AK-69が掲げる、HIPHOPシーンへの新たな野望「本質的なところに目が向く仕組みを作りたい」

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 AK-69が、シングル『I Still Shine feat. Che’Nelle / Stronger』を10月18日にリリースした。同作には、R&Bシンガーのシェネルを迎え、ポジティブなメッセージを収めた「I Still Shine feat. Che’Nelle」、亡き父への手紙のような楽曲「Stronger」、さらに<Def Jam Recordings>からの1stアルバム『DAWN』収録のパーティーソング「Hangover」のリミックスを収録している。

 今回リアルサウンドではAK-69にインタビューを行い、メッセージ性の強い楽曲を軸にしたシングルの制作エピソードから、発売当日に行われた武道館公演『DAWN IN BUDOKAN』までの歩み、さらには盛り上がりを見せるHIPHOPシーンへの持論について聞いた。(リアルサウンド編集部)

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■悲しみはずっと続くわけじゃない

――1曲目「I Still Shine feat. Che’Nelle」は、R&Bシンガーのシェネルをフィーチャリングした楽曲ですが、コラボレーションのきっかけは?

AK-69:シェネルの存在は前から知ってはいたんですけど、同じユニバーサルミュージックの所属だということをたまたま知って。ちょうど「Destiny」がドラマ『リバース』の主題歌で流行っていたタイミングで、これをリミックスしてみたら面白いんじゃないかと、アンオフィシャルでリミックスを作ってアップしました。HIPHOPだとよくあることなんですけど、「Destiny」のビートジャックみたいなイメージですね。そしたらそれに対してシェネル本人やプロデューサーの松尾潔さんが反応してくれて。まさに“Destiny”な現象が起こって、シェネルと距離を縮めることができました。松尾さんが10年近く前からAK-69のファンでいてくれていたことも、それをきっかけに知ることができました。そのあと、シェネルが日本に来ている時に会うこともできて、オリジナルの曲を一緒に作ってみたいと話をしたら、快く受けてくれました。実際に話してみると、明るくて人柄としても素晴らしい人でしたね。

――制作はどのように進めていきましたか?

AK-69:制作中はシェネルがもうLAに戻っていたので、俺がラフを録ったのを送って聴いてもらって、仮歌をシェネルが投げてくれて、この仮歌でいこうと決めたら、俺が日本語の歌詞を仮録りして送って……そういうやりとりを重ねて作っていきました。

ーーシェネルとの楽曲を制作するにあたり、当初からイメージしていたことはありますか?

AK-69:シェネルとやれるんだったら、例えばJAY-Zとアリシア・キーズの「Empire State of Mind」みたいな力強い歌、アンセムが作りたいとは考えてました。シェネルは作家さんが書いた曲を歌っている印象が強かったんですけど、アルバムには自分が作った曲もあって、そのメロディセンスがどれもとても良くて。なのでメロディはシェネルにお願いして、トラックは俺が決めるというスタイルをとりました。

ーー国境を越えての楽曲制作、大変だった点は?

AK-69:いや、制作はスムーズでしたね。メロディも5パターンくらい録って送ってくれたり、ストレスなく進めることができました。アーティストとしてシェネルのことをリスペクトする瞬間がたくさんありましたね。唯一もったいなかったのは、シェネルが書いてくれた英詞がとてもよかったのに、それを使わなかったこと。バッチリ俺の歌いたい世界観を表現してくれてたんですけど、英語であるがゆえに聞いている人たちに伝わらないということを避けるために、僭越ながら自分が日本語の詞を書かせてもらいました。シェネルはもちろん日本語も完璧に歌うんですけど、やっぱり英語の方が感情がより乗っている感じもあったので。微妙な差なんですけどね。英語バージョンもこれから作りたいと思うくらい良かったです。それにしてもシェネルは本当に日本語が上手くてビックリします。

――きっかけから制作までのスピード感を含めて、まさにHIPHOP的な出会いですよね。

AK-69:リミックスを作ったからと言って、それに本人が反応してくれて、一緒に曲作りができるなんてなかなかないことですよね。さらに彼女は日本に住んでるわけでもない。だけど、これだけタイミングが合って、会えたり話せたりできたのは、本当に縁があったんだなと改めて思います。

――この楽曲に込めたメッセージは?

