一見仲良し"女の幸福を許せない女"の生態

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信頼していた後輩や同僚の「裏切り行為」で、自分の立場が危うくなったら……。精神科医の片田珠美氏は「女性同士のいがみ合いや足の引っ張り合いはどこにでもある」という。なぜ女性は女性に陰湿な行為をするのか。そこには「羨望」という感情がかかわっている――。

■なぜ表面上は仲良しでも、陰で足を引っ張るのか?

女同士のいがみ合いは、どこにでもある。怖いのは、表面上は仲良さそうにふるまいながら、陰で足を引っ張ることだ。

たとえば、会社員の女性Aさん(32歳)は、同じ大学出身の後輩の女性社員といつも一緒にランチを食べていた。Aさんは、同期入社の女性の中で真っ先に主任に抜擢され、上司に自分の能力を認めてもらったと自負していた。仕事にやりがいも感じていた。

ただ、部下の中には自分より年上のパートの女性などもいて、やりにくいと感じることもあった。そういうストレスがたまったときは、気の置けない後輩との会話が何よりの息抜きになるように感じられた。後輩は聞き上手で、あいづちを打ちながら静かに聞き、ときには「先輩は、私の憧れです」などと言ってくれた。だから、愚痴をこぼせた。また、新しい企画について相談したところ、「先輩のアイデアは素晴らしいです」と絶賛してくれた。おかげで自信を持ってプレゼンテーションできたので、この後輩を自分に協力的な味方とみなしていたという。

▼従順でかわいい後輩女性の罠にはまった

Aさんの仕事はおおむね順調で、後輩にも恵まれていると感じていた。

ところが、ある時期からAさんは直属の上司からささいなことで厳しく叱責されるようになった。「え、一体何が起こったのか?」。上司の言動が理解できず、受けた仕打ちに対する不満や怒りを、例の後輩にぶちまけた。

しばらくすると、上司から「君には、部下を指導する力がない」と言われ、ただの平社員に降格されたのだ。「なぜなのでしょうか? 私は仕事をしっかりやっています」。そう言って降格の理由を尋ねたが、納得する説明は得られなかった。そのため、すっかり自信を失って落ち込み、出勤しようとすると吐き気がするようになった。

おまけに、頭痛のせいで仕事に集中できなくなったので、内科を受診した。だが、特に異常は見つからず、心療内科に紹介された。結局、会社に診断書を提出して休職したのだが、その間に、信じられない事態に直面することになる。

■自分が休職中に後輩が出世「地位」を奪われた

例の後輩が「主任に昇進した」というのだ。かわいい後輩が、かつてAさん本人が企画書を出したプロジェクトの責任者に就いた、と。その事実を聞いて、Aさんはやっとわかった。なぜ、上司の態度が急に変わったのか、が。

この事例では、後輩の意図がわかりやすい。

「憧れ」の先輩に取って代わるために、自分が聞いた愚痴や上司に対する不満を多少ふくらませて上司の耳に入れたのだろう。

こんなふうに、他人から聞いた話に尾ひれをつけて吹聴し、誰かを陥れることによって、のし上がろうとする人間はどこにでもいる。

▼「他人の幸福が我慢できない怒り」に突き動かされる人

怖いのは、その人自身には何の得もなさそうに見える場合でも、そういうことをする人間が一定の割合で存在することだ。先輩を蹴落としたからといって、必ずしも自分が昇進できるとは限らないのだが、それでも、上司に告げ口する。

これは、「他人の不幸は蜜の味」と感じるからで、そういう感情を「羨望」と呼ぶ。17世紀のフランスの名門貴族、ラ・ロシュフコーは「羨望というのは、他人の幸福が我慢できない怒りなのだ」と言っているが、まさに名言である。

この後輩のような人物を見抜くのは簡単ではない。他人がターゲットにされていれば、比較的簡単に見破れるかもしれないが、自分自身がターゲットにされている場合は、なかなか気づかないものだ。

また、Aさんの事例を見ればわかるように、自分が痛い目にあうまでは、はっきり認識するのが難しい。そのため、秘められた悪意や陰湿な攻撃に気づくまでに時間がかかることが多い。

しかも厄介なことに、こういうタイプは、気づかれないように攻撃を隠蔽する達人である。Aさんも、「先輩は、私の憧れです」という歯が浮くようなおべんちゃらを真に受け、安心して愚痴をこぼしたり、新しい企画について相談したりしていたわけで、気づいたときにはもう手遅れだった。

このように、相手を直接攻撃するわけではなく、こそこそと遠回しに打撃を加え、引きずりおろそうとするタイプに対して防御するのは、なかなか難しい。

何よりも怖いのは、うわべをつくろい、誠実そうにふるまいながら、突然計算高さをのぞかせることだ。おまけに、虚実とり混ぜて語るので、周囲はころっとだまされる。

■一見“いい人”が他人をおとしいれるために画策

先ほど述べたように、一見“いい人”が他人をおとしいれるために画策するのは、しばしば羨望による。他の誰かが能力を発揮して実績を上げ、周囲に認められる「幸福」に我慢がならない。

