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韓国サッカーの低迷が止まらない。

ロシアW杯最終予選では格下カタール相手に33年ぶりに敗れるなど予選敗退も現実味を帯びていたし、なんとかW杯出場こそ決めたものの、10月7日と10日にロシア、モロッコと戦った親善試合では2-4、1-3で敗北。

合計7失点の連敗については、今年7月から代表を指揮するシン・テヨン監督も、モロッコ戦後に「このままでは、なぜW杯に出場したんだと言われるかもしれない」と嘆いていたほどだ。

“ヒディンク再就任説”を巡って浮上した疑惑

こうした中、韓国サッカー界では、“ヒディンク再就任”に関する話題が注目を浴びている。

2002年の日韓W杯で韓国代表を四強に導いたオランダの名将フース・ヒディンク監督が、韓国代表をサポートする可能性があるのだという。

事の発端は今年9月6日の夜、韓国のニュース専門テレビ局『YTN』が、「ヒディンク、韓国民が望むなら韓国代表を引き受ける」と報じたことだった。

この報道を受けて、韓国メディアでは一斉にヒディンク再登板の可能性が論じられるようになり、9月26日には韓国サッカー協会が「ヒディンク監督の助けを受けることを決めた」と発表した。

結果的にヒディンクは、ロシアW杯期間中にはほかの仕事があるとして非公式にサポートを行うことを表明したが、この話題は最近、新たな局面を迎えている。

ヒディンク側から前もって伝えられていた代表監督を引き受けるという意向を、韓国サッカー協会が意図的に黙殺していたという疑惑が浮上したのだ。

ヒディンクの代理人を務めるヒディンク財団のノ・ジェホ事務総長は、ウリ・シュティーリケ前監督が更迭された翌日の6月16日にヒディンクに、「危機に陥った韓国を助けることはできないだろうか」と打診。

2日後の18日には、「韓国がロシアW杯進出を決め、国民が望むのなら奉仕したい」という意思を受け取っていたのだという。

ノ事務総長は、その翌日には韓国サッカー協会のキム・ホゴン副会長(現在は技術委員長も兼任)にカカオトークと電話でヒディンクの意思を伝え、「今はW杯進出が懸案事項だから、予選突破後に協議しましょう」との返答を受け取っていたのだそうだ。

また、ノ事務総長は、6月26日にキム技術委員長が現職に就任した後にも、2度カカオトークを送ったらしい。

この時点でキム技術委員長がヒディンク側の意向を聞き入れていれば、ヒディンクの再登板が実現していた可能性もあったということだ。

しかし、キム副会長は、この一連のやり取りをうやむやにしようとしている。キム副会長の主張はこうだ。

「電話をしたことは記憶がない」

「カカオトークのメッセージを監督就任に関する公式提案とは考えられない。メッセージは、見た後には忘れていた」

双方の主張が行き違うと、10月13日には真相究明のために国政監査が行われるほどに騒動は拡大。責任を問われたキム技術委員長には、退任説まで持ち上がっている。

キム技術委員長は10月15日に開かれた記者会見で、「韓国代表の行く末が慌ただしいのに、この議論を続けるのはもどかしい。ヒディンク監督と協議がなされた以上、この問題についてはこれ以上騒がないでもらいたい」と問題から目をそらそうとしたが、現在も騒動は収まる気配がない。

“ヒディンク”というアンチテーゼ

気になるのは、なぜここまで“ヒディンク再就任説”が注目を浴びたのかということだ。

一つは、キム技術委員長がヒディンクの意向を独断的に黙殺したからだろう。

というのも、キム技術委員長とヒディンクには因縁がある。

キム技術委員長は韓国の五輪代表チームの監督を務めていた2003年に、当時韓国サッカー協会の技術顧問を務めていたヒディンクに対し、「金しか頭にない人間だ」などと発言。

さらに「はたしてヒディンク監督に技術諮問役としての資格があるのか聞きたい」「韓国サッカーに対する責任感があるのか疑問だ」などと、侮辱的な表現を交えて非難していたのだ。

侮辱発言の翌日には、ヒディンクが五輪代表チームに顔も出さなかったことに対する寂しさを吐露しただけだったと弁解していたが、それでも今回、ヒディンクの意思を無視したことにはきな臭さを感じざるを得ない。

ただ、より本質的な問題は、韓国サッカーの現状にあるのだろう。

韓国紙『スポーツソウル』のウィ・ウォンソク編集局長は、自身のコラムの中でこうまとめている。

「今回の騒動は、これまで韓国代表がロシアW杯最終予選の過程に見せた不安定なパフォーマンスと、代表チームを思うようにコントロールできなかったサッカー協会執行部のマヒした行政力、そして協会専任執行部による不適切な公金使用に対する警察の捜査発表などが重なり、積もりに積もった不満が“ヒディンク”という触媒を通じて爆発したものだと解釈できる」

“不適切な公金使用”とは、韓国サッカー協会のチョ・ジュンヨン前会長をはじめとした12人の役員が、2012年4月からサッカー協会の公金を私的に利用していた事件のことだ。

約1億1000万ウォン(約1100万円)に上る警察の捜査まで受けた韓国サッカー協会は謝罪文を発表したが、協会の威厳と信頼が地に堕ちたことは言うまでもない。

こうした協会への不信感と韓国サッカーの不振が重なったからこそ今回、“ヒディンク”というアンチテーゼに注目が集まったわけだ。

それは裏を返せば、韓国サッカーはヒディンクに頼るぐらいしか現状を打開する策を持ち合わせていないとも受け取れるだろう。
(参考記事:日本はもはや韓国サッカーをライバルとは思わない【スポーツソウル・コラム】

だが、現実には“ヒディング再就任説”は実現しなかったし、それどころか今回の騒動によって、韓国サッカー界にはさらなる混乱が巻き起こったのだった。

ますます泥沼にはまっていく韓国サッカーは、ロシアW杯までにこの危機を脱することができるだろうか。

(文=李 仁守)