AK-69:これまでの楽曲は何かと戦っている人、何か目標に向かって進んでいる人にフォーカスしたメッセージが多かったんですけど、今回はテーマをもっと広げてみました。戦っていなくても、不運なことに見舞われる瞬間ってあるじゃないですか。家族の死や恋人との別れ……戦いとは別のことで、悲しみが押し寄せる瞬間が生きているとあるわけで。だけどその悲しみはずっと続くわけじゃないってことも、当たり前のことなんですけど、自分が経験して改めて思ったんです。絶対、夜は明けるからっていう。それを強く感じた瞬間に、歌にしたいと思ってたんですよね。でも自分だけで歌うより、フックは違う人が歌ってくれた方が多くの人に届くんじゃないかなと、ずっと温めていました。今回シェネルと出会って、ようやくカタチにすることができましたね。

――そのテーマは、AKさんのお父さんへの思いがストレートに歌われた2曲目の「Stronger」にもつながってくる部分ですよね。

AK-69:そうですね。でも、こちらの曲はだいぶパーソナルな内容になっています。親父へむけた手紙のようなものなので、作った時はみんなに広く理解してもらおう、共感してもらおうとはあまり考えていなかったです。

――聞いてみると、むしろ誰もが共感できる楽曲でもあるのかなと思います。

AK-69:結果、多くの人に受け入れてもらえた実感はありますね。俺が少し前に親父の死、肉親の死を初めて経験して。悲しみが去った後に「ありがとう」と明るく送り出すハッピーな方法もあったと思うんですけど、そうはしたくなかったんです。俺の親父って、歌の中にもあるんですけど、本当に人から好かれる、ひょうきんな親父で。やさしいところが良いところだなとは思ってましたけど、男として尊敬することは特になかったんですよね。でも、病気になってからすごい精神力の持ち主だったんだということに気づきました。肺がんでかなり辛い状態だったはずなのに、よくあんなに気丈に振舞っていたなと。死の間際もずっと俺と姉の話を聞いてくれて、涙を流しながら頷いて、最後死んでいきました。親父ってこんなに精神力が強かったんだって、初めてビックリして。最期に大きなことを教えてくれたなと、その気持ちを歌にしたいと思いました。晴れやかに送り出すトラックも候補でたくさんありましたけど、俺が一番探してたトラックは、悲しさもあるけど力強いもの。<やさしいってことは、強いってことだったんだね><俺も強くならなきゃ>という部分が、今回一番歌にしたかったところでした。

――お話を聞いてるだけでも、かなりグッとくるものがあります。

AK-69:そういう思いが、親がいないような子たちにも伝わっているという声を聞いて、本当に歌にできて良かったなと。同時にこういうことを歌にできる職業であることが、改めて幸せだなと思いましたね。

――そして「Hangover -Space Dust Club Remix-」は、アルバム『DAWN』 に収録されている楽曲ですが、今回リミックスを収録した経緯は?

AK-69:相方のDJ RYOWが、ありものの歌にトラックをすり替える遊びをやり始めて。「Hangover」は『DAWN』 の中でも一番クラブ栄えする歌だったので、DJ RYOWがチョイスして作ってくれたんです。夏っぽくてフェスにも合いそうな感じだったんで、もうちょっと早く出したかったんですけど、結果今回のタイミングになりました。まあ“Hangover”はみんな年がら年中するから良いかなって(笑)。楽しくなって聴いてもらえるのが一番いいですね。曲に出てくる「#記憶がルーラ」が広まってくれたらうれしいです。

