“空のF1″とも呼ばれる飛行機レースの世界大会「レッドブル・エアレース」の2017年最終戦が10月15日、米国・インディアナポリスにある「モーター・スピードウェイ」を舞台に開催。日本人パイロットの室屋義秀選手が優勝し、同時にアジア人として初の2017年シリーズ総合優勝も果たした。その激闘の模様を振り返ってみよう。

↑最終戦優勝と、アジア人初のシリーズ優勝を果たし、ダブル優勝を果たした室屋義秀選手

 

自力優勝がない室屋選手が最終戦をどう戦うかに注目が集まった

決勝当日、インディアナポリスは朝から激しい雨と風に見舞われていた。幸い昼ごろから天気は回復へと向かい始めたものの、風はなかなか収まらず、パイロンは大きく揺れたまま。果たして決勝は開催できるのか。そんな不安のなか、先にチャレンジャークラスの決勝はキャンセルが決定。マスタークラスはどうなるのか、主催者の判断を待っていると、まず20分遅れでスタートするとのアナウンスが。しかし、最終的には当初より45分遅れの13時50分からスタートとなった。

 

室屋選手は今シーズン、サンディエゴ(アメリカ)、千葉、ラウジッツ(ドイツ)で優勝を果たしており、年間総合ポイントはそれまでトップだったマルティン・ソンカ選手(チェコ)に4ポイントまで迫っていた。しかし、室屋選手が年間優勝を獲得するには、最終戦で優勝するだけでは足りず、ソンカ選手が3位以下になることが必要だ。つまり、室屋選手の自力優勝は最初からなかったのだ。

 

そのため、室屋選手の動向はもちろんだが、注目はソンカ選手のなり行きに集まった。前日に行われた予選でソンカ選手は4位と比較的好調を維持する一方、室屋選手はマシンの不調やペナルティを課されたことで11位に甘んじた。この状態で室屋選手が総合優勝するのは、かなりハードルは高いだろうとされていた。

 

予選の結果から発表された組み合わせは、驚いたことに「Raund of 14」(※)第2ヒートで、室屋選手とソンカ選手が1対1でぶつかるというもの。これには誰もが驚いたに違いない。年間ポイントの上位2名が早くも“頂上決戦”で向かい合うこととなったのだ。

※本大会では14名の全パイロットが対戦形式で戦い、最後に残った4名が決勝でタイムを競い合う形を採る。全員が参加する「Round of 14」から始まって、その勝者7名と敗者のなかから最速タイムを記録した1名が「Round of 8」へと進む。そして、「Round of 8」で絞り込まれた4名が優勝者を決定する「Final 4」で戦うという流れだ

 

頂上決戦では室屋選手が勝利したが、事態は予想外の展開に――

↑「Round of 14」で対決に望む室屋義秀選手(左)とマルティン・ソンカ選手の機体

 

そうした状況のもと、「Round of 14」が開始された。するとレースの展開は意外な方向へと進み始める。まず、タイムこそ1分06秒134と伸び悩んだ室屋選手が、ソンカ選手のパイロンカットするミスに助けられ「Round of 8」への進出を決めたのだ。これで誰もがいったんはソンカ選手の敗退が決定的と思ったに違いない。

 

ところが、この日は強風の影響を受けてパイロンが左右にぶれる状況にあり、その影響もあってパイロンカットする選手が続出。ソンカ選手はそんな状況に助けられ、敗者復活で「Round of 8」進出できるラッキーな展開となった。このとき、再び室屋選手とソンカ選手の対決は繰り返される可能性が出てきたのだ。

 

迎えた「Raund of 8」。室屋選手は第1ヒートでミカエル・ブラジョー選手(アメリカ)と対決。調子を徐々に上げてきていた室屋選手はここで1分04秒557秒と好タイムをマークし、難なくミカエル選手を制した。

 

一方のソンカ選手は、予選で最速タイムを叩き出したマット・ホール選手と対戦。ここでマット選手はパイロンカットを含むペナルティ加算を繰り返して5ポイントの減点。これによって、ソンカ選手も「final 4」へ進出が決定した。まさに室屋選手とソンカ選手の対決が最初から仕組まれていたようなアツい展開。最終の「Final 4」で“因縁の対決”が再び繰り返されることとなったのだ。

 

「Final 4」で室屋選手は誰も追いつけない1分03秒台をマーク!

