<食育の大切さが叫ばれて久しいが、味覚については無理解がまだまだ多い。味覚のうち味は5%だけ、味の種類は4つでも5つでもない、好き嫌いは遺伝じゃない......。味覚の権威ジャック・ピュイゼ博士の新著には、味覚の多様性、養い方、驚くべき側面が記されている>

「味覚障害」になる人が増えているという。小学校低学年の30%が、なんらかの味を認識できなかったという調査もあり、患者数は20万人以上に上るとする医師もいるそうだ。

生きるための基礎的な力を子供たちに養わせるという目的で、「食育」の大切さが叫ばれて久しい。2005年には食育基本法が制定され、国を挙げての取り組みとなった。だが、子供たちの味覚を養う教育となると、これまで日本ではほとんど行われてこなかった。

40年以上にわたって「味覚教育」を行っているのが、美食大国フランスだ。味覚の権威として世界的に知られるジャック・ピュイゼ博士が、子供の味覚を育てる理論を開発。それをもとにした「味覚を目覚めさせる授業」は、フランス全土の小学校で十数万人が参加しているという。

ピュイゼ博士の著書『子どもの味覚を育てる――親子で学ぶ「ピュイゼ理論」』(石井克枝・田尻泉監修、鳥取絹子訳、CCCメディアハウス)を読むと、人の味覚の多様性とともに、それを子供たちに教えるとはどういうことなのか、その意外な側面が見えてくる。

味覚の95%は「鼻」で感じている

色覚や視力、聴覚は通常の健康診断でも調べられるが、味覚や嗅覚が検査されることは、まずない。味覚とは一体どういうものなのだろうか?

専門家の間ではいまだに論争があるそうだが、味覚が「『多数の感覚』が混ざり合ったもの」だということは、はっきりしているのだという。なかでも嗅覚とは密接につながっていて、ある神経生理学者は、味覚とは「95%が嗅覚」で、残りの5%が味だとしている。それほどに、味覚に関する情報の大半は鼻から脳に入っているということだ。

確かに、風邪を引いて鼻がつまっているときには、何を食べても味を感じない。だが実は、味を感じないのではなく、嗅覚がない状態では「味でしか」感知していないのだ。人は食べ物を口にしたとき、まず鼻で匂いを、それから舌で味を感知する。それらの情報は複雑に混ざり合っていて、その感覚を専門家は「風味」と呼ぶそうだ。

実際には、嗅覚以外にも、温度による感覚や視覚、聴覚も、味覚に関わっている。熱いか冷たいか、どんな見た目なのか、そして食べるときの音といった情報だ。さらに、ツルツルしているかザラザラしているか、あるいはボリューム感や形といった立体感覚も、味覚に影響を与えているという。まさに「五感で味わう」ものが、味覚の正体なのだ。

そして味覚障害とは、「味を誤って感知したり、弱く感じたりすること」を指し、薬の服用や病気、事故などと結びついている可能性がある。最近日本で多く取り上げられているように、亜鉛不足による味覚障害も増えている。

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部