■2度目の武道館を成功できれば次の扉が開くと確信していた

ーーシングルのリリース日には、3年半ぶりの日本武道館公演『DAWN in BUDOKAN』も開催されました。ここまでの道のりを振り返ってみていかがですか。

AK-69:あっという間でしたね。昨年の11月にアルバム『DAWN』を出して、Zeppツアー、全国5カ所のプレミアムクラブツアー、そこからフェスやイベントにもいろいろ出て、その間でいろんなアーティストのみなさんとコラボもやらせてもらって。日本武道館のライブは、正直できるかできないかの瀬戸際だったんです。でも武道館だからこそ証明できることがあるんじゃないかと、自分自身信じてやまない思いがあって。なんとか強行することに決めたんですけど、そのままボーっと当日を迎えてたら、今ごろ滑ってたかもしれないですね。フェスで自分のことを知らないお客さんをロックしていくこともそうだし、普段出ない朝の情報番組のライブに出させてもらったり、UVERworldやDOBERMAN INFINITYとのコラボで新しいお客さんにアピールすることができたり、いろんな点と点を線で繋げていくことをしていきました。そういった活動を経て、今回の武道館ソールドアウトにたどり着けたんだと思います。AK-69のプロジェクトは、この武道館が滑ったらもう終わりだと思ってたし、成功することができれば次の扉が開くということも確信していたので、次の扉を開けるための用意を1年かけてしてた感じはありますね。

ーー険しい道をあえて選ぶ。

AK-69:そうですね。よくも悪くも、お膳立てされた場所に解き放たれるタイプのアーティストではないので。ライブの内容も演出の仕方もそうですけど、すべてのプロジェクトで自分が指揮をとってるので、リアルな結果が自分に全部跳ね返ってくる。だからこそ、やる意味があるのかなと。本当の意味でリアルなメッセージを持って、リアルな音楽をやって、武道館に再び立つアーティストは数えるほどしかいないと思う。その役目を担って、俺にしか放てないメッセージを放って、爪痕をがっしり残したいと思いながら臨みました。

ーー先ほどお話にもあったように、様々なアーティストたちとのフィーチャリングも積極的に行ってきました。UVERworldとのコラボはどんな手応えがありましたか?

AK-69:彼らはアーティストとして、人として仲良くなったからこそできたコラボでしたからね。TAKUYA∞はマブダチレベルで仲が良くて、「Forever Young feat. UVERworld」は俺の名義の歌だけど、UVERworldのシングルにも収録されたし、彼らの主催ライブに何度か出演させてもらったりもしました。俺は他ジャンルとのコラボレーションは初、UVERworldはコラボレーション自体が初だったので、彼らがコラボレーションするということだけで、ファンはその意味をわかってくれていたと思います。ビジネス的な音楽なのか、本当に繋がってやっている音楽なのかということも含めて。UVERworldから入ってきてくれた新しいリスナーもいるし、清木場俊介もしかり、聞いてもらう機会の少なかった人たちにAK-69の音楽をたくさん届けることができましたね。

ーーUVERworldとのフィーチャリング曲はLinkin ParkとJAY-Zのコラボを思い出す、ロックファンにも刺さるフレッシュな音楽でした。

AK-69:本当に良い曲ができたと思ってます。俺の音楽を昔聴いていたUVERworldのファンが、久々に聞いてヤバイと思ってくれたりもしたみたいで。そういう意味でも、やって良かったなと思いますね。

――「Shatter」でタッグを組んだDOBERMAN INFINITYとは、六本木〜渋谷のクラブでゲリラライブも行いました。

AK-69:彼らとも良いコラボになりました。お互いにないものを補い合えたというか。かっこいいものにちゃんと反応できるお客さんに知ってもらえたのは俺的にもすごいありがたいことだったし、DOBERMAN INFINITYもHIPHOP好きなメンバーが集まって活動しているグループなので、俺とやることによってよりHIPHOP感の強い曲にトライできたんじゃないかな。

――ゲリラライブは、ふだんからやっているんですか?