「Final 4」では室屋選手はタイムをどこまで伸ばせるか。また、ほかの選手がソンカ選手を押さえるだけのタイムを出してくれるか。我々の関心事はこの2点に絞られた。

 

そして始まった「final 4」。室屋選手はそのトップバッターとしてアタックし、かつてないスピードと切れを見せて果敢に攻める。その結果、室屋選手はノーミスで1分03秒026秒という驚きのタイムをマーク。室屋自身も経験がない1分03秒台をレコードしたのだ。この結果に観客席は最高の興奮と絶叫に包まれた。

↑「Final 4」で初の1分03秒台をマークした室屋選手のフライト

 

↑室屋選手が「Fainal 4」を終えると、モニターには1分03秒026秒を記録が映し出された

 

実は「Final 4」での室屋選手の飛行はハラハラドキドキの連続だった。特に勢い余って機体が反転してしまいそうになった際には、思わず「パイロンヒットか!?」と誰もが思ったはず。しかし、室屋選手は機体の姿勢を強引に修正し、これを無事にかわす。レース後のインタビューで室屋選手は「自分でも本当によくかわせたなといまでも思っている。1分3秒台(を記録できた)なんてあり得ないことでしょ」と自分で出した成績に信じられない様子だった。

↑予選でのフライトとは打って変わり、決勝で室屋選手は切れのある速さで果敢に攻める

 

ソンカ選手はタイムを思うように伸ばせず、室屋選手のダブル優勝が決定!

そのあとに続くマティアス・ドルダラー選手(ドイツ)は1分05秒546秒、フアン・ベラルデ選手(カナダ)が1分05秒829秒といずれも1分05秒台にとどまる。しかし、最後にアタックするソンカ選手にとっては、プレッシャーを感じないわけにはいかないタイムだ。無難に攻めればタイムは稼げないし、これを上回るために思い切って攻めればミスを誘発しかねない。

 

そんな状況を意識したのか、ソンカ選手の飛行にはキレがまったく見えない。モニター上に映し出されたセクターごとのタイムは室屋選手から遅れていることを示す赤が並ぶ。そして最後も赤となってタイムは1分07秒280秒。この瞬間、室屋選手の最終戦での優勝が確定。そしてソンカ選手のタイムが3位の選手を上回ることができなかったことで、室屋選手はアジア人初となる「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」の総合チャンピオンとなった。

↑注目のマルティン・ソンカ選手の「Final 4」でのフライト。1分07秒280にとどまった

 

↑「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」で総合チャンピオンのトロフィーを受け取る室屋選手

 

↑タイトル獲得を表彰台で喜び合う室屋選手の所属チーム

 

エアレース最終戦が行われたインディアナポリス・スピードウェイは、今年の5月、インディ500でレーシングドライバーの佐藤琢磨選手が優勝した場所。奇しくも1年に2人の日本人選手がその歴史に名を刻むこととなったのだ。来年の千葉大会の開催は現時点で白紙の状態のようだが、この歴史的偉業を達成したこのレースをぜひとも千葉で、日本で開催してもらいたいものだ。

↑今年5月に「インディ500」で日本人初優勝を獲得したレーシングドライバー佐藤琢磨選手もお祝いに駆けつけた

 

↑インディアナポリス・モーター・スピードウェイで優勝した選手の恒例行事となっているスタートラインへのキス。この日は室屋選手と佐藤選手が揃ってキスをした

 

なお、レッドブルエアレースのマイナーリーグ「チャレンジャークラス」は、女性初のエアレース選手であるメラニー・アストル選手(フランス)が大会優勝を果たした。

↑チャレンジャークラスで優勝したメラニー・アストル選手(フランス)