ほぼ日の糸井重里代表は「人が集まる場」を作ることに心血を注いでいる(撮影:尾形文繁)

10月18日、株式会社ほぼ日が2017年8月期の決算説明会を開いた。ほぼ日は、糸井重里氏が創設したウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する会社。売上高の66%は「ほぼ日手帳」だが、手帳以外も成長中だ。今年3月にジャスダックに上場したばかりのほぼ日にとって、上場後初の本決算発表である。

2017年8月期は主力の手帳が6万部増え、売上高は前期比6.6%増の40億円で着地。一方、人員増強の費用が重しとなり、営業利益は横ばいの5億円だった。今2018年8月期も手帳は堅調。生活雑貨展、地球儀、学校といった新規事業が5億円乗り、47億円弱の売上高を見込んでいる。営業利益予想は人員増強を続けるために、横ばいの5億円だ。

一番売れたのはイスラエルのお取り寄せ靴!


ほぼ日の売上高の6割超を占めるのは、「ほぼ日手帳」だ(撮影:尾形文繁)

糸井代表が説明会の場でまず言及したのは、「生活のたのしみ展」。3月に六本木ヒルズの屋外広場・大屋根プラザで3日間開催した生活雑貨展のことだ。展示会に参加するクリエイターや雑貨はほぼ日が厳選。ほぼ日が仕入れたものを、ファンを中心とした顧客に販売した。

「非常に簡単に言うと大成功。洋服やおもちゃの国内販売はどこもなかなかうまくいっていないが、雑貨人気は落ちていない。雑貨はジャンル分けにとらわれない”何か”。雑貨の持つエネルギーに、作る側、売る側、買う側が魅力を感じている」(糸井代表)。

3月の展示会で最も売れたのは、イスラエルの職人が作る「NAOT」の靴だった。足を採寸してフィットする靴を取り寄せるという手の込んだものだが、それが最もウケた。次に売れたのが、自社のアパレル「LDKWARE」だ。

料理家なかしましほのレシピで開発した全粒粉ホットケーキミックス(ホットケーキの材料となる粉)はこの雑貨展で初めて販売され好評だったほか、登山用品開発・販売会社、モンベルの軽量折りたたみ傘も飛ぶように売れた。

「モンベルの傘は以前から僕が使っていた。少しでも荷物を減らしたい登山家のために軽量化されているが、実は荷物の多いサラリーマンやOL向けでもある。モンベルのモの字も知らない社会人が買っていった。すぐ品切れとなり、在庫のある店から追加分を仕入れたほどだった」(糸井代表)。

展示会の開催期間中に咲くように栽培した桜もよく売れた。「生花のプロなら、いつ、どこの花屋に行けばどの花があるかを把握している。でも一般の人は必ずしもそうじゃない。桜を飾ってみたくてもどこに行けばいいかわからない。そんな人のために、事前に準備した」(糸井代表)。

3月の展示会は、3日合計でレジ決済回数約1万5700回と大盛況。ただ、長蛇の列を成し、途中で列を離れたり、並ぶのを諦めた来場者も少なくなかったという。

好評だった雑貨展の第2弾を11月に開催


3月に開催された「生活のたのしみ展」は大盛況だった(写真:ほぼ日)

そのため11月中旬開催の第2回展示会は、会期を3日間から5日間に拡大。出展者数も20から約60にする。場所は第1回と同じ六本木ヒルズだが、場所は5倍の面積のあるヒルズアリーナに移す。篠田真貴子CFO(最高財務責任者)は「第1回とは企画内容がすべて異なる」と明かした。

「第1回が大成功だったので、第2回開催のメドが思ったより早く立った。(集客力を)実績で示せたので、家賃を安くしてもらうなど好条件で開催できる。(都内の)ほかの場所や地方にも展開し、生活のたのしみ展のブランドを高めたい」。糸井代表は笑顔でそう語った。

生活のたのしみ展と祖業のほぼ日刊イトイ新聞は、生活雑貨展とウェブサイトであり、一見似ても似つかない。だが、糸井代表にとっては同じことだという。厳選したコンテンツでほぼ日新聞という「人が集まる場」を育ててきた糸井代表にとっては、雑貨展も「場」であり、厳選した雑貨はコンテンツそのものだからだ。

そして新年度に発売するのはなんと、地球儀だ。「アースボール」と呼ばれるこの新製品は、11月の生活展で先行販売、12月から本格販売する。「(ロフトなど)手帳の販路からの引き合いが強い」(糸井代表)。

予定販売価格は6000円前後。空気を入れるビーチボールタイプの地球儀だが、凸版印刷の圧着技術で継ぎ目を自然にし緯度や経度がずれないように、小さな島が継ぎ目に吸い込まれないようにした。「どのビーチボール型の地球儀よりも、ほぼ日のアースボールはかなり精密」と糸井代表は胸を張る。