AK-69:やってますね。毎回リリースの時は、地元のクラブを何件かハシゴして、ゲリラで突然ライブしたりして。地元だと余計に喜んでくれるんですよ。今回のゲリラライブも、こちらからやろうと提案したんです。俺たちの得意技ですね(笑)。

ーーFlying B Entertainment設立から2年が経とうとしていますが、設立前から変化したことはありますか?

AK-69:自分たちの城を持って成功させなきゃいけないってことは、全然変わってないですけど、今までは鎖国状態だったなと感じますね。HIPHOPの畑でしか物事を考えてなかったし、人との付き合いもほとんどなかったですけど、こうやってFlying Bを立ち上げたことによって、改めて人と人との繋がりや心の繋がりで起こる現象、パワーは大きいなと。インディペンデントを掲げてやってますけど、AK-69の名前の裏にはいろんな人の力が加わってこの名前が掲げられていると強く感じています。

ーーHIPHOPシーンもこの数年でかなり変化しているように思います。シーン全体の盛り上がりをAKさんはどのように見ていますか?

AK-69:HIPHOPというカルチャーに目が向けられていることだったり、ラップを始めるハードルが下がっていたりするのは、とてもいいことですよね。特にフリースタイルバトルの影響もあって、コマーシャルの演出で使われるくらいラップは一般的なものになっていて。ただ、フリースタイルってすごい面白いし良いんですけど、結局一つの競技みたいなものなんですよね。サッカーでいうとリフティングをやり合ってるみたいな。リフティングがすごくても、試合で点が決められるかとは別の話というか。HIPHOPがお茶の間に出て嬉しい反面、音楽が広がることとはまた違ったものなので、この波をちゃんと繋げたいという思いがあります。

ーーAKさんが発案者として立ち上がったAbemaTVの番組『SMASH HIT』もその思いの一環として生まれたものなのだとか。

AK-69:『SMASH HIT』は曲ができる裏側を取り上げて、曲に注目がいくようにするための番組です。HIPHOPの本質的なところにも目が向く仕組みをこれからもっと作っていきたいですね。今までも何回もチャンスはあったんですよ。Zeebraさんが『笑っていいとも!』に出た時代もあったし。いい波が繋がらずに終わっていった、過去の失敗は繰り返したくないなと思いますよね。昔だったら、フリースタイルが流行ったら「フリースタイルなんてHIPHOPじゃないから」みたいなことを言い出しちゃうみたいな。お互い打ち消し合って終わり、そんなことはしたくない。フリースタイルももちろん立派なHIPHOPのカルチャーだし、どんな形であれ、HIPHOPからたくさんスターが出るべきなんじゃないかなと思ってます。

ーーHIPHOPのアーティストの方に取材していると、共通の認識として曲のヒットが必要だということはみなさん言っています。あとは90年代、さんぴんCAMP時代の反省を踏まえて、いろんなスタイルのHIPHOPがあって良いという考え方にシフトしている印象があります。

AK-69:全体的にそうなってるんですね。良かった、良かった。意固地のヤツが多いのがHIPHOPなので(笑)。村八分文化というか、誰かが成功しても打ち消し合う、それの連続だったんですよね。ブームではなく、しっかりカルチャーとして根付かせていきたいです。

ーー全体で、みんなでシーンを盛り上げていくのが一番良いと。

AK-69:絶対そう。その方が、結果的にみんながWin-winになると思いますけどね。

ーー最後に、今の日本のHIPHOPシーンに一番必要なものはなんだと思いますか?

AK-69:チャンスはどんどん活かしていって、今の勢いでHIPHOPが日本のお茶の間にもっと広まったら良いと思いますね。そしてそうなった暁に一番かっこいいとされるのは、リアルなメッセージが詰まったHIPHOPであってほしい。それは、フロウがなんとなく英語ぽくってかっこいいとかそういうファッション的なものではなくて、レベルミュージックとして生まれたHIPHOPの反骨精神、生き様の中で生まれるメッセージを放つ音楽としてかっこいい楽曲・アーティストが認められるシーンになってほしいです。