上海上港戦に臨んだ浦和レッズのスターティングイレブン【写真:Getty Images】

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「久々だったかな、あれだけ時計を何回も見たのは」(槙野智章)

 浦和レッズが10年ぶり、日本勢としては2008シーズンのガンバ大阪以来、9年ぶりとなるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝進出を決めた。ホームの埼玉スタジアムに上海上港(中国)を迎えた準決勝第2戦を1‐0で制し、2戦合計で2‐1と振り切った。ハードワークと球際における激しい守備で強力攻撃陣を擁する上海を完封した、ハリルジャパンにも共通する泥臭いサッカーを具現化させた「守備の3ヶ条」を、DF槙野智章やGK西川周作の言葉から追った。(取材・文:藤江直人)

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 心技体のすべてがほぼ完璧なハーモニーを奏で続けた、サッカー人生のなかでも究極の会心劇と位置づけられる90分間だったのだろう。

 日本勢として9年ぶりの決勝進出決定を告げる主審のホイッスルが、埼玉スタジアムの夜空に鳴り響く。その瞬間に浦和レッズのDF槙野智章は両拳を強く握りしめ、腰をやや落とした体勢から何度も雄叫びをあげては、虎の子の1点を死守した末にもぎ取った勝利への喜びを爆発させた。

「やっぱり嬉しかったですからね。久々だったかな、あれだけ時計を何回も見たのは。全然進まなかったからね。それだけ時間が早く経ってほしいと思いながら、プレーしていました」

 4分間が表示された後半のアディショナルタイムが、とてつもなく長く感じられた。それだけに、勝利の瞬間に訪れた喜びは極上だった。上海上港(中国)をホームの埼玉スタジアムに迎えた、18日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第2戦。試合はいきなり動いた。

 司令塔・柏木陽介が放った左コーナーキックに、MFラファエル・シルバが完璧なタイミングでヘディングを見舞う。敵地での第1戦を1‐1で引き分けながら貴重なアウェイゴールを奪い、スコアレスドローでも決勝へ進出できるレッズが一気に優位に立った。

 もっとも、第1戦に続いて左サイドバックとして先発していた槙野は、気持ちを引き締めることを忘れなかった。

「一番怖かったのはキックオフのホイッスルが鳴ったときから腰が引けた、引き気味なサッカーをすること。試合前のロッカールームでもずっと言っていたことですけど、試合へのいい入り方と先制点を取れたことで、自分たちらしい試合運びができたのかなと」

大一番に向け用意した守備面での3つの対策

 上海上港のストロングポイントは、絶大なる存在感を放つブラジルトリオ。司令塔の現役代表オスカル、強豪・広州恒大で結果を残してきたFWエウケソン、そして元代表でフィジカルモンスターの異名をもつFWフッキ。彼らを封じることが、勝利への最も近い道になる。

 アウェイでの第1戦では、開始15分にフッキが先制ゴールを決めている。日本でもプレーした経験をもつ31歳のポジションは右ウイング。必然的に槙野とマッチアップするケースが多くなる。

 槙野を中心に映像を何度も分析したレッズの選手たちは、守備面で3つの対策を練って大一番に臨んでいた。まずはポジション変更を原則的に禁止したと、槙野が笑顔で説明してくれた。

「変にポジションチェンジをしないということは、みんなで話し合っていました。たとえば左サイドの僕と武藤(雄樹)選手のところでは、そのまま目の前の選手につく、ということを心がけていました。右サイドなら遠藤(航)選手と前のラファエル・シルバ選手の関係になりますね」

 レッズのフォーメーションは「4‐1‐4‐1」。左サイドバックの前には、左MFの武藤雄樹が配されている。ブラジルトリオを中心に自由自在に攻めてくる相手に惑わされ、ポジションを大きく離れてしまえば、それだけ相手に攻め込まれるスペースを生じさせてしまう。

 ボールホルダーに食らいつく守り方ではなく、あうんの呼吸でマークを受け渡しながらゾーン的に守る。そのうえで相手が自分のエリアに来たときには、前を向かせない、自分たちのゴールに近づけさせない、危険なエリアでファウルをしない――の3点を愚直に徹底し続けた。

 最後尾から味方の守りを見守った守護神、元日本代表の西川周作は、失点する雰囲気はなかったとばかりにこう振り返る。

「フッキ選手を含めて、相手の選手全員に対してみんなが厳しくいけていた。だから、そんなに危ないシーンを作られることもなかった。確かにボールはもたれていましたけど、相手の怖さというものは、みんなが消してくれたんじゃないかと思います」

昨シーズンのJリーグCS決勝で刻まれた悔しさが糧に

 次はフッキやオスカルが球際の激しい攻防を避け、中盤やボランチの位置まで下がったときは「放置しておく」ということだ。

「彼がボールをもって危険だな、と思ったときには僕がしっかりとマンマークでつきましたけど。彼が僕のことを嫌がって、ゴールから遠ざけるポジションでボールを受けるということに関しては、僕たちとしてはまったく怖さは感じなかったので。そのあたりは臨機応変に対応していました」

