野町 直弘 / 株式会社クニエ

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現在行われている選挙戦の中である政党党首が「愚直に」という言葉をよく使っています。果たしてこの方やこの政党が「愚直」なのか、ということを考えるととても複雑な心境です。

というのは「愚直に」というのは私がとても好きな言葉だから。

10年前位の調達革新大会の場面だったかと記憶しています。
普段はそういう公の場で講演をする機会はあまり多くないトヨタ自動車の調達担当常務の方がこうおっしゃっていたのです。
「トヨタは何か特別なことをしているわけではない。単に決められていること、やらなければならないこと、やってはいけないこと、こういうことを明確にして『愚直に徹底的にやり抜いている』だけだと。」

私は20年以上調達購買コンサルをやっていますが調達購買が進んでいると言われる企業が何か特別なことをやっているかというとそんなことはありません。
「基本相見積を取る」「コスト分析を行って価格妥当性を評価する」「サプライヤ戦略を持ち関係性強化をはかっている」「開発や要求部門に対して購入品仕様の最適化提案をしている」「ちゃんと費用対効果を検討して無駄な買い物はしない」など・・

どれも基本的な取組みですが、こういう取組みをちゃんと徹底しているかどうかが重要です。どれも難しいことではありませんが徹底することは案外難しい。また、それを「愚直に徹底的にやり抜く」のはとても難しいことです。

ファーストリテイリングの現社長である柳井正さんが「経営者になるためのノート」という本を出版しています。この本には経営者はこうあるべき、という示唆がいくつも書かれています。その中の記述で私が好きな言葉がこれです。
「あたり前のことを徹底して積み重ねる」ことが重要。「本当の儲ける力とは、こんな地道なことが徹底してできるところにあるのです」と。

正に「愚直に徹底してやる」という内容です。柳井社長はこれが経営に必要だとおっしゃっているのです。そう考えると購買も経営も同じだということに気がつきます。確かに経営というのは最小のコストで最大の収益を上げることですから、当たり前なことでしょう。

繰り返しになりますが調達購買という業務は難しい業務ではありません。どんな業種だろうがどんな購入品であろうが、基本的な買い方は変わりません。

しかし気を抜くとブロックで殴られてしまいます。(ある友人バイヤーの言葉です。)つまり様々な事件や事案が起こる業務です。
常に緊張感を持って仕事をしていないと欠品、品質問題、サプライヤの倒産などなどトラブルが起きるのです。

これも愚直に徹底的に予見しなければなりません。
優秀なバイヤーはこの予見能力やトラブル対応力が極めて高いのが特徴です。

優秀なバイヤーに共通するもう一つの特徴は「競争と協調のバランスのとり方が上手い」という点でしょう。これも常に緊張感を持っていないと上手く作っていけません。単にコストを下げられるだけ下げればよいかというと、そういう訳ではないでしょう。
一方でサプライヤとの関係性を作りサプライヤのモチベーションを引き上げられなければ低コストは長続きしません。

このように優秀なバイヤーに共通する2つの要件を上げましたが、これらは会社や業務の仕組み(制度、規定、プロセス、ITなど)だけで作ることは難しいです。個々人の人間としてのパーソナリティや人間力(魅力)、熱意など、こういうものが欠かせません。
つまり人間力や熱意の重要性が高いのがバイヤーなのです。

逆に人間力を養うには調達購買の経験が有効であるとも言えます。若いうちから会社を代表する立場として言動する、サプライヤとの関係性を構築する、様々なトラブルを予見し未然に防いだり、トラブルが起きた時に社内外含む関連者を巻き込んで最適な対応をとる、このような経験が将来役に立たないはずがありません。

私の持論ですが会社経営を担うような人材は「必ず調達購買の仕事を一回は経験させる」というキャリア形成は人材育成上も非常に有意義なことでしょう。そういう経営者が多く輩出されることを今後期待しています。