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性的な意図なく「わいせつな行為」をおこなった場合、強制わいせつ罪が成立するかどうか――。そんな少しマニアックなポイントが争われた刑事事件の上告審弁論が10月18日、最高裁判所大法廷で開かれた。

これまで大法廷は、判例変更や憲法判断などをおこなう場合に開かれているため、「性的な意図は必要」としてきた判例が変更される可能性があり、注目を集めている。最高裁は年内にも、判断を示すとみられる。

●最高裁判例は「性的意図が必要だ」というものだった

この事件は、山梨県内の男性が2015年、13歳未満の少女にわいせつな行為をしている様子をスマートフォンで撮影したというものだ。男性は強制わいせつ罪などに問われて、1審・2審ともに、「性的意図」があったとは認定しがたいとしながらも、同罪の成立を認めた。

一方で、最高裁は1970年(昭和45年)、報復の目的で女性を裸にして写真を撮影した事件をめぐり、強制わいせつ罪の成立には、性欲を満足させる意図が必要として、同罪は成立しないと判断している。

弁護側はこの判例を踏まえ、男性の動機は「知人から金を借りる条件として、少女とのわいせつ行為を撮影したデータを送るように要求された」ものとしたうえで、性的な意図はなく強制わいせつ罪は成立しないとして、無罪を主張している。

●「性的意図が不要」で生じる不都合なケース

そもそも、強制わいせつ罪は「13歳以上の男女に対し、暴行または脅迫を用いて、わいせつな行為をした者は、6カ月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」と定められている。

ここでいう「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的同義に反するもの」と定義されている。つまり、一般人の感覚からしても、「わいせつ」でなければならないということだ。

しかし、弁護側によると、強制わいせつ罪の成立において、行為者(加害者)の性的意図は不要とすれば、本来ならば処罰されるべきでない(1)医療行為、(2)乳幼児への育児行為、(3)身体障害者への介護行為が処罰対象になるという不都合が生じるという。

たとえば、泌尿器科や産婦人科での治療・診断では、性器を露出させたり、触れることがある。一方で、13歳未満に対する強制わいせつ行為は、被害者の同意があっても成立する。したがって、もし性的意図が不要ならば、13歳未満に対する正当な医療行為も、強制わいせつとして処罰される可能性が出てくるというのだ。

この日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた園田寿弁護士(甲南大学法科大学院教授・刑法)は「乳幼児の育児行為に性的興奮を感じるような特殊な性的嗜好があったとしても、一般人は性的興奮を感じない。その行為をわいせつと評価できるのか」「客観的にわいせつを定義するのはむずかしい。主観に言及せざるをえない」と指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)