選挙戦只中の今、自民系候補者の口からよく聞かれる「安倍政権なら他国の脅威から日本を守れる」という主張。果たしてそれは正しいのでしょうか。元全国紙の社会部記者の新 恭さんはメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、田原総一朗氏が防衛省幹部から入手した「トランプ大統領が北朝鮮に武力行使する可能性あり」という情報を紹介するとともに、平和を死守する空気が希薄な自民党ではかえって危険が増すだけではないかとの見方を示しています。

安倍首相はトランプ大統領の武力行使にブレーキをかけられるのか

メディアの調査を信じるなら、選挙後も「安倍一強」が続きそうな気配である。森友・加計疑惑に象徴される政権の体質に国民は倦んでいるはずなのに。

小池都知事は国政のブラックボックスを攻めきれず、安倍首相は悪玉・北朝鮮の核ミサイル脅威を「国難」として、国民を味方につけたということだろうか。

どうやら多くの国民は、安倍首相、トランプ大統領の表面上の蜜月が、北朝鮮の脅威から日本を救うと幻想を抱いているようだ。そして、イージス艦やPAC3のミサイル迎撃システムが本当に有効だと信じ込んでいるのかもしれない。

だが、日米同盟の強化をはかる安倍政権なら日本を守れるという自民党の主張にどんな根拠があるのだろう。むしろ、危険ではないか。いわゆるハト派が影を潜めた今の自民党には、平和を死守する空気が希薄だ。安倍首相の心一つで、この国の命運が決まりかねないのだ。

田原総一朗氏が外務省、防衛省の幹部からこんな情報を得たという。

トランプ大統領が11月4日に来日して安倍首相に会ったあと、北京に向かい、習近平総書記と会談する。その目的について。

年末から来年にかけ米国が北朝鮮に武力行使をする可能性がある。中国には黙って見ていてくれ、ということだ。

たしかに、米韓合同軍事演習の名目で、航空団を搭載した原子力空母や原子力潜水艦、駆逐艦などが朝鮮半島を取り囲むように集結し、金正恩に圧力をかけている。冷静さを金正恩が失えば、暴発しないとも限らない。軍事衝突の危険は増している。

しかも中国の習近平は反米路線を転換し、北朝鮮に対し厳しい経済制裁をはじめたところである。北朝鮮から輸入した石炭を大量に返還したのはその象徴的出来事だ。アメリカが北朝鮮と開戦しても、中国は北朝鮮との同盟関係を定めた「中朝友好合作互助条約」を無視して、傍観する可能性が高いといわれる。

外務省幹部は私に、日本としてはそのための態勢をつくらなければならない、できるだけ早く選挙をしたいと言った。防衛省幹部も言っている。

田原氏はそう述べたうえで、なぜこの問題を解散の理由にしなかったのかと指摘する。が、まさか国民に対し「アメリカが北朝鮮と開戦した場合、戦争に巻き込まれるかもしれない。覚悟をしてもらえるか、判断を仰ぎたい」と安倍首相は言えないだろう。

選挙に勝てば、米国の軍事作戦と共同歩調をとる安保法制について国民の信任を得たと言い張るつもりではないか。

「安倍自民『圧勝』のシナリオを狂わせた、小池都知事の隠し玉」でもふれたが、田原氏が話したような内容は9月22日、福岡市内での講演会で青山繁晴自民党参院議員が鼻高々に喋っていた。

米国と北朝鮮がいつ戦争になってもおかしくない。同盟国の日本が集団的自衛権の限定行使を容認した安全保障関連法を本当に使うのか、使わないのか。有事が起きる前に、有権者の判断を問うためだ。

トランプ米大統領が北朝鮮と戦争するか、しないのか、米国案を持って11月初めに来る。だからその前に解散するしかない。

青山氏もおそらくネタモトは防衛省あたりだろう。とすれば、霞が関界隈では、米国の北朝鮮への軍事力行使について、そうとう深刻な話題としてのぼっているに違いない。

9月23日に麻生太郎副総理が北朝鮮有事について語った以下の発言も、そういう空気を反映している。

今の時代、結構やばくなった時のことを考えておかないと。

難民が船に乗って新潟、山形、青森の方には間違いなく漂着する。不法入国で10万人単位。どこに収容するのか。

警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい。

こうした情報が、北朝鮮に対する国民の危機意識や敵愾心を煽って選挙を有利に進めようと意図しているのか、本当に11月4日のトランプ大統領来日を機に軍事作戦が動き出す可能性があるのか。あのトランプ氏のことだ、誰もわからないだろう。

