【続・選挙の舞台裏】(上) 無所属ははつらいよ “ないない”づくしで始まる前から苦戦は必至

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 10月22日(日)に投開票日を迎える衆議院議員選挙。ゴールは目の前とばかりに、各党の繰り広げる選挙戦は日に日に激しさを増している。そこで、7月の東京都議選時に書いた【選挙の舞台裏】の続編を、今回の選挙に合わせお届けしよう。

 選挙は立候補者間の争いであるとともに、政党間の争いでもある。選挙の中でも、とりわけ政権政党選択の色合いが濃くなるのが衆議院議員選挙だ。競い合う各政党にはおのずと力が入り、多くの選挙区において、選挙戦は与野党による激突を見せる。そんな中、今回の総選挙では特定の政党からの支援を受けない、いわゆる“無所属”での立候補者が各地に目立っているという特徴が挙げられる。

 今回の衆議院選挙における政党無所属での立候補者(以下、無所属候補)数は、前回に比べて28人増加し、全選挙区で合計73人。うち33人が前職であり、中には首相や政党代表経験者など、いわゆる“大物”と呼ばれる政治家たちも顔をそろえている。増加の理由は、民進党の実質的な解党に伴い、希望の党に公認を申請しながらも漏れた候補や、“排除の論理”に反発してあえて無所属を選んだ候補のほか、与党である自民党系でも公認調整が不調に終わった候補の存在を挙げることができる。

 「『筋を通して立派!』と評価が上がり、選挙が有利になった」という無所属候補も少なからずいるようで、マスコミ各社の情勢分析によると、中にはそんなケースがあるのも事実。ある無所属候補の選挙スタッフに聞くと「無所属で出ることか決まってから、陣営の結束力が高まった。後が無い分、気持ちも引き締まる。応援してくれる人の力の入り具合も今までにない」と話す。ただ一方では「その結束力も無所属は政党所属に比べて圧倒的に不利だから。ムードは良くなっても、活動するスタッフは大変」と、直面する厳しい現実に対する心情も吐露した。

 そもそも、政党に所属せず選挙に立候補するのは、何が大変なのだろう? 最も大きいのは、このスタッフも語った“後がない”点だ。政党に所属していれば比例区に重複立候補ができ、仮に小選挙区で破れても惜敗率による“復活当選”が可能になる。ところが、比例区は政党間の争いとなるため、政党に所属していない無所属候補の場合は、立候補すらできないことになる。無所属候補は、「小選挙区で負けてしまえば、それまで」なのだ。

 資金についても政党に所属していれば、党から公認料と称する、いわば“軍資金”が支給されることが多い。それに対して、無所属候補は、選挙ポスターの印刷代などの公費で賄われる分を除き、すべてを自費で賄わねばならない。また、テレビの政見放送に出演できるのは政党の公認候補のみであるため「露出が減ってしまう」というにおいて点も、大きく不利な要因となる。

 このほか、選挙ポスターも政党公認候補は、政党分の1,000枚もプラスアルファの枚数として貼り付けが許可されることに対して、無所属候補に許可されるのは、公設の掲示板に貼れる枚数のみ。ハガキも、候補者が個人で出せる3万5,000枚に加え、政党公認の場合は、政党分の2万枚がプラスされる。チラシも無所属候補は7万枚だが、政党公認だと、政党分の4万枚も加わる。宣伝カーの台数や開設できる選挙事務所の数も含めた有権者にアピールするためのツールにかかる制限のみならず、選挙戦を戦い抜くための手段におけるあらゆる面で、無所属候補は政党公認候補に比べて条件的な不利を被る。これは今回の衆議院選挙などの国政選挙に限らず、都道府県議会議員選挙なども含めた、あらゆる選挙においてみられる傾向なのである。

 大選挙区制の市町村議会議員選挙など、比較的規模が小さな地方選挙では、当選に必要な得票数も、小選挙区制で行われる国政選挙に比べると相対的に少なくて済むため、無所属の候補が多く立候補する。ところが、政令指定都市や都道府県での議会選挙、国政選挙と、選挙の規模が大きくなるにつれ、当選するための得票数はおのずから多くなる。つまり、アピールが必要な有権者数が増えれば増えるほど、そのための手段でハンデを負った場合、選挙戦においては致命傷にもなりかねないというわけだ。

 実際に、政党公認候補者と無所属候補者両方の経験者に話を聞いてみると、その厳しさがより実感として迫ってくる。「無所属の選挙がこんなに大変なものだと思わなかった」と話すのは、前千葉県議会議員の川井友則さんだ。川井さんは、政党の公認候補として千葉県議会議員に初当選した後、次の選挙戦には無所属で立候補。僅差で次点となり、苦杯をなめた。自身が立候補した選挙はこの2回だが、そのほかには国会議員秘書としてなど、計73回の選挙戦を経験したという川井さん。無所属候補での選挙戦は、この時が初めてだったという。

 統一地方選挙の場合、告示日と投票日が決定した後の後援会報の配布やポスターを貼るといった行為は、法律で禁じられている“事前運動”にあたるためにできなくなる。ただし、「選挙が近付くと、逆にポスターが目立ってくる。実際には増えているのではないか?」そういった印象を持つ人も少なくないかもしれない。しかし、ここには法の抜け道が存在する。政党の公認予定者であった場合、ポスターの隅に“街頭演説会”の日程を印刷すれば、“事前運動”ではなく“政党活動”として認められるのだ。当然のことながら、無所属候補者に“政党活動”はできない。無所属で戦う、あるいは、公認を得られる見込みがない候補者は、選挙が始まる前から厳しい戦況を強いられるのである。

 告示日以降も県会議員の選挙では、政党候補であれば配布できる“政党ビラ”も、無所属候補者には配布できない。のぼり旗も、政党名が記されているならばOKでも個人名の場合はNG! 今回の衆議院選挙においても、“スローガン”を記したのぼり旗を立てて活動している無所属候補がいるものの、これなどまさに苦肉の策と言っていいだろう。

 川井さんは「ビラも個人をアピールするのぼり旗も使えない。他の候補ができる活動ができないため、苦労して応援してくれたボランティアのスタッフに悔しい思いをさせた」と話す。まさに、無所属の候補は“ないない”ずくしの選挙となる訳だ。

 マスコミ各社の情勢分析では“有利”とされる無所属候補もいないわけではない。ただその内情はというと、大き過ぎるハンデを負わされ、不利としか言いようのない戦いを強いられているのだ。

(文・水野文也)