世界に誇る陶磁器の博物館、佐賀県立九州陶磁文化館。初心者にもわかりやすく、焼き物の知識や技法、歴史を紹介している

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九州佐賀国際空港活性化協議会とディアンドデパートメントが共同プロジェクトを立ち上げ、この秋申込みを開始した「シェアトラベル佐賀」。ディアンドデパートメントが発行するトラベルガイドブック『d design travel』の編集部が、佐賀県に2カ月間住み込んで厳選したスポットを、チャータータクシーで巡る1泊2日の旅だ。

【写真を見る】有田焼の便器が設置された多目的トイレも!佐賀県立九州陶磁文化館は、館内のいたる所で有田焼を目にすることができる

今回は4つのコースの中から、「佐賀のロングライフデザイン定番旅」(7万7300〜10万3500円)を、記者が体験。1日目は、野菜モリモリの名物ちゃんぽんを味わえる「井手ちゃんぽん」に始まり、話題の「武雄市図書館」と神秘的なパワースポット「武雄神社」、レトロな風情あふれる「武雄温泉」、志田焼の歴史を今に伝える「志田焼の里博物館」を巡り、大正14年創業の老舗旅館「大正屋」へ。それでは、佐賀の“ロングライフデザイン”を体感する旅の後半戦をお届けしよう。

■ 佐賀県立九州陶磁文化館

ツアー参加者の中には、「焼き物の知識を一切持たずに有田へ来てしまった」と焦る人もいるかもしれない。かく言う記者もその1人だったが、ご安心を。旅の2日目は、焼き物を基本のキから学べる「佐賀県立九州陶磁文化館」からスタート。ここでは伊万里焼と有田焼の違い、磁器発祥の歴史などを、わかりやすく解説してくれる。常設展は入場無料なのも嬉しい。

なかでも時間をかけて見て欲しいのが、地下に展示室が設けられた「柴田夫妻コレクション」だ。ここには、江戸初期から幕末期の有田焼が時系列でずらりと並ぶ。素朴な初期の有田焼が、時を経て色鮮やかに、形も多様に進化していく過程をじっくり鑑賞できる。総点数1万点を誇るコレクションの中から、毎年約1000点ずつ展示しているそうだ。

なお、館内のいたるところに有田焼が使われているのも魅力の1つ。多目的トイレには、なんと有田焼の便器も設置されているので、この機会に利用してみてはいかが?

■ 源右衛門窯

続いてやって来たのは、伝統的な手書きの窯元としては有田最大の規模を誇る、「源右衛門窯」。ろくろによる成形作業や絵付けなど、職人の技を間近で見学した。

■ 今村製陶 町屋

その後は、進化する新しい有田焼ブランド「JICON」の直売店「今村製陶 町屋」へ。店内には、ナチュラルな風合いの白い器たちがずらりと並ぶ。日常使いできる手頃な価格と、現代の生活に馴染む洗練されたデザインが特徴だ。これらの器には、店主・今村肇さんのある想いが込められている。

「資源を無駄なく使ってあげるというのが、僕の誇りです」と今村さん。有田焼の多くの窯元では、高い強度の青白い器に仕上げるために、1300度で焼くのが一般的。だがその裏では、耐火温度の低い陶石が大量に余ってしまう問題が起こっているという。そこで、今村さんとデザイナーの大治将典さんは、1240度で焼ける粘土を、独自にブレンドして作り上げたのだ。

「JICON」を漢字で書くと「磁今」。今村さんはブランド名の由来を「今村が作る、今を生きる磁器の器という意味です」と熱を込めて説明してくれた。

■ ライおン

2日目のランチに訪れたのは、地元民から愛される老舗ステーキハウス。『d design travel』編集部が取材抜きでも食べにいくと一押しするのが、「ハンバーグセット」(税抜1600円)だ。