北朝鮮はミサイルと核を開発し日本、韓国といういわば「人質」をとっている。それゆえ、米国は迂闊に手を出せないでここまで来ている。

だが、トランプが大統領になったがゆえに金正恩を罵倒し、挑発合戦のようなことになってしまった。北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返し、米本土にまで届くほどのレベルにまで達していることをアピールしたため、米国の世論は北朝鮮への強硬姿勢を支持する方向へ傾いている。

もっとも、ふつうなら、北朝鮮に先制攻撃をかけるような真似はできまい。日本と韓国を巻き込んだ反撃は必至であり、その責任を問われるからだ。

金正恩も、自殺願望でもない限り、いかに経済制裁を受けて苦しくとも、グアム島の米軍基地にミサイル攻撃をかけるとは考えにくい。

あるとすれば、挑発合戦にともなう小規模な衝突が本格的な戦争の引き金になるケースだろう。

だが過去の事例から見る限り、アメリカは被害を最小限に食い止めるための有効な戦い方を見いだせるとは思えない。

1969年4月、朝鮮半島沖で米軍の偵察機が北朝鮮のミグ戦闘機に撃墜され乗員31人全員が死亡した。このとき、北朝鮮の空軍基地に報復攻撃する計画が検討された。だが、結局、アメリカは何もできなかった。

北朝鮮の軍事力を一挙に破壊しつくさないかぎり、韓国はもちろん、米軍基地のある日本も報復攻撃を受ける。米国は当然、核兵器を使うことなどできない。せいぜい近海に艦隊を送り込み、戦闘機で威嚇するしかなかった。

94年にも米軍ヘリが撃墜されたが、北朝鮮の軍事力を一気に破壊し全面戦争を避ける手立ては見つけられず、カーター元大統領が訪朝、金日成主席と会談して対話による解決をめざす路線が敷かれた。

その当時よりはるかに状況は困難になっている。日本を標的としたノドンは、とうの昔に完成し、200発以上にのぼる。しかも一か所にまとめて存在するわけではない。敵基地攻撃でミサイルのごく一部は破壊できても、残ったミサイルがどこから飛んでくるかわからない。しかもPAC3では、配備地点のすぐ上空しか守れない。一部の自民党政治家が言う「先制攻撃論」などナンセンスなのである。

冷静に考えれば、朝鮮半島で戦争など起こらないよう周到に問題解決をはかるしかないのである。ところが、トランプ、金正恩という、良識が疑われる人物どうしが戦いの引き金を引きうる当事者であり、予測不可能な危険性があるのも事実だ。

最近の関連報道も続々と緊張感を伝えている。

マティス米国防長官は10月9日、陸軍将兵らを前に講演し、北朝鮮情勢に関し、外交や経済圧力による解決に失敗した場合は「大統領が軍事的選択肢を必要とした場合に確実に実行できるよう準備を整えておかなくてはならない」と述べた。

(産経新聞)

朝鮮半島を取り巻く状況が尋常ではない。「死の白鳥」と呼ばれる米国のB-1B戦略爆撃機2機が10日真夜中、北朝鮮近隣上空に予告なしに出撃した。

(中央日報日本語版)

万が一、トランプ大統領が武力行使を決断した場合、日本政府がそれを止めることができるかどうか。安倍政権にその役目を任せても大丈夫なのか。有権者は票を投じる政党を慎重に選ばなくてはならない。

元外交官でニューズウイーク誌のコラムニスト、河東哲夫氏の提言を紹介しておこう。

米韓・朝の双方が体制転換の試みを放棄することを宣言するとともに、北の核兵器削減に比例して制裁も解除し経済関係を進めることで合意すれば、トランプ、金双方の面目も救った上での収拾が可能となろう。…6か国協議のメンバーを見回せば、日本が仲介者として一番マシだろう。…「圧力」一辺倒よりもこういう外交をすれば日本も世界で見直されるのではないか。

安倍首相にそれだけの外交力があるだろうか。河東氏の提言する方法以外にも戦争を回避する手立ては見つかるはずだ。

なぜメディアは、北朝鮮の脅威に対処するためには日米同盟の強化が必要という安倍首相の主張を鵜呑みにするのだろうか。日米安保条約は大切だが、安倍首相が考える日米同盟とは、米国とともに戦争をすることを厭わない、国家のためなら人命の犠牲は仕方がないという、戦後平和主義を覆す性質のものである。

戦争で難事の決着をはかろうとする古今東西変わらぬ人間の愚かな発想から抜け出すには、国のリーダーが知恵を本位として戦略を立て、実行するしかない。

image by: 安倍晋三 - Home | Facebook

MAG2 NEWS