首相官邸HPより

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 北朝鮮の核実験やミサイル危機を煽りに煽った挙句、それを利用して"国難突破解散"を敢行した安倍政権。北朝鮮危機を最大限に利用し、それに乗じた"大義なき"解散だったが、しかし安倍首相が利用したのは北朝鮮危機だけではない。北朝鮮の拉致問題とその被害者家族だ。

 すでに解散が決定的だった9月17日、安倍首相は拉致被害者家族と面談したうえで「今年中に全拉致被害者の救出を!国民大集会」に出席し、「拉致問題は、安倍内閣の最重要課題であり、最優先で取り組んでいくという姿勢にいささかの変わりはありません」と強調。さらに同月19日、国連総連でトランプ大統領が拉致被害者に言及すると、安倍首相も「被害者家族が大変勇気づけられた」と謝辞を述べて「彼らが一日も早く、祖国の土を踏み、父や母、家族と抱き合うことができる日が来るよう、全力を尽くしてまいります」と演説した。

 また、臨時国会を冒頭解散した当日の午前にも、安倍首相は拉致被害者家族と面談。国連総会でのトランプ発言における自らの功績や、トランプ大統領がいかに拉致問題に関心をもっているかを説明している。

 そしてクライマックスとしてぶち上げたのが、トランプ大統領と拉致被害者家族らの面会の実現だった。安倍首相は10月12日、衆院選公示後に初めて新潟県入りした際の演説で、11月に来日するトランプ大統領が拉致被害者家族と面会することを高らかに宣言、自身の功績をこう自慢した。

「トランプ大統領と行った首脳会談で私は、『大統領、ぜひ11月に日本を訪問した際には、めぐみさんのご両親、拉致被害者のご家族に会う時間をとってください。会ってください』。こうお願いをしましたらその場で、『分かった、シンゾー。その皆さんと会うよ。ほんとにひどい話だ。日本の拉致被害者救出をするために、全力尽くしていく』と約束をしてくれました」

 まさに怒涛の拉致問題への言及。安倍首相は2014年のストックホルム合意と、その後の北朝鮮によるゼロ報告、さらに16年に北朝鮮側から調査の全面中止が発表されて以降、拉致問題について目を背けるような態度を取ってきただけに、一連の動きはまさに異例であり、衆院選に向けた露骨な政治利用と言っていいだろう。

 だが、これまでの安倍首相の北朝鮮対応、そして拉致問題の政治利用には、拉致被害者および家族からも批判の声が上がっている。そのひとつが、拉致被害者である蓮池薫氏の発言だ。

 蓮池薫氏は今月15日にNHKが報じたインタビューのなかで、北朝鮮の金正恩委員長について「今、核とミサイル、アメリカとの関係のことで頭がいっぱいで、日朝関係や拉致問題にほとんど関心がないはずだ」としながら、このような見方を示している。

「しかし今後、追い込まれてくれば、突破口を開こうと対話に乗り出す可能性がある」
「政府が(拉致被害者を)『生存している』と判断しているなら、その点で妥協はせず、北朝鮮が望んでいることも聞いて、交渉の段階を上げないといつまでも同じことの繰り返しになる」

 拉致被害の当事者であり北朝鮮のことをよく知る蓮池薫氏は「対話」の可能性に言及し、「北朝鮮が望んでいることも聞いて」と、事実上、安倍首相による強硬姿勢を批判するかのような発言をおこなっているのだ。

 さらに衝撃的なのは、薫氏の兄・透氏による安倍首相批判だろう。本サイトでも透氏のインタビューを掲載したが、透氏は「安倍さんは、拉致問題を利用して、総理大臣になった」と痛烈批判。安倍首相がこれまでアピールしてきた拉致問題の"武勇伝"がことごとく嘘にまみれていたことを明らかにしたのだ。

 安倍首相が拉致問題を政治利用するのは、今回の選挙がはじめてのことではない。安倍晋三という政治家は、その政治人生においてことあるごとに拉致問題を利用してきた。ウソの武勇伝を自ら喧伝し、自身の"闘う保守政治家"イメージをつくりあげ排外ナショナリズムを煽り、それらを武器に総理大臣にまで駆け上がったのだ。

 そして今回、本サイトは第二次安倍政権発足以降、拉致問題に深く携わった人物に接触。安倍首相がいかに拉致問題を、そして拉致被害者救出のための団体や被害者家族を利用しているか、その内情についての証言を得ることができた。
 
 証言インタビューに応じてくれたのは、関東地方某県の「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(以下、救う会)元幹部2人だ。2人は2000年代後半から拉致被害者を救出すべく「救う会」に参加してきた。しかしその不実な現実を目の当たりにして、現在では「救う会」から離れ、独自の活動を続けている。