いがみ合いの種をまくのも、この羨望ゆえである。自分以外の人が仲良くすることに耐えられないので、ちょっとした悪口や中傷をあちこちで振りまく。その結果、周囲がお互いに仲たがいするようになれば、「してやったり」とほくそ笑む。

事実無根の話をまき散らされた被害者の1人が、会社員の女性Bさん(35歳)である。彼女は、気分が落ち込んで朝起きられず、出勤できなくなったと訴えて受診し、次のように語った。

「少しずつ、同僚が私に話しかけなくなったことに気づきました。何が起こっているのか、わかりませんでした。みんなで仲良く話していたのに、私が近づくと、急に静かになったこともあります。なぜなのかは、わかりませんでした」

「そのうち、みんなに変な目で見られていると感じるようになりましたが、その理由は、わかりませんでした。少しずつ、同僚が私から離れていきました。以前はとても親しくしていた同僚も。どうしてなのか知りたくて、尋ねたこともありますが、『そんなことない』と、あいまいに言葉を濁すだけでした」

▼重要な会議に自分だけ呼ばれなかった理由

ある日、重要な会議があり、同じ部署の社員はみな出席していたのに、Bさんだけが呼ばれなかった。その数日後、新しいIT機器が導入されるということで研修会が開かれたときも、Bさんにだけ連絡がなかった。

不安になったBさんが直属の上司に直談判したところ、上司はあからさまに冷たい視線を向けて、こう言ったそうだ。

「研修に君は参加しなくていい。その研修を受けることが必要な仕事を、君にやってもらうつもりはないから」

その瞬間、Bさんは足もとがふらついて、倒れそうになったという。「君はいらない人間だ」と告げられたように感じたからだ。Bさんはショックのあまり翌日から出社できなくなり、しばらく欠勤した後で、精神科を受診した。結局、数カ月間休職した後に、子会社に出向することになった。

後からわかったのは、恐ろしい事実だった。

■黒幕の同僚が、上司にチクッた恐ろしい内容とは?

今度の黒幕は、同僚だ。この同僚は、他の同僚がいる前で上司にこうチクッたという。

「実はBさんは、同じ大学の出身だった●●さん(前任の上司)をいまだに慕っているみたいですね」

そして、それと同時にBさんが現在の上司に対しては何か不満を抱いている、といったニュアンスの話もしたようだ。

すると、上司は、自分の存在を否定されたように感じたのか、「あいつは、おれの下では使えないな」とつぶやいた。それ以降、その場にいた同僚の多くが、Bさんから距離を置くようになった。彼らは、自己保身のために上司の意向を忖度したのかもしれない。

では、「Bさんは前任の上司を慕っている」と耳打ちしたのは誰か。

▼なぜ親友の同僚は、裏切り行為に及んだのか?

Bさんが調べると、それは同期の女性社員、しかも驚くことにBさんに常にフレンドリーに接し、周囲が「2人は親友だろう」と認識していた人物だった。

なぜ裏切り行為をしたのか。さらに探ると、Bさんが前の上司からとても気に入られ、後輩からも慕われていたことに対する羨望が、この同期の女性を突き動かしたらしいとわかった。

もっとも、いくら同期の女性が告げ口しようと、上司が「あいつは、おれの下では使えないな」とつぶやかなければ、Bさんが孤立する事態にはならなかったはずだ。

この上司は、同期の女性の話をうのみにしたうえ、自分が影響力を十分に行使できず、支配できない可能性のあるBさんを排除しようとした。それだけ、支配欲求の強い上司だったわけで、それを見抜いたうえで告げ口したのかもしれない。そうだとすれば、この同期の女性はなかなかの策士ということになる。

AさんやBさんのケースのように、一見仲良さそうに見えても、水面下で足の引っ張り合いをすることが女性同士ではよくある。その原動力になるのは、しばしば羨望=他人の幸福が我慢できない怒りである。

■「男社会」が女性同士のいがみ合いを誘発する

そんなことにはできるだけ関わりたくないというのがほとんどの男性の本音だろう。

だが、否応なく巻き込まれてしまう場合もある。いまだに多くの企業では、女性社員の活躍や昇進は、しばしば男性上司にどれだけ気に入られるかで決まる。そのため、あることないこと男性上司に吹き込んで、同僚の足を引っ張ろうとする女性社員がいないわけではないからだ。

そのことを忘れて、ある女性社員の話だけをうのみにし、別の女性社員を冷遇していると、仕返しに「(告げ口した女性社員と)不倫関係にある」などという噂を流されかねない。要注意である。

今回取り上げたのは女性同士の事例だが、この手の「実は油断ならない仲のいい人物」に煮え湯を飲まされるのは、私の知る限り、男性同士のほうが多い。男の嫉妬ほど怖いものはないとも聞く。次回は、そういう事例を紹介したい。

(精神科医 片田 珠美)