厳選した牛ひき肉100%で作るハンバーグは、箸でスッと切れるのはもちろんのこと、歯で噛む必要がないほどふわっふわ!口の中で優しく溶け合う上質な旨味に、思わず笑みがこぼれる。ハンバーグの他に、ライスまたはパン、サラダ、スープ、ソフトドリンクが付き、税抜1600円という価格も嬉しい。なお、ハンバーグはデミグラスソース、ゴマだれ、おろしポン酢から選択可。再び足を運んでまた違う味を食べたいと思わせる、確かな実力店だ。

■ チャイナ・オン・ザ・パーク 忠次舘 リフレッシュルーム

最高においしいハンバーグの後には、有田ならではの贅沢なお茶の時間を。足を運んだのは、有田を代表する窯元の1つ「深川製磁」のミュージアムだ。深川家秘蔵のコレクションをはじめとした、貴重な作品の数々を展示する「忠次舘」の2階に、至福の時を過ごせるティーサロン「リフレッシュルーム」がある。

ここでは、数種類の中から選んだ「深川製磁」のカップで、コーヒーや紅茶、ハーブティーを味わえるのが醍醐味。洗練されたモダンな空間と、窓の外で葉を揺らす木々の清々しさ。そして、一目惚れしたカップとティーポットで飲んだハーブティーのおいしさは、今もしっかりと記憶に刻まれている。

■ Design Office & Shop 1.5

ツアーの工程も残すところあと僅か。最後から2番目に立ち寄ったのは、佐賀県のクリエイターの交流拠点「パハプスギャラリー」のオーナー、北島敬明さんがオープンしたデザイン事務所兼ショップだ。

店内に並ぶのは、「パハプスギャラリー」にゆかりのある作家が手がけたグッズの数々。それは必ずしも、新しいものとは限らない。なかにはこの地に古くから伝わる、素朴な愛らしさを持つ郷土玩具「尾崎人形」の姿も。現在の佐賀から発信される、リアルなデザインのあり方を垣間見た気がした。ほかでは手に入らない、あっと目をひくお土産も見つかるかも。

■ 地酒処 山田酒店

旅の締めくくりは、「お酒があまり強くない」名物店主・山田晃史さんが心を込めて酒を選んでくれると評判の、地酒処 山田酒店へ。九州というと焼酎のイメージを持つ人もいるかもしれないが、今、佐賀の日本酒が盛り上がりを見せているという。

そのきっかけとなった日本酒が、富久千代酒造の「鍋島」だ。山田さんも立ち上げに関わったという「鍋島」。2011年の「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)日本酒部門で「チャンピオン・サケ」に選ばれ、世界一の酒として認められた。

山田さんは「鍋島は一番安い酒から最高級の酒まで、すべてうまいんですね」と太鼓判を押す。取材時には「鍋島特別純米酒」を試飲させてくれた。「非常に飲みやすく、香りが立って、旨味がありスパッと切れていく」との言葉のとおり、とてもバランスが良い。さらに「ちょっと飲み過ぎても頭が痛くならないお酒です」とは、何と有難いことか。

「今は鍋島に負けないように、若い蔵がどんどんおいしいお酒をつくってきているので、どれを飲んでもはずれがないくらい、今の佐賀には素晴らしいお酒がたくさんあります」と山田さん。魅力的な酒がありすぎて、迷ってしまっても大丈夫。山田さんに声をかければ、愛情たっぷりにわかりやすく、好みに合った銘柄を教えてくれるはずだ。

■ 「佐賀のロングライフデザイン定番旅」を終えて

こうして、シェアトラベルで行く佐賀の旅は幕を閉じた。「何もない」なんて言葉もちらほら聞こえてくる佐賀。確かに、決して派手ではないかもしれない。だが、今回の旅で巡ったスポットには、観光客に向けたよそ行きの顔ではない、リアルな今の佐賀があった。

その中に散りばめられた、長きにわたり愛されるデザイン、一瞬で心を掴まれるローカルグルメ、「よか」と笑う地元の人たちの笑顔。そのどれもがかけがえのない、一期一会の出会いだった。今も胸にじわじわと残り続ける、温もりあふれる佐賀の魅力。東京に帰ったら、誰かにきっと言いたくなるはず。「佐賀、よかとこよ」。【ウォーカープラス編集部/水梨かおる】