完全予約制で、入手困難なカヌレがある。

そんな噂と共に『富士山カヌレ』の存在を知ったのは、SNSの中だった。東京きっての美食家たちが賞賛し、聞けばオープンわずか2ヶ月でミシュランの星を獲った、あのフレンチレストラン「TIRPSE(ティルプス)」がつくるカヌレだという。

「入手困難」「あのミシュラン星付きがつくる」……そんな前置きに惹かれる人はきっと多いと思う。だけど、このカヌレを前置きや肩書きで語るのは、なんだか全然違う気がした。

「このカヌレは、そういうことじゃない」

ひと口めで鼻を抜けていった香りと、じゅわっと広がってきた旨味。私が知っているカヌレとは何かが違う。その“何か”の正体が知りたくて、「TIRPSE」のドアを叩いた。

マーケティングなんてしてない。
「やってみたい」ただそれだけ。

オーナーソムリエであり、『富士山カヌレ』の生みの親でもある大橋直誉さん。

大橋:僕がフランスにいたころ、日本では手に入らないけどフランスでは手に入る日本酒がありました。日本酒なのに、それは日本では買えないんです。変な話ですよね。だけど、ちょっと面白くないですか?

だから、日本でしか買えないカヌレがあってもいいんじゃないかって思ったんだと記憶してます。

──なるほど…。でも、どうして“カヌレ”だったんですか?同じフランス菓子でも、もっと華やかでウケそうなマカロンとか色々あるのに…。

大橋:7年前のメモが出てきたんです。朝、掃除をしていたら。そこに書いてあったんです、『富士山カヌレ』って。当時僕がいたのは、フランスのボルドー。地域で唯一の2つ星レストランでソムリエの修行をしていたんですが、そこで毎日、地方菓子であるカヌレが焼かれてたんですね。

そのメモを見て、「これ、やりたい」って思っちゃったんです。僕はお菓子のプロじゃないから、売れるなんて思ってなかったし、これで儲けようとも思ってなかった。失敗してもいいから、やってみたい。ただ、それだけで始めたんです。

これは間違いなく
日本でしか作れないカヌレ

──ものすごく純粋な初期衝動だけで始めてしまった、と。

大橋:そう。失敗してもいいから、とにかく1週間だけやってみようと。メモを見つけてから3日後には、売ってましたね。

ちなみに味に関しては5分で決まっちゃいました(笑)。カヌレにするには洋酒を入れなきゃいけないんだけど、そこは焼酎と日本酒で行こうと決めていましたから。日本でしか作れないカヌレにしたかったから。

──黒木本店の芋焼酎「球」と、「澤屋まつもと」でも有名な松本酒造の酒粕が使われているんですよね。共にいま注目されている気鋭のブランドですが、どうしてこのふたつを選んだんですか?

大橋:純粋に、僕が日本で一番美味しい日本酒と焼酎だと思っているから。『富士山カヌレ』をやると決めたとき、絶対に“日本を代表する味”を使いたいと思ったんです。作るからには、日本一美味しいものを作りたいし、日本中の人たちに「一度は食べてみたいなぁ」と思ってほしいじゃないですか。

だから、決めた数時間後には黒木くんと松本さんに電話していましたよ。「今すぐ送って!」あと、「名前使っていい?」って(笑)。

初日20個、7日目200個
【完売】

──なんだか、すべてのスピード感が尋常じゃないですが…。

大橋:ね(笑)。翌日すぐに試作をしたんですが、皆びっくりだったんですよ。ちょっと想像超えすぎて「え?あれ??」ってなって。「こんなに美味しくていいの?」ってざわついたんです(笑)。初めて食べた時の「ウマい!」っていう感覚は、かなり響きました。

普通、自分で作ったものを「これ美味しいです」って言うのって恥ずかしいじゃないですか。それって本来はお客様が言ってくれることであって。だけど、言いたくなるくらい美味しいんです。

この一連の流れには、何も無理がなかった。全部が、そこにあったような感じなんです。無理やりひねり出したものじゃなくて、(アイデアが)降ってきたとかでもなくて、目の前にあったものを繋げたら、出来てしまった。

そりゃ日本一ウマい焼酎と日本酒で出来てるから、ウマくないと困っちゃうんですけどね(笑)。

──必然、というのとは少し違うのかもしれないけれど、あまりにも自然に点と点が繋がっていく感じが鳥肌モノですね。日本を代表するものを洋菓子に掛け合わせてみたら、全く新しい価値が生まれてしまった…それが私が初めて『富士山カヌレ』を食したときに感じた「!」の正体なのかもと思えてきました。実際、お客様からの評価はどうでしたか?

大橋:初日、20個から始めたものが、7日目には1日で200個完売でした。レストランのランチとディナーの間、毎日たったの1時間だけで。メモを見つけた朝から、10日間の出来事でした。SNSでこっそり告知しただけだったのに、すごい時代ですよね。

「富士山カヌレを一緒に作る仲間を、カヌレブラザーズと呼んで遊んでます。今は若いメンバーが中心になって焼いてくれています。いいチームですよ」長〜いシェフ帽は、発売当初からのカヌレブラザーズのアイコンだ。

──これから『富士山カヌレ』が目指すのは、世界なんでしょうか。

大橋:僕たちはもう世界一だと勝手に思ってます!カヌレ業界の中では。って、そんなジャンルは無いんですけど(笑)。でも本当に、フランス人が日本のお土産として『富士山カヌレ』を選んでくれたら最高ですよね。早く羽田空港とかに置きたいですもん。

正直、僕は『富士山カヌレ』なんてストレートな名前、絶対つけないんですよ。

──確かに。「TIRPSE」を作った大橋さんのネーミング(※)とは思えないかもしれません(笑)。でも私はすごく、ど真ん中で潔くて、カッコイイと思いました。

大橋:そうですか?こないだ並んでくれてたお客様に、「『富士山カヌレ』売ってるレストランの名前って、おかしいわよね」って言われたんですよ。『富士山カヌレ』が王道すぎて、「TIRPSE」が変に見えるっていう現象が起きてました(笑)。

でも7年前のメモにそう書いてあったんだから、仕方ない。こうなったら、日本を代表するフランス菓子として、愛され、応援してもらえるカヌレを作っていきますよ。

『富士山カヌレ』を確実に手に入れるには、Facebookページからメッセージを送って予約を。もちろん「TIRPSE」のコースでも、プティ・フールとしていただくことができる。

海外へのお土産は、もうこれに決まりだ。

※TIRPSEは「ESPRIT(エスプリ)」という言葉を逆さに表記し、フランスの精神を隠し持たせたネーミングとなっている。