2017年8月の消費者物価指数は、コアCPIで対前年比+0.7%、コアコアCPI(食料〈酒類除く〉及びエネルギーを除くCPI)で対前年比0%と、相変わらず低迷している。GDPデフレータは、直近の数字で対前年比マイナス0.4%。
 要するに、日本のデフレは継続しているのだ。デフレとは、総需要の不足という経済現象(貨幣現象とやらではない)。総需要が不足するならば、当然ながら仕事も減り、人手は過剰になっていく。ところが、わが国はデフレが継続している状況であるにもかかわらず、人手不足が顕著になってきている。直近の失業率は2.8%。有効求人倍率は、1.5倍を上回った。

 なぜデフレであるにもかかわらず人手不足が進行しているのか。理由はもちろん、少子高齢化の影響で生産年齢人口比率が低下し、同時に高齢化の影響で医療・福祉(特に介護)の需要が拡大しているためだ。左図(※本誌参照)の通り、リーマンショック後の'09年1月と比較すると、直近の建設業の就業者数は▲25万人、製造業が▲89万人と低迷中。卸売・小売業が+10万人と辛うじて増加。
 それに対し、医療・福祉(介護など)は、何と216万人の増加となっている。医療・福祉分野の雇用創出力は、まさに圧倒的である。医療・福祉分野における就業者数の増加を、アベノミクス、あるいは「金融緩和」に起因するものと主張する人が少なくなく、困惑してしまう。別に、金融緩和の影響がゼロとは言わないが、「金融緩和」から「介護における雇用拡大」に至る政策の波及経路を教えてほしいものだ。

 日本の医療・福祉分野における需要増は、もちろん「高齢化」の影響である。高齢化により、介護の需要が伸びているからこそ、雇用も増えたのだ。すなわち、人口構造の変化が主因であり、アベノミクスの影響として見るのは無理がある。
 高齢化により、医療福祉の需要が拡大し、反対側で生産年齢人口比率が低下している。日本の失業率が低下し、人手不足が深刻化するのは、当然すぎるほど当然なのだ。ちなみに左図(※本誌参照)の産業分野が製造業、建設業、卸売・小売、医療福祉に限定されているのは、この4分野の就業者数が最も多いためである。4分野だけで、日本の就業者数の5割を超えるのだ。

 さて、日本銀行の短観=企業短期経済観測調査によると、企業の人手不足感が、およそ四半世紀ぶりの水準にまで高まっている。日銀の短観では、従業員の数について「過剰」「不足」の調査も行い、指数化している。短観指数のマイナスが大きくなるほど、人手不足と感じる企業が多いことになる。
 直近でのデータによると、大企業の人手不足感がマイナス18ポイント。中小企業がマイナス32ポイントで、全体ではマイナス28ポイントだった。現在の日本では、中小企業の方が人手不足感は強まっていることになる。全体でマイナス28ポイントという人手不足感は、'92年のマイナス31ポイント以来、およそ25年ぶりの数値なのだ。わが国の人手不足感は、バブル期に近付いていることになる。

 医療・福祉分野をトリガーとした人手不足が、他の分野にも波及しているのだ。何しろ、人口の瘤である団塊の世代が労働市場から退出したとして、それをカバーするだけの若い人材は参入してこない。
 外国人労働者を増やしたくないならば(増やしてはいけない)、わが国では各産業分野において「生産性向上」、厳密には生産性向上のための4投資(設備投資、人材投資、公共投資、技術投資)が必要ということになる。

 10月22日に投開票される予定の総選挙において、自民党の公約の中に、
 「人工知能(AI)など技術革新を活用した『生産性革命』を通じて所得を増やす。2020年までの3年間を『集中投資期間』として、大胆な税制、予算、規制改革などの施策を総動員し、企業の収益を設備投資や人材投資に振り向ける」