【福田正博 フォーメーション進化論】

 残り5節となったJ1リーグでは、個人タイトルや残留を巡る熾烈な争いが繰り広げられている。


前節のFC東京戦に引き分け、15位に浮上した甲府

 まず個人タイトルに目を向けると、得点王争いは19ゴールでトップの興梠慎三(浦和レッズ)、17ゴールでそれを追う小林悠(川崎フロンターレ)と杉本健勇(セレッソ大阪)の3人に絞られたと見ていい。

 そのなかで最もタイトルに近いのは興梠だろう。もともと戦術的に1トップの興梠にボールが集まりやすいのに加え、優勝争いから脱落しているチームに「少しでもプラスな話題を」という味方の意識が、興梠のシュートチャンスを増やすはずだ。そうなれば、Jリーグ屈指のポジショニングのよさと高いシュートテクニックを誇る興梠が、得点王へと突っ走る可能性は高くなる。

 残る2人のうち、これを阻止できるとすれば小林悠ではないかと思う。鹿島アントラーズを勝ち点差5で追う川崎Fにあって、小林悠は直近7試合で7ゴールと抜群の決定力を発揮している。逆転優勝に向け、高いモチベーションと集中力は最後まで持続するだろうし、残り試合でのゴール量産が期待できる。

 一方の杉本は、チームが直近のリーグ戦10試合で3勝1分6敗と息切れ気味なことが気がかりだ。杉本は今季からシュートへの意識が高まって大幅にゴール数を増やしたものの、ボールが回ってこなければ何も始まらない。ケガから復帰したばかりの清武弘嗣が決勝ゴールを決めた、前節のサガン鳥栖戦をきっかけにチームが立ち直れるかどうかに、杉本のタイトル獲得がかかっている。

 いずれにしろ、興梠、小林悠、杉本の誰が得点王に輝いても、キャリア初のタイトルとなる。最後まで3選手がゴール数を積み重ねるような、高いレベルでの争いとなることを期待している。

 そんな得点王争い以上に過酷になっているのが残留争いだ。

 現時点で最下位のアルビレックス新潟は、首の皮一枚がつながっている状態だ。10月14日のガンバ大阪戦に引き分けるか負けるかで降格が決まっていたところを、1-0で17試合ぶりとなる今季3勝目を手にして踏みとどまった。

 新潟は5月11日に三浦文丈前監督が辞任し、呂比須ワグナーを新監督に迎えたものの、5月20日の第12節でコンサドーレ札幌に勝利してからG大阪戦までの17試合を1勝4分12敗と苦しんだ。

 成績低迷の原因は、昨季までチームの中核を担っていたレオ・シルバ(→鹿島)とラファエル・シルバ(→浦和)を引き抜かれ、その穴を埋められなかったことに尽きるだろう。新潟はこれまで外国人選手の補強がうまく、J1昇格1年目からJリーグにフィットする選手を獲得してきたが、今季は思い通りにはいかなかった。

 2004年から14シーズン戦ってきたJ1の座を守るには厳しい試合が続くが、上位のG大阪を破った勢いを保ち、残る5戦も粘り強く戦ってもらいたい。

 17位の大宮アルディージャも土俵際に追い込まれている。昨季はクラブ最高成績の5位と躍進し、天皇杯でもベスト4に進んだが、今シーズンは開幕から6連敗とスタートダッシュに失敗。5月末に渋谷洋樹前監督を解任し、伊藤彰監督に指揮を任せたものの、悪い流れを断ち切ることはできなかった。

 大宮も新潟と同じく、昨季までの主力が抜けたことが大きかった。今季に向けて、大前元紀(←清水エスパルス)や茨田陽生(←柏レイソル)など、実績や経験の豊かな選手を獲得。十分な補強ができたかに思われたが、川崎Fに移籍した家長昭博のようにボールを収められる選手がおらず、攻守両面で苦労することになった。