作りが精密なだけではない。地球儀にスマートフォンのカメラをかざすと、「かつては恐竜の生息地だった」などといった情報を見られるAR(拡張現実)技術を実現させるという。「相当先端の人とアプリの研究開発をしている」(糸井代表)。


ほぼ日が12月から本格販売する「アースボール」。普通のビーチボールのようだが、精緻な作りになっている(写真:ほぼ日)

地球儀に着目したのは、「グローバル、グローバルと口では言うが、地球を丸い状態で考えているのだろうか」という糸井代表の問題意識からだ。グローバルな世の中になったのとは裏腹に、「昔は家庭にも教室にもあった地球儀がない」という糸井代表の気づきを起点とし、開発を進めてきたという。

織田信長が地球儀を蹴ったり投げたりする、ある映画のシーンを思い出し「グローバルを体で感じるというのはこういうことだ。地球儀に実際触ることだ」とひらめいたのだそうだ。

「メルカトル図法」に慣れきってませんか?

「地球儀があれば、IS(過激派組織・イスラム国)がラッカからいなくなったというニュースを見ながら親子で語り合える。(高緯度ほど実際よりも大きく見える)メルカトル図法に慣れきった眼には、ロシアは意外に小さく、オーストラリアは思ったよりも大きいという新鮮な驚きがある。クレオパトラ7世とカエサルが恋に落ちたのも、地球儀でギリシアとエジプトが意外に近いと実感すれば納得できる」(糸井代表)。
 
アースボールの懸念材料は「ハイテクすぎる」と母親や子どもに敬遠されること。だから最初は、赤ん坊や猫がじゃれて面白がるものというイメージの定着を図る。糸井代表は「僕自身がセールスマンになって、地球儀を背負ってイベントやテレビ番組に出張っていかないといけない」と意気込む。

さらに来年1月からは「ほぼ日の学校」という古典講座も始める。最初のテーマは「シェイクスピア」。1回150分、ほぼ隔週の平日夜、全14回を開講する。会場はほぼ日のオフィスだ。料金は税込みで12万9600円。定員は99人。授業の動画は別途ネット上で有料で提供することも計画している。

シェイクスピアの研究者も講義をするが、お堅くて退屈な講義を延々と続けるつもりは毛頭ない。生物心理学者、演出家、俳優、作家、翻訳家、医師、ベンチャーキャピタリストなど、さまざまな分野の専門家がシェイクスピアを語る予定だという。

シェイクスピアから始めるのは、たとえばあるインキュベーター(ベンチャー育成家)が、「ベンチャー投資では(経営者がどんな人かという)人間理解が一番大事。若いときにシェイクスピアを読んでおくと役に立つ」という話を糸井代表が聞いたことがあったからだという。シェイクスピアの後は「万葉集」や「ダーウィン」といったテーマに取り組む予定だ。

なぜ古典なのか。「(自分、ひいては今の日本人には)古典が足りていない」。そんな糸井代表の問題意識から始まったのだそうだ。「経済を語るにしても、人間が作ってきた歴史・社会・文化が体内に取り込まれた形で語るのが本当なのではないか。そう言われる時代が来る」と予測している。

ほぼ日の学校もまた「人が集まる場」の創出であり、意外な分野の専門家が古典を語るのはまさに、コンテンツを載せていくというほぼ日のやり方そのものなのかもしれない。

株主には「ほぼ日5年手帳」をプレゼント


篠田真貴子CFOは初の株主総会を前に意気込む(撮影:尾形文繁)

ほぼ日は11月26日に上場後初の株主総会を開催する。株主を恐れ、平日の昼間に実施されがちな総会だが、ほぼ日はあえて日曜日を選んだ。篠田CFOはその理由について「少しでも多くの個人投資家に会いたいからだ」と強調する。

ほぼ日では株主の定義もユニークだ。「ほぼ日の株を持つ形で、ほぼ日(という場)に参加してくれている人」(糸井代表)。だからこそ一人でも多くの株主に会いたいという発想になる。株主総会後には、5時間ほどのイベントを企画中だ。「本来ならおカネを取れるくらいのコンテンツ」を準備する。

株主優待として新製品の「ほぼ日5年手帳」を株主に送る予定だ。「長く株主でいてね」という思いもあるという。ほぼ日手帳は1年版が主流だが、あえて5倍にしつつも、「『コンサイス英和辞典』のようなギリギリ持ち歩ける大きさにした。手前みそだが素敵な仕上がりにできた」(篠田CFO)。

ビジネスの展開も株主との関係づくりも斬新なほぼ日。地球儀や学校という新たな挑戦は吉と出るか。糸井代表のさらなる次の一手に、想像をかき立てられる人も少なくないだろう。