますね。アイドルファンは危ない存在なんじゃないかというような。

(*2…アイドルファンの呼称。ヲタクとも)

――「イメージのかい離を埋めるために、地下アイドルの本当の姿を伝えないといけない」という使命感はあるんですか?

姫乃:『潜行』は以前から書いていたネットの連載の中でも、特に反響のあったアイドルと関係者のトラブルについてのエピソードをフックにしています。
ただ、本をちゃんと最後まで読めば、地下アイドル業界は闇ばかりではないということが分かるようにしていたんですけど、週刊誌が取り上げる部分ってどうしても枕営業や過激な部分で、そればかりが一人歩きしていたんですね。
だから、地下アイドルの世界にそんなに闇はない、ということを広めないといけない気持ちはあります。

でも、一方で安全な業界かというと、それとも言い切れなくて、実際に危ないこともあります。あるテレビ局からの取材を受けていたときに、「地下アイドルの良い面ばかりを話しているけれど、地下アイドルになりたいと言い出した子どもを持つお父さんお母さんに、『安全です、大丈夫です!』と言えますか?」と聞かれて、100%心から「大丈夫です」とは言えないなと思ってしまって。

――そこまでは言い切れない、と。

姫乃:「地下アイドル」って、一つの仕事なんですよ。だから、他の仕事と同じように性格的な向き不向きがあるし、女の子が個人でできる分、ハイリスクな部分もあります。

ただ、華やかで競争が激しくて、女の子が怖い人の食い物にされているというイメージは払しょくしないといけないと思っているから、その意味でもありのままを伝えられる新書でこの本が出せて良かったと思います。



■「やすらぎの館」と化しているライブ空間

――地下アイドルの特殊な部分があるとしたら、どこだと思いますか?

姫乃:分かりやすいところでいえば、地下アイドルの現場ですね。それは、「危険」という意味ではなくて。

アンケートの結果からも見えたんですけど、地下アイドルは親から愛されて育った子が多くて、でも学校生活の中でいじめに遭ったりして、その愛情をもう一度獲得しようとしてステージに立っているんです。一方でオタク側も同じような欲求を持っていて、実はアイドルと鏡合わせになっていると思うんですね。

先日、『もしもし、今日はどうだった』というアルバムをリリースしたんですけど、それは藤子・F・不二雄さんの「やすらぎの館」(*3)というSF短編をモチーフに、聴いてくれる人をどれだけ癒せるかということがテーマになっています。それで、実は地下アイドルのライブ空間自体が「やすらぎの館」状態になっているんじゃないかと思って。

(*3…巨人症の女性が働いている会員制のクラブを紹介された大企業の経営者が、ホステスを母親代わりにして甘え、やすらぎを感じながら子どもに戻っていくという物語。『藤子不二雄異色短編集(2)やすらぎの館』に収録)

――ライブという空間が「やすらぎの館」になっている。

姫乃:はい。地下アイドルの子も、ファンの人たちも、お互いが安らぎのようなものを求めて現場に来ているという実感があるんです。

特に長く活動している子ほど、自分が売れたいというより、どれだけファンの人たちを癒せるかが重要になっているんですよ。先日取材をした、地下アイドル活動をしている男の子もまったく同じことを言っていて、「ファンの人たちがどれだけ元気になって帰ってもらえるかということしか興味がないんだ」って。その辺は共通する部分があるように思いますね。

――安らぎをお互いに与え合うという関係性ができている、と。では、地下アイドル同士に競争意識があったりはしないんですか?

姫乃:私はないですね。文章を書いているのも、ライブ活動だけで競合するのが辛いというのもあります…。

――周囲のアイドルの子たちから競争意識を感じることは?

姫乃:同じようなコンセプトのグループがあると意識する、ということは聞いたことがありますね。

でも、楽屋も和気あいあいとしていますし、競争意識を感じることはあまりないです。付き合いやすい子が多くて、勝ち気だなあと思う子もいますけど、ほんの一部。よく言われるようないじめは全くないです。

後編はこちらから



■姫乃たまプロフィール

地下アイドル/ライター。現役地下アイドル歴8年。1993年2月12日、下北沢生まれ。16歳よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。ライターとしては、本人名義での連載が現在月に11本。他にモデル、DJ、司会としても活動。著書に『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)がある。(書籍より)

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