 ただ、残留のボーダーラインである15位のヴァンフォーレ甲府との勝ち点差は5。柏、C大阪、川崎Fなど上位陣との試合をどうしのぐかが、降格圏脱出のカギとなる。

 大宮の上は、16位のサンフレッチェ広島から、13位のコンサドーレ札幌までの4チームが勝ち点4差のなかにひしめく団子状態となっている。

 広島は第18節まで2勝5分11敗で17位に沈み、その責任を取って森保一前監督が辞任。7月末からクラブOBのヨン・ヤンソン監督が後を引き継いだ。新体制に移行してからは、G大阪から獲得したFWパトリックとDF丹羽大輝が機能し、システムも3バックから4バックに変えたことが奏功して、4勝4分け3敗と立て直している。

 ただ、過去5シーズンで3度もリーグを制した広島には、残留争い特有のプレッシャーを経験していない選手が多い。第29節は首位の鹿島が相手だったとはいえ、0-2で完敗したのも少なからずその影響があるだろう。広島も上位陣との試合が続くなかで、重圧を跳ねのけられるかに注目している。

 残留争いをするチームのほとんどが、勝ち点を伸ばせずに焦りが生まれるという悪循環に陥るなか、15位の甲府だけは終盤戦を迎えてからも”残留のスペシャリスト”らしい余裕を漂わせている。

 J1に復帰した2013年から、毎シーズンのようにJ2降格の危機にさらされながらも、リーグ終盤で勝ち点を稼いで生き残ってきた。クラブには降格圏を脱するノウハウが蓄積されているため、監督や選手だけではなく、クラブスタッフやサポーターにも慌てる様子が見られないのだ。

 甲府は開幕から勝ち点を伸ばせず、ゴールデンウィーク明けから9月16日の第26節までの16試合は1勝5分け10敗。しかし、第27節にホームで横浜F・マリノスを破ると、翌節は柏を撃破。第29節もFC東京と引き分けて、直近の3試合だけで勝ち点7を稼いでいる。

 この原動力となっているのは、7試合で4ゴールをあげているFWのリンスだ。8月に獲得した新戦力がチームにフィットし始めたことが大きいが、この補強こそ”甲府の真骨頂”と言える。

 今季の甲府のFW陣は、昨年7月に柏から獲得したドゥドゥを軸に、昨年末にサンパウロFCから獲得したガブリエルがパートナーになる予定だった。だが、そのガブリエルが戦力にならないと見るや、6月に登録を抹消してジュニオール・バホスを獲得。そのバホスも機能しないとわかると、やはり登録を抹消してリンスを獲り、さらに9月にはビリーも獲得した。

 こうした補強を、”とっかえひっかえ”と揶揄(やゆ)する声もあるが、資金で恵まれない甲府がJ1に生き残るために見出した術であり、これもクラブ力のひとつだ。また、補強だけでなく、とにかく勝ち点を奪う戦い方に徹することができるのも強み。守備は日本人選手で固め、まだ年俸が安くて「日本で成功したい」という野心に溢れた外国人選手が攻撃を担う。その戦法で、今季もまた降格を逃れる可能性は高いと見ている。

 J1復帰1年目での降格は避けたい14位の清水と13位の札幌は、両チームのストライカーの働きが運命を左右することになる。清水ではキャプテンを務めるチョン・テセ、札幌では元イングランド代表のジェイが実力通りに活躍すれば、J1残留が現実味を帯びてくるだろう。

 残留を争うクラブのスタッフや選手たちが、勝利のために全力を尽くしていることは言うまでもない。それだけに、降格が近づいてから大きな補強を行なうクラブを見ると「シーズン前にその資金を使っておけば、違った戦い方ができたのではないか」と思ってしまう。ベストメンバーを揃え、開幕前のキャンプから時間をかけてチームを作りあげたほうが強化面での効果は大きいはずなのだが……。

 各クラブのファンにも思うところはあるだろうが、それでも残留を願い、残る試合すべてで声を枯らして応援してくれるはずだ。それに応えるための、最後まで諦めないプレーを期待したい。

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