メジャーリーグでは有力FA選手の獲得がチームの浮沈を決める要素になる。そのため米国のスポーツメディアはオフのFA市場の動向に高い関心を示し、シーズン中から「今オフのFA選手ランキング」が様々なメディアから発表される。
 そうしたランキングで最も高い評価を受けているのが、ドジャースのダルビッシュ有だ。
 MLBコムが8月末に掲載した、『オフシーズンFA選手ベストテン』ランキングによると、ダルビッシュはカブスの大エース、ジェイク・アリエタを抑えて1位にランクされている。同様に、7月にクリーブランドの最有力紙『プレインディーラー』が電子版に掲載した『今オフのFA選手トップ25』でもダルは1位にランクされており、今オフのFA市場で目玉選手になることは確実な情勢だ。

★ダルビッシュ有 一番人気の理由
 このオフ、FA市場に出る先発投手はジェイク・アリエタ(カブス、14勝10敗、防3.53)、ランス・リン(カージナルス、11勝8敗、防3.43)、ジェイソン・バルガス(ロイヤルズ、18勝11敗、防4.16)、CCサバシア(ヤンキース、14勝5敗、防3.69)、ジョン・ラッキー(カブス、12勝12敗、防4.59)など。このうちラッキーは10月下旬に39歳になる大ベテラン。サバシアも37歳で年齢的に限界にきている。バルガスはスタミナに問題があり、リンは制球がアバウトすぎて先発の柱では使えない。よって、エース級と評価できるのはともに31歳のダルビッシュ有とアリエタしかいない。
 実績から言えば、一昨年のサイヤング賞投手で、'15年と'16年の2年間に40勝しているアリエタに軍配が上がる。しかし、最近は速球の平均スピードが2キロほど落ち、伝家の宝刀だったカッターを打ち込まれるケースが多い。そのため、今後、エース級の働きができないと見られている。
 一方、ダルビッシュは昨年5月にトミージョン手術から復帰後、速球のスピードが目に見えてアップしているうえ、同手術を経験しているため肘の故障リスクが低いなど好材料が多い。それらを総合すると、ダルの方がアリエタより高い評価を受けているのだ。

★予想される契約規模は143億円!
 今季のダルビッシュ有は、シーズン前半で勝ち運に見放されたこともあり10勝止まり。7月には自責点10と7の試合があったため防御率も3.86と冴えない数字となっている。そのため多少評価は落ちているが、それでも8月末に出たMLBコムの『オフシーズンFA選手ベストテン』で著者のジム・デューケット(元メッツGM)は、契約規模は5年1億3000万ドル(143億円)になると予想しているが、ポストシーズンでハイレベルな活躍をすれば1億5000万ドル(165億円)〜1億7000万ドル(187億円)規模に上がる可能性もある。ダルビッシュはこれまで、ポストシーズンに2度登板しているが、0勝2敗、防御率5.40で、大舞台には強くない投手と見なされている。相手のエース級と投げ合うと勝てないという評価もあるので、ポストシーズンで相手のエース級と対戦して圧倒するピッチングを何度か見せれば、そうした評価は消し飛び商品価値はさらにアップする。

★本命が見えない獲得レース
 MLBコムの『オフシーズンFA選手ベストテン』は、ダルビッシュ有獲得に乗り出す球団として、ドジャース、レンジャーズ、ヤンキース、カブス、ブルージェイズ、エンジェルズなどを挙げている。
 ダルビッシュが7月末にレンジャーズからドジャースにトレードされた時点では「3カ月限定の腰掛移籍」と見られていたが、ド軍はダルを左のエース、カーショウの次に使う「右のエース」として獲得に乗り出す可能性も出てきた。ダルがオフにFAになってチームを離れると右の先発投手は4番手くらいでしか使えない前田健太と、故障リスクが高いベテランのマッカーシーしかいなくなる。ド軍はポストシーズンで使ってみて、大舞台でも十分活躍が期待できる人材という心証を得られれば、メジャー一の資金力を有する球団なので1億5000万ドル前後のオファーを出してくる可能性は十分ある。
 それ以外ではカブスが有力候補だ。エースのアリエタ(右投手)と4番手のラッキー(右投手)がチームを去るので、右のエース級投手を獲得することは今オフの最優先事項だ。7月末のトレード後の動きを見ると、古巣のレンジャーズと長期契約をして復帰するというシナリオは、やや遠のいたように見える。
 ただ現時点で言えるのは“本命不在”であるということだ。ポストシーズンで目を見張る投球を見せれば、資金力のある複数の球団がダルビッシュ獲得にしのぎを削ることになるだろう。

スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。