「救う会」は2002年の小泉訪朝直後から、「拉致被害者家族連絡会」(以下、家族会)同様、大きな影響力をもつようになっていった団体だ。だが一方で、過激でファナティックな思想や金銭問題などの問題も取り沙汰されてきた。果たして、現在「救う会」はどうなっているのか。そして安倍首相との関係とは──。以下は、元幹部の"怒りの告発"である。

元幹部A 私たちは拉致問題、そして尖閣問題などを通じ、右派運動に興味をもち、活動を始めました。もともと右翼的な考えをもっていたこともありますし、署名活動など熱心に活動してきました。しかし、次第におかしいと思ってきたのです。あまりにその考え方や行動が偏っていき、ついていけなくなった。その大きな要因のひとつに、安倍首相に対する「強すぎる信仰」があります。

元幹部B 小泉訪朝、そして5人の拉致被害者の奪還からどんどん年月が経ち、その間には民主党政権もあり、私たちの間でも焦りがありました。そして2012年、第二次安倍政権が発足します。これは大きかった。まさに拉致問題の旗手、「真打登場」ですからね。期待は膨らみました。そして2014年には日朝協議が再開され、ストックホルム合意......。この際、拉致被害者が何人か帰国するというのが決定事項のように語られていましたし、特別調査委員会もでき、安倍政権は「拉致は最優先事項」とまで言い切っていた。マスコミもこれを大きく取り上げ、再び拉致問題に大きな関心が寄せられたこともあり、みな"安倍さん万歳"状態でした。
 しかしその後はどうなったか。北朝鮮からの報告書は一向に出ない、拉致被害者も一人も帰国はしない。時が経つにつれうやむやになり、2016年2月には北朝鮮から拉致の再調査をおこなう「特別調査委員会」の解体が発表された。結局、何の成果もなかったし、時間だけが経過し、すべては振り出しに戻っただけです。
 加えて、安倍首相は最近では北朝鮮のミサイル危機に乗じて「対話ではなく圧力」などと言って交渉すら放棄しています。それなのに「救う会」は抗議するどころか、早い段階から「報告書など受け取るな」と、交渉の失敗をごまかすためのアシストをして、逆に安倍首相礼賛の姿勢を強めていったのです。何か疑問を口にすると「安倍さんの足を引っ張るのか」「安倍さんに迷惑をかけることなど絶対にするな、言うな」と言われて、黙るしかない。

元幹部A 第二次安倍政権成立後の、政府と「救う会」、「家族会」の言動は、拉致被害者救出活動とはとても呼べるものではなく、自民党の下部組織の極右活動以外の何ものでもありませんでした。安倍首相への露骨な応援と追随です。
 たとえば憲法改正です。「救う会」や「家族会」では"拉致問題は憲法改正をしないと解決できない"というのが支配的な論調になっています。安倍首相は15年に安保法制を可決・成立させ、さらに憲法改正を目指していますが、「救う会」は「安倍首相の改憲の目的は、自衛隊を派兵して拉致被害者を救出するためだ」と大真面目に語る。
 でも、そんな馬鹿なことはない。もし本当の保守思想の持ち主なら、口だけで何もしない安倍首相を批判し、「具体的に動いてくれ、被害者を本気で救ってくれ」と抗議すべきなのに、それもしない。さらに、もし本当に戦争になったら、拉致被害者も巻き添えになる確率も高い。なのに、そんな矛盾や疑問さえ口に出せない雰囲気がある。現実から乖離し、戦争や圧力など勇ましい言葉を叫ぶだけで思考停止しているのです。繰り返しますが、その背景にあるのは安倍首相への盲信です。

元幹部B こうした状況を安倍首相が政治利用しているのも明らかです。その理由はやはり2002年の訪朝で安倍さんが"拉致問題のヒーロー"として一躍脚光を浴びたことだと思います。実際には何も実績はない。でも最初は安倍さんにすがるしかなかった。そして安倍首相は何も成果が上がらないのに、巧妙に家族や「救う会」に"解決するのは自分しかいない"とうえつけ、「救う会」の幹部もまた、自分たちの思想や利権のために安倍首相を崇めていく。

元幹部A その急先鋒は現在「救う会」の会長である西岡力さんだと思います。西岡さんは第一次安倍政権のときの首相のブレーンと言われていましたし、安倍首相だけでなく日本会議とのつながりも深いというのが私たちの認識です。真偽はわかりませんが、いまでも安倍首相との関係を集会などで公言していますし、極秘情報として「水面下の交渉が進んでいる」と常々語っています。まあ、毎回、毎回同じセリフを繰り返すだけですが。「家族会」の、とくに横田早紀江さんなどは大きな信頼を寄せています。
 でも、わたしたちは信用できない、恐ろしい人だと思っています。あるときには脅し、あるときには笑顔で関係者を洗脳する。拉致問題に関わって以降、すごい出世もしていますし、誰も逆らえない。そして西岡さん以下の幹部たちは「解決には強い政府が必要。だから安倍政権を続けないといけない」と言う......。だから、防衛相だった稲田朋美の不祥事を問題にしたり、森友・加計問題を話題にするのは非国民扱い。異論は封殺される。
 同時に西岡さんは、熱心に従軍慰安婦の強制連行を否定する活動もしている。北朝鮮の拉致は、じつは韓国人がもっとも多く、日本も連携するのが筋なのに、真逆な行動をとっている。しかも、安倍首相がおこなった日韓合意に対し、西岡さんは本来なら批判する立場なのにそれもしなかった。

