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青森市の男性職員が、草むらに放置してあった自転車を修理して使っていたところ、警察に口頭で注意されるという出来事があった。青森市も「悪質性はないが、公務員として不適切な振る舞いだった」として口頭指導を行った。

地元紙の東奥日報(10月4日付)によると、男性職員はこの自転車を3年間使用。今年5月、無灯火で運転していたところ、警察の職務質問にあい、拾った自転車であることが判明した。

捨ててあったものを修理して使うのは、美談とも言えるが、放置自転車を自分のものにすると、刑事罰を受ける可能性がある。今回の職員はどうして注意だけで済んだと考えられるのか、犯罪との境目について坂野真一弁護士に聞いた。

●所有権が放棄されたものなら良いけど…どうやって意思を確認する?

放置自転車を拾った場合、どういう状況なら犯罪になりうるのだろうか。坂野弁護士は次のように説明する。

「放置された自転車が、占有者(≒持ち主)の意思に基づかずに占有を離れ、誰の占有にも属していない状況(たとえば、持ち主から盗まれて窃盗犯人が捨てた自転車)であれば、遺失物等横領罪(刑法254条)に該当する可能性があります」

これに対し、自転車の持ち主が自らの意思で捨てていれば、犯罪にはならないという。

「この場合、占有者の所有権放棄の意思がありますから、当該自転車は無主物(所有者のいない動産)となり、民法上は無主物先占(民法239条1項)により、先に所有の意思を持って占有した人が所有権を得ることになります。分かりやすく言えば、拾ったもの勝ちということです」

この場合は、「占有者の意思に基づかないで自転車の占有が失われた」わけではないので、遺失物等横領罪には該当しないという。ただし、その自転車が放棄されたものかどうかを確認するのは難しい。

「たとえば、商店の在庫処分で、『ご自由にお持ち帰り下さい』と書かれた段ボールに入っている食器をもらってくる場合は、持ち主の所有権放棄の意思が明確ですから何ら犯罪にはなりません。

しかし、自転車が放置されていると言うだけでは、持ち主の意思は明確ではありません。したがって、新品に近い自転車や電動自転車、競技用自転車のように価値が高いと思われる自転車、鍵が壊されているような自転車については、安易に捨てられていると判断することは危険です。古くて壊れた自転車であっても、捨てられたものとは限りません」

こうしたリスクを避けるためには、遺失物として届け出るのが無難だ。もし持ち主が出てこなければ、自分のものにすることもできる。

「放置自転車を自分のものにしたい場合は、遺失物として届け出て、広告後3か月以内に持ち主が名乗り出なかった場合に所有権を得るという方法が考えられます(民法240条)。

ただし、自転車については遺失物法9条2項1号により特則が定められており、広告の日から2週間以内に遺失者が判明しない場合は、警察署長による売却が可能です。

売却があった場合は、その代金から売却にかかった費用を控除した残額を物件とみなすことになっています(遺失物法9条4項)。持ち主が現れない場合は、拾った人は残額のお金を取得することになります。したがって、自転車を遺失物として届け出ても、必ずしも自転車を得られるとは限らないことに注意が必要です」

以上からすると、この市職員は遺失物等横領罪に問われる可能性もゼロではなかったようにみえる。どうして、警察は注意だけで済ませたのだろうか。

この点について、坂野弁護士は、「詳しい事情が不明なので確たることは言えませんが、そもそも処分の必要がある悪質な態様ではなかったのだと思われます」と推測する。

「このほか、自転車が壊れていたことや長期間放置されていたなどの事情から、持ち主が所有の意思を有していたのか明確ではなかったのかもしれません。

遺失物等横領罪の公訴時効期間は3年なので、公訴時効期間が経過していた可能性もあるように思われます」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則(中央経済社)」。近時は火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/