 こう語る槙野は最初に訪れた前半17分の1対1で、フッキを吹き飛ばしている。前半終了間際にフッキへのチャージがラフプレーと見なされ、イエローカードをもらっても、前へ出る際の強さやアグレッシブさが失われることはなかった。

 フッキやオスカルが肉弾戦を回避して下がっていく姿を見ながら、西川は昨シーズンのJリーグチャンピオンシップ決勝で刻まれた悔しさを脳裏に蘇らせていた。

「あのときの経験が、今日の試合で生きたんじゃないかなと。一番危険な状況を把握しながらの90分間だったので、チャンピオンシップは決して無駄じゃなかったと思っています」

 鹿島アントラーズと対峙した昨シーズンのJリーグチャンピオンシップ。敵地カシマサッカースタジアムでの第1戦を1‐0で制しながら、埼玉スタジアムに舞台を移した第2戦で1‐2の逆転負けを喫し、アウェイゴールの差で天国から地獄へと突き落とされた。

 第2戦の流れを変えたのは、前半40分に執念のダイビングヘッドで同点とした金崎夢生。相手のエースストライカーに大仕事をさせ、アントラーズ全体を乗せてしまったことで、後半34分に献上したPKを再び金崎に決められてしまった。

 だからこそフッキやオスカル、エウケソンに仕事をさせない、西川の言葉を借りれば「一番危険な状況を把握しながらの」試合運びが求められた。槙野を中心にミッションをほぼ完遂できたからこそ、前半12分にMFラファエル・シルバが決めた千金の一発を死守できた。

ハリルも「モダン」と評した浦和の戦いぶり

 そして最後が、チーム全体の守備において「メリハリをつけること」だ。1点のリードで迎えたハーフタイムでのやり取りを、槙野が明かしてくれた。

「もう少し前からボールを奪いにいきたいと前線の選手が言ったときに、バランスを見ていくところはいこうと。特に興梠(慎三)選手に徹底させたのは、前からボールを取りにいきたいという気持ちをしっかりと抑えさせて、スタート位置に対してチーム全体で共通意識をもつことでした。

 ウチの場合、60分以降になると体力的に厳しくなるところがあるので。そういうときには、興梠選手のスタート位置を下げようという話をみんなでしていたので、周りの選手との距離感や、最終ラインから興梠選手までの距離感は最後まで非常によかったと思います」

 前線の選手が積極果敢にハイプレスを仕掛けたいと意気込んでも、中盤や最終ラインの選手が連動しなければ全体が間延びして、大きなスペースを相手に与えてしまう。試合前とハーフタイムにしっかりと興梠慎三と意思の疎通を図ったことで、ピンチを未然に防ぐことができたと言っていい。

 そして、3ヶ条からなる戦いを愚直に貫いたことで、ハリルジャパンが6大会連続6度目のワールドカップ出場を決めた、8月31日のオーストラリア代表戦で見せた、たとえるなら「肉を切らせて骨を断つ」なサッカーを具現化できた。西川が声を弾ませる。

「相手にあえてもたせて、最後のところ、ゴール前でボールを奪ってからのショートカウンターという攻撃が、前半の段階からいけそうな感じがしていました」

 だからなのか、視察に訪れていた日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督はご機嫌だった。センターバックに入ったキャプテンの阿部勇樹、右サイドバックの遠藤航、そして槙野が魅せたデュエルの強さを称賛しながら、こんな言葉を残して会場を後にしている。

「守備のハードワークがすごかった。モダンなフットボールだった」

浦和にとって10年ぶりとなるアジアの頂点へ

 さあ、決勝へ。アジアの頂点をかけて対峙するのは、黎明期の横浜マリノスで活躍したJリーグの初代得点王、元アルゼンチン代表のラモン・ディアス監督に率いられるアルヒラル。来月18日に敵地サウジアラビアで、同25日には埼玉スタジアムで行われる2試合で雌雄を決する。

「決勝に来たからにはどんな相手も強いし、上手いし、怖さがあるチームだと思っています。ただ、ここまで来たからには自分たちもタイトルへ向けて死に物狂いで戦わないといけないですし、非常にいい分析をしてくれるスタッフがうちにはそろっていますので。

 あとはそのフィードバックを受けて、僕たちがピッチ上でいいプレーをするだけなので。第1戦はやっぱり環境ですね。ピッチを含めてさまざまな環境に慣れることが大事ですし、ピッチ以外のところでストレスを溜めないように、しっかりと準備できればと思います」

 ミハイロ・ペトロヴィッチ前監督時代のポゼッションスタイルから、いまでは完全に脱却。堀孝史監督のもと、ハリルジャパンをほうふつとさせるリアクションサッカーを身につけつつあるレッズが10年ぶり、日本勢としても2008シーズンのガンバ大阪以来となるアジアの頂点へ挑む。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人