元幹部A 「家族会」もすっかり洗脳されてしまっている。「家族会」20周年の挨拶で代表の飯塚繁雄さんは「わが総理大臣を中心として、ミサイルが飛んでこようが、核実験をやろうが、どんな状況下にあろうとも、この問題を最優先にして前に出して、今年中という期限を切った形で皆さんと共に、心と意志を集中しながら闘っていきたいと思います」と安倍首相を絶賛する挨拶をしていました。しかし繰り返しますが、安倍首相の功績はゼロなんです。
 でも「家族会」や「救う会」は「安倍さんがやってくれる。だから我々は何もしなくていい。安倍さんの応援だけしていればいい」と思っている。そうした気持ちを安倍首相は政治利用する。「家族会」も親世代から、兄弟、子どもの世代に引き継がれ、その傾向はますます強くなっています。
 結局、相互の利害が一致して、拉致問題を利用し合っている。被害者のご両親は別として、「救う会」、政府とも、問題が解決しないほうが都合がいいと思っているとしか思えない。それが実態です。

元幹部B しかも「救う会」の何人もの幹部が、日本会議や「美しい日本の憲法をつくる国民の会」のメンバーだったり、嫌韓・反中的な排外主義の考え方をもっています。のちに"米軍基地反対運動は中国の工作"という主張を繰り返す「沖縄対策本部」を結成したメンバーもいました。ほかにも宗教団体やモラロジー研究所、日本遺族会なども集会に動員されたり、頑張れ日本!全国行動委員会のメンバーも参加していたりします。
 そして、武力を使ってでも被害者救出を、と言う者も多い。まったく現実的ではないのですが、それを指摘しても聞く耳はもちません。また、拉致問題を右翼運動につなげたい、憲法改正に利用できると、まるで"道具"のように公言する人もいました。過激でマッチョな考え方に陶酔しているのです。だから、北朝鮮からのミサイルに対して先制攻撃まで主張する。
 本当に拉致問題を解決したいなら、制裁強化ではなく、話し合いや外交努力をおこなうべきで、それは現実的に可能だと思います。しかし、そういった声は「救う会」をはじめ右派陣営からは聞こえてきません。安倍首相や「救う会」によって拉致問題は道具にされ、被害者家族の子を思う親の気持ちもまた利用されている。拉致問題と「家族会」は聖域化し、安倍批判をすれば「北の分断工作」「スパイだ」と批判されタブー化されています。
 しかも、安倍批判をすると「安倍首相のブレーンには在日がいる。その側近が悪いのであって、安倍首相は悪くない」なんて反論まで返ってきたことも。そんな狂った論理がまかり通っています。これでは一般国民の心は離れてしまう。

元幹部A 拉致問題は、第一義的には人権と命の問題です。しかし、安倍首相を見るとほとんど「詐欺」としか思えません。このまま安倍首相に拉致問題を任せていいのか。本当に怖いと思います。
 今年4月の「国民集会」では、初めて演壇に大きく日の丸が掲げられ、会場中の人が一斉に拳を突き上げました。これはいままでになかったことで、その様子は拉致被害者救出運動の集会ではなく、まるで国粋主義の集会です。
 私たちはかなり深いところまで拉致の運動に関わってきましたが、安倍政権発足以降、ますます偏りが顕著になったと感じています。なぜ、拉致救済の名のもとに、国粋主義、歴史修正主義などネトウヨのような言説がはびこるのか。私たちは純粋に拉致被害者の救済を願って活動をしてきました。だからこそ、怒りを感じずにいられません。
「救う会」は壮大な空想ばかり並び立てる、政府は現実的対策を講じようとしない。これまで活動の中枢にいて、政府も「救う会」も本気で拉致被害者を救出する気がないのではないのかとさえ思うようになったのです。こうした現状のもと、私たちは微力かもしれませんが、拉致被害者を救出する、それを現実的に考えながら行動していきたいと思っています。

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 どうだろうか。この元幹部2人の証言からは、「救う会」の内実と、そこに巣食い、利用する安倍首相との相関関係が浮かび上がってくる。そして安倍首相は都合のいいタイミングで拉致問題を引っ張り出し、それをフル活用していると言えるだろう。奇しくも10 月15日で5人の拉致被害者が帰国して15年を迎えた。そのタイミングでの、「救う会」元幹部たちの悲壮な声。まずは拉致問題から安倍首相を切り離すこと。それが解決の第一歩なのかもしれない。
(編集部)